※この番外編は26話の頃を想定しています。可能な限り本編の展開に近付けて構成していますが以降の物語が同じ流れになるとは限りませんので御了承下さい。…特にヱリカのキャラはかなりの確率で変化すると思われます(笑)



雷鳴の轟く夜に Tea party



ルー「あ、ヱリちゃん久し振り〜♪」

ヱリカ「ヱリちゃん言うな!…て言ってもあなたのことですから言うだけ無駄でしょうね。…お久し振りです、ルーフィシス」


魔界のとある田舎町の料理店で出会うルーフィシスと古戸ヱリカ。
偶然…と言う訳では無く、お互い面識がある二人は久し振りに旧交を温めようと今日ここで待ち合わせていたのであった。


ヱリカ「料理はもう頼んでいたのですね。何を食べているんですか?」

ルー「たぬきうどん、ってやつ。メニューで始めて見たから試しに頼んでみたんだけど…失敗だったみたい。フツーだよこれ!」

ヱリカ「…文化圏の罠ってところでしょうか。なら、わたしはきつねうどんにでもしましょう」

ルー「あ、じゃあ油揚げちょーだい♪」

ヱリカ「ただのかけうどんになるから駄目です!って、その左腕どうかしたのですか?」

ルー「まぁ、ちょ〜〜〜っと派手な一戦をやらかしちゃってね。手強かったわぁホント」

ヱリカ「それは災難でしたわね。…って、作法としてはどうかと思いますけど片手でも器用に食べるわねあなた。箸を持ったままお冷やうどん出汁を飲むなんて始めて見ましたよ」

ルー「まぁ仕事柄、負傷するのはよくある事だからねー。片手で食べるのも手馴れちゃってるんだ」

ヱリカ「そうなんですか?私が知る限り貴女がそれほどの手傷を負っている姿は始めて見ますけど」

ルー「普段は捻挫や打撲程度だから2、3日家で安静にして休んでれいば済むって話だけど…今回のこれは骨折だからね。不覚を取った事を衆目に晒す事になっちゃうけど直ぐには直せないからしょうがないよ」

ヱリカ「あらあら、中立派の重鎮の懐刀、『凶雷のルーフィシス』も地に堕ちたものですわね。…まぁ、七対一では流石に無理もありませんでしたか?」

ルー「なぁんだ。やっぱり知ってたんじゃないヱリちゃん。そうなの、一人二人なら余裕であしらえるかな〜とか思ってたらいきなり全員集合!で、その後フルボッコになっちゃったってわけ。何て言ったらいいかなーこの悔しさ」

ヱリカ「油断大敵ってところかしら。…でも、貴女ほどの使い手が何も得られずに逃げ帰って来るはずは無いでしょう?」

ルー「うん。一応うみねこセブンの正体とか弱点とか、潜在能力の上限とか、データバンクの全情報とか。性質の悪い蒼髪ツインテが知っちゃったら3日で制圧出来るぐらいの情報は掴んだつもりだけどね」

ヱリカ「…へぇ。それは興味深いですねぇ、ウチの使えない連中のいい加減なにわか情報よりも信頼度も鮮度も実に活きが良さそう。どう?その情報、友人の誼でその性質の悪い蒼髪ツインテに売ってくれないかしら、ルー。報酬は弾みますよ?」

ルー「あはは、ヱリちゃんが『ファントム』の幹部になる前だったら女の子トークで教えちゃってもよかったんだけどねー。…今のお互いの立場では、ちょっと無理かな」

ヱリカ「それは残念。ベアトリーチェの後釜を任された身としては早急に成果を出しておきたいところですが…ここで貴女の口を強引に割らせる行為は『中立派』が全面的に『ファントム』に敵対するリスクを孕んでしまうでしょうから利口とは言えませんね。…それがどうした、と言えない戦力しかないとは…本当に、今の『ファントム』には優秀な手駒が足りませんわね」

ルー「早くも中間管理職の悲哀だねぇヱリちゃん…。ああ、その辺りで一つ忠告。前任者の方針が気にくわないからってあんまりムキになって改革を進めて部下に鞭を入れ過ぎるのは良くないよ?」

ヱリカ「あら?山羊の虐待がもう噂になっているんですか?そちらの情報網も馬鹿に出来ませんね」

ルー「だ・か・ら、それだけ目立つ行動だってことなのよ。『中立派』も『穏健派』も今の『ファントム』は何をするか分からないって不信感を一層強めてる。これまでみたいな様子見では無く…直接アクションを起こすかも知れないよ。解放軍気取りな『彼等』も」

