六軒島戦隊 うみねこセブン番外編

  〜蒼き戦士グレーテル物語〜


 第一章 渦巻く闇

 紫色の服を纏った魔女がケーンから眩しい閃光を放った。 その光は真っ直ぐに赤いバトルスーツの青年の胸を貫く
 「…う…うがぁっ!!!?」
 「…え…? 嘘…いやぁぁぁああああああっっっ!!!!」
 青年の苦痛の声と物陰に隠れ戦いを見守っていた幼い少女の悲鳴が響いた、青年は少女にほとんど声にならない声で逃げろと言うとドサッと崩れ落ちる
 「…お…お兄ちゃぁぁぁああああああんっっ!!!?」
 「…うふふふふ…心配しなくてもあんたもすぐに後を追わせてあげるわよぉ?…ん?」
 魔女がケーンを少女に向けたその時、別の魔女が現れ彼女を制止した
 「…これ以上はやりすぎですエヴァ! 我らの目的は人間の虐殺ではないのですよ!?」
 紫の魔女――エヴァはふんと面白くなさそうに鼻を鳴らすが渋々という様子でケーンをおさめた、納得はしていないようだがせっかくの勝ち戦なのに味方と争って無駄に怪我などしたくはないのだろう
 「…分ったわよ! 帰ればいいんでしょう?」
 くるりと向きを変えて今度は転位魔法を使うためにケーンを振う、そして二人の魔女は少女の前からその姿を消したのだった……



 「……無力な自分ってムカつくわよね?」
 「…はっ?」
 唐突に縁寿に言われたエプロン姿の天草は朝食をテーブルに並べる手を止めてしまう。 いつも不機嫌そうな顔の縁寿だが今朝の彼女は特別に機嫌が悪そうに見える、きっと悪い夢でも見たのだろうと天草は想像している
 「…あの時あたしにこの力があれば兄さんは死なずに済んだ…でもそれはあり得ない仮定ね…」
 縁寿の持つ”コア”は元々戦人の物だ、つまりは戦人の死なくして縁寿はこの力を持つことはないのである。 そしてこの言葉で天草は彼女の兄が死んだ時の夢でも見たんだなと確信した
 「それでお嬢はファントムと戦い続けて、そしてベルン何たらって魔女に会って過去へ来たんですよね?」
 「…過去を変えてみないかってね? ま、怪しいもんだけど…他にどうしようもなかったから…」
 ベルンカステルの甘言に乗って良かったのかという疑念はいまだにある、しかし何であれ過去へは連れてこられ兄達が生きている間にファントムを倒すチャンスを得たのは確かである
 「…でもまだまだ力が足りない…こんなんじゃファントムを倒すなんて無理よ…」
 「お嬢は未来で戦ってきたから分るんですねぇ…俺にはお嬢は十分強いと思いますけどねぇ?」
 「…あたしじゃまだ幹部クラスには勝てないわ…ロノウェって奴の【シールド】は【天使の双刃】でも斬れなかったもの…」
 その時のことを思い出したのか悔しそうな顔になる、一方の天草は驚いた顔をする
 「幹部クラスと戦ったことがあるんですかい?…って未来の話ですよね?」
 「…そうよ、まぁ、微妙に手加減されてったぽいけどね? あいつらの強さは半端じゃないわ…」
 天草自身はかつて黒山羊に立ち向かってみたことはあったが結果は惨敗、普通の銃器が通用しないうえに身体能力も格闘家のそれをを遥かに凌駕しているのである。 とても勝てる相手ではない
 黒山羊でそれなのだから幹部クラスの強さなど考えただけでぞっとする、もし縁寿らで勝てないなら人類で勝てる者はいないだろう
 (…逆に言うとそんな連中に物量戦でこられるとアウトなんだよな〜)
 何か理由があるのかそれとも単にこちらを舐めているだけなのか分らないが、とにかくそんな事になっていないことを幸運に思う天草だった