ヱリカ「ふふふ、やっぱりお人好しですわねルーは。そうやって友人としての忠告のつもりでしっかりと私に情報を流してくれている。そういうところ、嫌いじゃないですわ」

ルー「うー。脳筋ってほど馬鹿じゃないつもりだけど、外交交渉は苦手なの。と言うより、私は卿の大魔女様と違って外見通りの年齢のお子様なんだから政治的駆け引きなんてものはまだまだ雲の上の会話なんだってば」

ヱリカ「あっははは、貴女って本当にアンバランスな子ね。策士顔負けな演技が出来るかと思えば時折素だったり。暗殺者顔負けな殺気を放つかと思えば歳相応の小学生な無邪気さを見せたり、面白いわね。これだから貴女とはいい友人でいられるわ…ねッ!」

ルー「おっとッ!?」


何気ない会話の語尾が鋭くなった直後に一瞬で交錯される魔剣と蒼い大鎌。
ルーフィシスの首筋には大鎌の刃が。
ヱリカの喉元には魔剣の剣先が。



…完全に殺し合いの空気に様変わっているにも関わらず、お互いの表情には笑みがこぼれている辺りは普通の精神の在り方とは掛け離れた者同士ならではな狂気のコミュニケーションである。


ルー「奇襲に大鎌は向いてないってば。銃の方がよかったんじゃない?」

ヱリカ「ふふ、それじゃあいまいち絵にならないじゃないですか?それに、この服って早撃ちするにはひらひらし過ぎてるんですよねぇ」

ルー「じゃあ何でそんな戦力ダウンな服をわざわざ着て来てるの?ヱリちゃんにそんな趣味あったっけ?」

ヱリカ「…まぁ、色々と事情はあるんですよ。さて、折角ですからこのまま少し『遊び』ましょうかしら、凶雷のルーフィシス?」

店長「こらぁ、そこの嬢ちゃん達!喧嘩すんなら表へ出やがれ!俺の店の備品を一つでも壊しやがったら三途の川に叩き込むぞッ!!」

ルー&ヱリカ「「…はぁい」」


髑髏の様な怪しい仮面を被ったア・サシン店長の強烈な一喝によって店を追い出されるルーフィシスとヱリカ。
互いの武器を納めた二人は次の店に向かおうという話となり肩を並べて夜の街を歩き始める。


ルー「それで、ヱリちゃんはうみねこセブンとどう戦っていくつもりなの?」

ヱリカ「別に。どうと言う事はありません。ミラージュ様の理想を阻む邪魔者は、欠片も残さず殲滅するだけです」

ルー「…足りてないんでしょ、手駒。いくらヱリちゃんでもナイトやルークに該当するだけの実力者が居ない今のままだと…間違いなく苦戦するよ?」

ヱリカ「確かに、体裁上大言は吐いておくつもりですが、実際に全員を片付けるにはそれなりに手間取ることになるだろう、という事は認めますわ。…ふぅ、あなたが2、3人始末しておいくれていれば随分と楽になったのに。…どうせ何度かは仕留めるチャンスをわざと棒に振ったのでしょう?そうでなければ…相手の器量の底の底まで見抜くなんて無駄な情報は得られないはずです」

ルー「…ふふ、やっぱり鋭いな〜ヱリちゃんは。ベアトリーチェの後任として最前線を任されるのも納得だね。…でも」

ヱリカ「でも?」

ルー「レッドダイヤとブルーダイヤの異彩の輝きを放つヱリちゃんは司令官って柄じゃないと思うよ?」

ヱリカ「………。そんなことはありません。私はミラージュ様に見込まれて今の地位を得たのです。必要とあらば、10万の艦隊だって指揮して見せますわよ?」

ルー「出来るから、といってその力を発揮する事がその人の為になる事とは限らない。確かにヱリちゃんは分析力も鋭く判断力も優秀。そして、何より大胆な策を実行出来る行動力もある。でも、切れ過ぎる刃物は自身の身も傷付ける。その危うさが…ヱリちゃんは人一倍大きいよ」