 「…お呼びでしょうかワルギリア様?」
 「…ええ、よく来てくれましたナマコ・ダ・ガマ…」
 ワルギリアの前に現れたのは黒い忍者のような装束で背後に巨大なカエルを従えた悪魔だった、彼は見たとおり?の忍者であり戦闘だけでなく諜報活動も得意とする者である。 ワルギリアはそんな彼に謎の戦士グレーテルの調査を任せようというのだ
 「……調査はくれぐれも慎重にお願いしますね? 間違っても無用な騒ぎや犠牲を出すことのないよう…」
 「無論でござる、そのようなこと三流以下の忍のすることでござるよ」
 自信たっぷりに言うナマコだったがワルギリアはどうにも不安でならない、しかしルシファー達は対うみねこセブンに集中させたいし現状で諜報活動向きの幻想怪人もいないとなると彼のような者に任せるしかないのである
 ファントムもそれ程余裕のある組織ではないことをワルギリアは改めて痛感するのだった
 そして同じ頃にロノウェとガァプもまたグレーテルに対する対策を話し合っていた、正確に言うとセブンに対する相談をしていて話題がグレーテルに移ったと言う方が正しい
 「…白き刃【天使の双刃(エンジェリック・ツインブレード)】ですか、ヨーダ兄弟を一撃のもと斬り捨てる威力は脅威ですな?」
 「…しかもそのブレードをブーメランみたく投げ飛ばしたり、バリアみたいなものまで張ったらしいわよ…攻防ともに隙がないわね」
 二人はグレーテルの戦闘力を七姉妹クラスと見積もっている、勝てない相手ではないが油断をすればやられる可能性もある。 その意味ではエヴァが撤退したのは悪い判断ではない、しかし…
 「…出来れば単独行動している間に仕留めたいわね、セブンの連中と共闘されたらやっかいよ?」
 そのガァプに同意見のロノウェも頷く。 ワルギリアが彼女のことを調べるとは言っていたがあまり悠長に構えてもいられないかも知れない

 …この日の夜は黒雲が空を覆い不気味な空模様であった、そんな空の下ビルの屋上に佇む人影があった
 「…あの子が未来から送ってきた駒、グレーテル…ね?」
 暗くその表情は伺いしれないが声の感じからすると面白そうという風に聞こえる。 そんな彼女の背後に別の影が現れた
 「…来たわね悪魔ババルウ。 あんたのターゲットはグレーテルよ?」
 「…御意」
 一言それだけ言うとババルウは姿を消した、優秀で残忍な悪魔である奴ならデータ収集をしながら楽しい舞台を見せてくれるだろうと期待する。 その時雲の隙間から月明かりが漏れる
 月明かりに照らさてピンクの服を着たその人物の姿が現れた、金髪で幼さすら残すその顔を残忍そうに歪めほくそ笑んでいる
 「…うふふふふふ…あははははははっ!!」
 やがて笑い声が響くとその姿は夜の闇に溶け込むように消えたのだった





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  〜蒼き戦士グレーテル物語〜


 第一章 渦巻く闇その2

 薄暗い地下射撃場に蒼い閃光が走り山羊男型の的を撃ち抜く
 「…どうだ【スナイパー・イーグル】の調子は?」
 「…悪くはないです、調整も完全のようですね?」
 金蔵に対しそう言う天草だったがその顔はどこか不満そうである、気になった金蔵はその理由を訊ねてみた
 「…まずコア・エネルギーがフルチャージでも十発が限度ということ…さらに一発撃ったら次のビームを撃つまでの再チャージに約五秒…名の通り狙撃用ですな?」
 さらに問題なのはエネルギー・コンデンサーへの充填に半日を要することである、これでは縁寿を援護するのに十分とはとてもいえない
 「…仕方あるまい、我らの技術では…な」
 金蔵も孫達を支援するためにもすぐれた装備の開発を急いでいる、しかし縁寿からもたらされたデータがあっても簡単にはいかないのが現在のテクノロジーである
 「…今のお嬢は危うすぎる、死を恐れては確かに戦えない…しかしそれは自分の命をぞんざいに扱うってことじゃないんだ…」
 ファントムを憎悪するあまり自身の命を守るということを軽視しているように天草には思える、そんな縁寿であるからいつか玉砕特攻でもやりかねないという不安を覚えていた
 「…ずいぶん縁寿に親身になっているな?」
 「そうですかい? ま、お嬢に死なれたら護衛の名折れですしね」
 天草は苦笑しながらそう言うのだった

 縁寿は町を歩くのはあまり好きではない。 歩くと言う行為そのものはいいのだがそうしていると嫌でも目につく平和な町の光景、迫っている脅威も何も知らず平和を享受する人々…もちろん彼らの何が悪いわけではないが、それでもどこか面白くないと感じてしまう
 「……つけられている…?」
 背後から感じる人ならざる者の気配、ファントムが偶然この場所にいるのか正体を気がつかれたのかは不明だが放置しておく気は縁寿にはなかった。 適当なところで脇道に入る
 「…まだついてきてる、正体がバレた…?」
 そうなら由々しき事態である、しかし一般人を狙った作戦に偶然自分が選ばれた可能性もあり迂闊に変身して先制攻撃していいものか多少悩むとこである。 そしてしばらく歩き続け人気のない川原を見つけるとそこにかかっている鉄橋の下で立ち止まった
 「…そう警戒するなよ縁寿?」
 「…なっ!?」
 そこでかけられた声にぎょっとなる、それは兄である右代宮戦人のものだったのだ
 「…聞いたぜ、お前が未来で辛い目にあったってな」
 そう言いながら戦人が歩いてきた、その信じられない出来事に縁寿は茫然とするしかない。 金蔵には自分の事は話さないよう言ってあるはずなのだ、そして彼は軽々しく約束を破るような人物ではない
 「…だがもう大丈夫だぜ? これからは俺達が一緒にいてやるよ、ず〜っとな?」
 「…え?…あぐっ!?」
 戦人の言葉と同時にヒュンという音が響き次の瞬間縁寿が脇腹を押えて苦痛に顔を歪めた
 「…かわしたか? 感のいい奴だぜ」
 「…に…兄さん…?」
 【ガン・イーグル】の銃口を縁寿に向けた戦人は恐ろしい程凶悪な表情をしていた、そんな兄を縁寿は信じられないという顔で見つめている
 「…お前のせいで俺達は戦いに巻き込まれた、お前さえこの時代に来なければ俺達は普通に生活していたんだ!」
 「ち、違う!…ぐっ…」
 縁寿の服の脇腹辺りが赤く染まっていく、直撃こそ避けたが少し深めに抉られたようだった
 「…ファントム…は…必ず襲ってくる…わ、誰かが…戦わなきゃ…」
 「俺達である必要があったのか!? いや、お前が一人で戦っていれば良かったんじゃねえかぁ!?」
 「きゃぁぁあああっ!!?」
 再び【ガン・イーグル】から発射された弾丸が今度は左肩を撃ち抜く、堪らずに膝をついてしまう縁寿だったがそれでも必死の顔で戦人を見据える
 「あたしだって兄さん達を巻き込みたくはなかったっ!! でも…でも…え?」
 その時蒼い閃光が戦人に命中した、驚愕に目を見開いた縁寿に天草の声が聞こえた
 「しっかりしてくださいお嬢!! そいつは偽物ですぜっ!!」
 「…蒼いビーム…?…【スナイパー・イーグル】が完成したの…?」  
 「…ちぃっ! 余計な邪魔が…」
 続いて飛んできた蒼いビームをサイドステップで回避すると天草の走って来る方向とは反対へ向かい駆け出す。 天草は追撃も考えたが目の前で出血している縁寿を見てそれを断念する
 「…直撃だったはずなのになんて奴だ…お嬢っっっ!!?」 
 「…天…草…?」
 そして天草が来たことで安心し気が抜けたのか縁寿はそのまま意識を失ってしまうのだった
 
 
 …始めて戦った時は怖かった。 兄の”コア”で得た白い双刃の力で兄達の仇を討つと誓ったのは嘘ではないがそれでも命のやり取りをするというのは子供であった縁寿には恐ろしいことである、兄に助けてと祈ったのは一度や二度ではない
 しかしそれにも勝るファントムへの憎悪が彼女を動かし立ちはだかる敵を何人も斬ってきた、そうしているうちに恐怖という感情を感じなくなっていた、感覚がマヒしてきたのだろうと縁寿は思う
 そんな縁寿が久々に感じた恐怖、それは兄達を巻き込み平穏な生活を奪い死なせるかも知れないという事実を突きつけられたことによるものだ。 あるいは罪の意識なのかも知れない…