ヱリカ「…実に、あなたらしい忠告ですわね、ルーフィシス。あなたの分析力を過小評価するつもりはありませんが…その忠告に従うわけには行きません」

ルー「……そっか。最高級のレッドダイヤとブルーダイヤでダイヤモンドカッターを作るぐらいもったいないなぁ。せいぜい敵を作り過ぎないようにした上で、信頼出来て腕の立つ部下を一人でも多く確保しておくよう心掛けることだね。でないと」


キィン。っとルーフィシスが瞬時に抜き打った魔剣の閃きが突如として襲い掛かってきた黄金の矢を斬り裂く。


ルー「うっかり暗殺されちゃうよ?」

ヱリカ「あなたにかかると百発百中と謳われる黄金弓の矢が形無しですわね。それにしても…嘆かわしい限りです。いくら精度が高かろうと暗殺に誰が犯人なのか聞くまでも無い武器を選択するなんて…無能にもほどがありますわね、あの紫魔女は」

ルー「でも、逃げ足の速さはなかなか優秀みたいだよ?狙撃に失敗した時点で後の事は他の連中に任せて本人はシエスタのうさぎさん共々もう逃げちゃってるし。影も形も見せる前じゃあ犯人だと断じて処断するのは難しいね」


狙撃の一撃を皮切りにぞろぞろと二人の周囲に姿を現し始める複数の山羊達。
狙撃に失敗した場合はヱリカに恨みを持つ者達で囲って数で圧殺しようとの狙いだったのだ。


ヱリカ「あんな馬鹿にそそのかされる山羊達がこんなに居るとは…まだ締め上げが足りていない様ですね」

ルー「…締め上げ過ぎて精神的に殺るか殺られるかに追い詰められちゃったに一票(汗)」


山羊達の爛々とした瞳が溢れんばかりのあからさまな殺意を放ってヱリカとルーフィシスを睨む。
殺意で理性が完全に消え失せたその様は上官命令や説得を到底受け付ける雰囲気ではなく二人は倒す以外にこの場を切り抜ける道は無いと悟る。


ヱリカ「…さて、いくら人通りの少ない田舎町の通りとはいえどうしたものでしょうか。公開処刑となるとさすがに尾ひれの付いた悪評が広まるでしょうし」

ルー「…ねぇ、ヱリちゃん。提案なんだけど、折角だからこいつら私が狩っちゃってもいい?正当防衛って事で『ファントム』の戦力を合法的に潰せるいい機会だし、巻き込まれちゃった形な私ならそう大きな問題にはならないでしょ?」

ヱリカ「貸しを作ろうというつもりですか?…なら、手加減無しの貴女の全力を見せてくれると言うのでしたら譲ってあげてもいいですわ。それならこちらにも得られるものがありますから…ね」

ルー「商談成立だね。じゃあ、手加減無しの『凶雷』の実力を存分に見せてあげるよ、ヱリちゃんッ!」


並んで立っていた二人の姿が一瞬にして一人になる。
ヱリカを狙って囲い込みながら間合いを詰めていた山羊達はその不可思議な光景に首を傾げてほんの一瞬だけ思案する。

『周囲を囲っているのにもう一人は何処へ?』

…それが、彼等がこの世で最期に頭に浮かべた思考だった。

一瞬にして視界より消え失せたルーフィシスがその僅かな思案の間に近場で囲っていた山羊達の胴体を残らず切断していたからだ。


ルー「まずは6体撃破!後は」


首を傾げたまま断たれた胴体から消滅していく山羊達と一瞬の出来事に驚愕する残りの山羊達を尻目に斬り伏せた際の神速の勢いでスライディングしながら魔剣を大地に突き立てるルーフィシス。


ルー「【震電】!【地雷震】!連続発動ッ!!」


突き立てられた魔剣より全方位に放たれた雷糸の後を雷光の拘束帯が数秒の間を置いて追い縋る様に剣先から地を這い伸びる。

多重式の『照準(ロックオン)』と『拘束(バインド)』の連続攻勢だ。


ルー「18…25…41…52!オールロック、オールバインド、共に完了ッ!」


大地に突き立てていた魔剣を準手で引き抜きそのまま高々と振り上げて天を仰ぐルーフィシス。
周辺には倒された6体の山羊を除いてもまだ数十からの山羊達が直径100m以内の範囲で広く散開して囲っていたのだが…一人残らず雷光の拘束帯で縛り上げられて身動き一つ出来なくなって無様に大地に転がり、もがくだけの芋虫と化していた。