 
 縁寿が気がついたのは自分の部屋のベッドの上だった、起き上がろうとして肩と脇腹に痛みが走る
 「…っ!…そうか、あたしは…兄さんに…撃たれて…」
 その事実は縁寿にとってショックであった、天草が偽物と言っていたことを思い出すまで唇を噛みしみていた。 それでも兄の姿で撃たれたという衝撃は簡単には拭えないものである
 だからこそ兄の姿をした偽物への憎悪が湧いてくる
 「…誰だか知らないけど絶対に許さない…必ず見つけて、この手で…殺す!」
 拳を握りしめながら誓う縁寿の瞳を天草が見ていたら彼はぞっとしたであろう、そのくらい憎悪に満ちた目をこの時の縁寿はしていた……





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  〜蒼き戦士グレーテル物語〜


 第一章 渦巻く闇その3

 縁寿の負傷はもちろん大変なことではあるが、それ以上に問題なのは縁寿に対し戦人の偽物をぶつけてきたことである。 これは縁寿の正体を知らなければ出来る作戦ではない
 「…だからどうしてもあいつを捕まえて真相を聞き出さないと…そして殺す…」
 病院で手当てを終えた縁寿はアパートに戻るなりそう天草に言う、当然彼は反対する
 「…って、怪我だって完治してないのに無理ですって! ちゃんと金蔵さんには報告しましたし向こうで対策は考えてくれるはずですぜ! 本来なら入院していなきゃいけないんですよ!?」
 「そんな場合じゃないって言ったでしょう!? あたしが何とかしないと兄さん達にだってどんな危険が及ぶか…だからあたしがっっっ!!」
 「…お嬢」
 ファントムへの憎しみだけではない、縁寿は自分自身も憎んでるのではないかと天草は思う時がる。 大事な人達が死ぬ時に何もできなかった無力な自分が赦せなくて、だから何も取り戻せないかも知れないと思いつつもがむしゃらに戦場に立とうとするのではないかと…
 「まったく…分りましたよ、しかしせめて今日一日は大人しくしていてください…金蔵さんから何か情報があるかも知れませんしね?」
 引っ張ったいてでも縁寿を止める事もできる、しかしまともにファントムと戦う事も出来ずまだ年端もいかない子供たちに人類の未来を背負わせている大人にいったい何が言えるのだろうと思う、そしてこんな少女の心にここまでの闇を棲まわせる未来の世界とやらを想像し絶望に近いものを感じた
 「…分ったわよ…あ、そう言えば天草、あんたどうしてあいつが偽物だって…?」
 「ん? ああ、簡単ですよ。 お嬢の大事な兄さんがお嬢を傷つけるはずないですぜ?」
 「…なっ…!!?」
 真顔でしれっと言われ縁寿の顔が真っ赤になる、そしてそんな簡単なことに気が付かなかった自分が急に恥ずかしくなってしまった
 
 日が暮れて数時間、世界はすっかり闇に覆われその中に人の作りだした多くの光が浮かぶ、そんな人工の光を忌々しげに見つめる者がいた
 「…あそこか、ラムダ様の言っていたアパート…」
 黒い身体に白く無表情な仮面を付けた悪魔――ババルウは呟く。 彼の使命は右代宮縁寿の抹殺である
 「…人間だけが生きるのに都合の良いこんな光など私がすべて消し去ってくれよう、そのためにもまずは右代宮縁寿…死んでもらうぞ」
 その姿が夜の闇よりさらに深い漆黒に変わりやがて一人の青年――右代宮戦人の姿になった…