拘束を解こうと必死の抵抗を試みる山羊達だったが…無情にも、僅か十秒と掛からずに掲げ上げられた剣先の上空に巨大な雷球が集束を終えて地を這う『獲物達』へと牙を研ぎ澄ませて号令(落雷)の時を今か今かと待ち構えていた。


ルー「これで終わり!【サンダークラスター】ッ!!」


52本にも及ぶ御雷の槍が各々が獲物と定めた相手を過たずに穿ち貫き、大地を蹂躙しながら跡形もなく焼き尽くす。
…こうして、多勢で囲っていた古戸ヱリカ暗殺部隊は1分と掛からず殲滅されたのであった。


ヱリカ「……確かに凶つ雷ですわね。まさかこれだけの数の始末が1分以内で終わるとは思いませんでした。…しかも、左腕が使えない手負いのままで…とは」

ルー「要人警護の仕事柄、こういう雑魚散らしの電撃戦は得意中の得意だからね〜。どうだった、私の本気?」

ヱリカ「…大隊ではありませんが電撃的に攻めるには申し分ないですわね。造反組の紫魔女とシエスタ三匹でトレード出来ません?」

ルー「駄〜目♪それに…ちゃんと桁外れに優秀な部下が既に居るじゃない。ヱリちゃんの味方だって分かったから攻撃対象からは外しておいたけど…さっきの分散率じゃあ当たってても殆どノーダメージだったんじゃない?」

ヱリカ「あら。来なくていいと言っておいたのに来ていましたか。自己紹介をさせておいた方がいいかしら?」

ルー「…ううん、遠慮しておく。『魔女狩りのドラノール』と積極的に関わるのは流石に気が引けるよ」

ヱリカ「いきなりとって食われたりはしないわよ。むしろ無愛想な奴だからちょっとは慣らしておきたいんだけど」

ルー「それでも捕食されるリスクは負いたくないなぁ…。今はプライベート扱いでも自分より強い相手で敵対者なんだから流石に警戒はさせてよ。さっきの料理店の時のヱリちゃんみたいにあしらうのは難しいんだから」

ヱリカ「『凶雷のルーフィシス』でも『魔女狩りのドラノール』には勝てない、と?」

ルー「勝てないよ。…まぁ、気持ちの上ではボロ負けするつもりはないけどね」

ヱリカ「今の戦いぶりを見せてくれた上でその評価は嬉しいですね。…ええ、手駒は確かに不足がちですが、あいつが居ればどうにかなる、そういう打算も無くはありません」

ルー「…それでも数に勝る暴力は無いから過信はし過ぎないでね。七対一で負けた奴が此処に居るんだから」

ヱリカ「あらあら、せっかく気晴らしが出来たと思ったのにまた悔しい思い出を思い出させてしまったわね。仕方ないわね、次の店はここにしましょう。不快な思いをさせてしまったお詫びに私の奢りでいいですわ」

ルー「…ヱリちゃん…奢ってくれるっていうのは嬉しいんだけど…お互い未成年なのにカクテルバーってチョイスはどうかと思うんだけど?」

ヱリカ「そう?私は威厳を保つ都合上、ワインをよく嗜むようになったから少しは味の違いが分かる様になったのよ。ルーもその内飲む事になるんだから今の内に慣らしておきなさいって」

ルー「確かにそうなんだろうけどまだ十年ぐらいも先の話だって。……ヱリちゃん、もしかして私を酔わせて情報を吐かせようとしてない?」

ヱリカ「……。…いやぁねぇ、今日はオフだって言ったじゃないですか。騙されたと思って一杯だけでいいから飲んでみなさいって、絶対美味しいから、ね?」

ルー「今間があった!と言うかその一杯が危険だってことは世界共通のお約束でしょ!?別の店に…って襟首掴むな〜〜〜ッ!!」

マスター「ようこそ、カクテルバー『デュナメス&ケルディム』へ。って、なんだヱリカか。お前が友達連れとは珍しいな」

ヱリ「…いくら顔馴染みでも客商売でなんだはないでしょう。まぁ、いいですわ。マスター、いつものやつを二つ頼みます。…ああ、この子の分はウォッカをかなり多めでお願いしますね」