 縁寿は未来より様々な技術を持ってきた、魔術を応用したセキリュティ・システムもその一つである。 そしてそのシステムが敵の存在を感知すると彼女は素早く飛び出す
 「コアパワー・チャージオンっ!! チェンジブルーっ!!」
 「お嬢っ!!」
 走りながら変身するとグレーテルは夜道をさらに走る、民家の近くでは戦いづらいため近くにある公園へ敵を誘い出すためだ。 五分ほどで目的地に到着するとグレーテルの前に人影が現れる
 「…奇襲で一気に決めようと思っていたが…面倒なセキリュティ・システムだな?」
 「…まだ兄さんの姿でくるのね! ファントムっ!!!」
 「ふん! 私をあんな甘ちゃん軍団と一緒にするなよ?」
 心外そうに言い返す偽戦人に縁寿は驚く
 「…ファントムじゃない…ね、じゃあ何者?」
 「さてな…これから死ぬ者にはどうでもよかろう?」
 「…あんたがファントムならあたしはあんたを生け捕りにしなきゃいけない、でも違うならあんたをこの場で殺せるのよ?」
 その言葉の意味を偽戦人は測りかねたがすぐにある事に思いいたる
 「…成程、安心しろ、ファントムはお前らの正体は知らん…これで満足か?」
 「…ええ、安心したわ…【天使の双刃(エンジェリック・ツインブレード)】!!!!」
 ブレード展開と同時に地を蹴る、対する偽戦人も右腕にブレードを出すと反撃に出る
 「その鬱陶しい姿をさっさと消しなさい!!」
 「ふん…兄の姿は戦い辛いか?」
 グレーテルの打ち込みを捌きながら言う、もっともそのためわざわざこんな人間の姿をしているのだからそうでなくては困る
 「あんた達みたいなのが兄さんを殺して…そのあんた達が兄さんの姿を騙るのを赦せるわけないでしょうっっっ!!!!」
 「…未来の兄か…だがそれも戦場でのことであろうがぁっ!! 戦士ならば討たれる事も覚悟するのは当然、そんな甘い根性で戦場に立つなっっっ!!!!」
 「そっちから攻めてきておいて何を言うのよっっっ!!!?」
 「生きるためには誰しも戦うものであろうっ!!? 我らだけではない、人間にだけ都合のいい文明がどれだけの自然を壊し、動植物を滅ぼしていると思っているっ!!!?」
 「…なっ!!!?」
 一瞬の動揺がグレーテルの剣を鈍らせた、その上急に脇腹が痛み出す。 二人の間を蒼いビームが過らなければグレーテルは斬られていた
 「お嬢っ!!!?」
 「…ちっ! 邪魔を…何っ!!?」
 自分に剣が向けられても天草に迷いも動揺もない、冷静にチャージ終了と同時に第二射を撃つ。 ビームは真っ直ぐに偽戦人を撃ち抜いた
 「ぐ…ぐぉぉぉおおおおおおおっっっ!!?」
 致命傷となる威力ではないがそれでも人間で言えば手足にナイフを刺された程度のダメージにはなる。 苦痛に歪んだ顔が黒く染まりやがて白い仮面へと変りババルウはその正体を現す、そし今度は彼の方が隙を作り出した
 「たぁぁぁあああああああっっっ!!!!!」
 「うごぉぉぉおおおおおおおおおっっっ!!!!?」
 グレーテルの突き出したブレードがババルウの胸を貫く、最後の力を振り絞り振りあげたブレードも天草に腕を撃ち抜かれて力くダランと下がるのだった
 「……くっくっくっく…まあいい…お前達は…そうやってすべてを滅ぼしつくす自滅の道を…歩む…がいい…がぁっ!!?」
 断末魔の声を上げてババルウは黒い粒子となり消滅していった、その姿をグレーテルも天草も茫然と見つめていたのだった……

 
 縁寿に勝利の高揚感はまったくなかった、どことなく釈然としないものを抱えたままアパートに戻る
 「…天草…ありがとう、助けてくれて…」
 「ま、仕事ですからね…」
 「そうよね…仕事…なんだもんね」
 何かを期待していたのか天草の返事にがっかりしたような顔をする、そんな顔を見て天草はミスッたなと思った
 「…でもまぁ…だからお嬢も遠慮はいらないですぜ? 俺のこと好きにこき使ってくれていいです。 こう見えて結構義理がたいんですぜ?」
 そうだろうと縁寿は思う、でなければこんな身勝手で可愛げのない娘に付き合って戦おうなどとは思わないだろう。 そこでふと自分はこの天草という男の事を何も知らないのに気が付く、唯の護衛でありそれ以上の事は知ろうとも思わなかった 
 「…それでいいんですよお嬢」
 「…え?」
 「戦場では敵は敵…それ以上は知る必要はないんです、必要以上を知ってトリガーを引けなくなった奴は…死にます。 味方もまたしかり、必要以上を知ってその死を悲しむ必要はないんです…自分が生き残るためには邪魔にしかならない…」
 まるで心を見透かした様な言葉に縁寿は驚く、しかし天草はそれ以上は何も言わないのだった…


第一章 終


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