ルー「ちょっ!?今ウォッカって言った?!私カクテルどころがビールや酎ハイすら飲んだ事無いんだよ!?」

マスター「なんだこの嬢ちゃんは未成年かよ。…まぁ今月も売上げが下がるとオーナーが怖ぇからな。取り敢えず用意するか」

ルー「いやいやいや、そこは止めてよ!いい加減過ぎだよこの店のマスター!」

ヱリカ「大丈夫、大丈夫。酔ったらちゃあんと介抱してあげますから。…警備の行き届いたファントムの基地最深部のアルカトラズも真っ青な特別な医務室でね♪」

ルー「拉致る気満々じゃないのよ〜〜〜〜ッ!!」


静かな風情を楽しめるのも売りなはずのカクテルバーにも関わらず、結局乱闘寸前な大騒ぎをしながら飲み明かし始めるヱリカとルーフィシス。

…結局、ヱリカの目論みは外れてルーフィシスは鉄壁の酒豪スキルの片鱗を一足早く覚醒させて大人顔負けな量を飲み干しながらも酔い潰れる事無く帰途へと着く事になる。
…実は育ちのいいお嬢様な一面もあるルーフィシスは少なからず日常的な食事でワイン入りの食材を摂っていて酒精に対してかなりの下地が出来上がっていたというオチであった。


ヱリカ「…う〜〜〜、頭が痛い…。意地になってすっかり飲み過ぎてしまいました。まさかルーにこんな隠しスキルがあったとは…」

ルー「あはは、実は私も驚いてる。よく食べてるあの味がワインとかお酒の味だったんだな〜って今日初めて知ったよ〜。…どうもお父さん達に社交界デビューの時の為に恥を掻かないよう一服盛られてたみたい」

ヱリカ「まぁ爵位持ちの少将の次女ですものねぇあなた…。それにしても…ふふふ、今日は本当に楽しかったわ。色々とありがとうね、ルー」

ルー「ううん、私こそ、今日はとっても楽しかったよ♪ヱリちゃんはこれからが特に大変だろうけど頑張ってね…って、あんまり頑張られるとこっちが困る事になるからほどほどに頑張ってね」

ヱリカ「ふふふ。確かに、私が頑張り過ぎると貴女が困る事になるわね。なら、手加減で借りを返せと言われても困るから、さっきの借りは今ここで返しておきましょう。これをあげるわ」

ルー「何これ?フロッピーディスク?」

ヱリカ「ミラージュ様が立案した『中立派』と『穏健派』の掃討作戦の概要データが入っているわ。随時更新されているものだけど貴女のお姉さんにでも見せればそれなりの対応策を考えるでしょうから役に立つはずです」

ルー「え、ええ?!うわぁ、それって凄い重要情報でしょ?!本当にいいの?!」

ヱリカ「ええ。こちらの恥晒し共を実に爽快に掃除して頂きましたからそれぐらいの利息は付けておきますわ」

ルー「ありがとうヱリちゃん!じゃあ私もこれをヱリちゃんに進呈するね!」

ヱリカ「?これは…宝石ですか?」

ルー「私の戦闘服のスペアの【防護魔石(バリアクリスタル)】。スペアだから性能は佐官クラス用でそこそこだけど、いざって時には充分役に立つはずだよ」

ヱリカ「…指揮官にいざって時が来るとはあまり考えたくはありませんが…駒数の都合で直接動く事もありそうですから一応貰っておきますわ」

ルー「うん、上手く使ってね。じゃあ、またね〜ヱリちゃん♪次に会う時が戦場にならないよう祈ってるよ〜!」


手をぶんぶんと勢いよく振って別れを告げるルーフィシス。
ルーフィシスの後ろ姿が見えなくなると共に距離を取っていたドラノールがヱリカの元へと近寄る。


ドラ「…ヱリカ卿、よろしかったのデスか?ミラージュ様の作戦情報を寄りにも寄った相手に漏洩シてしまうとハ…」

ヱリカ「あんなの偽情報に決まってるじゃないですか」

ドラ「……ハ?」

ヱリカ「ルーフィシスの弱点は情に脆いところですね。性質の悪いこの私を相手にしてでさえ友情というものを信じて疑わないのですから」

ドラ「…で、デハ、ヱリカ卿は借りを返すと言っておいて彼女を騙した、ト?」

ヱリカ「騙される方が悪いんですよ。それに、貸し借りってものは相手がそう思わなきゃ成立しないものなんです。別に私はあの場であの子の力を借りなくてもどうとでも無難に始末を付ける手立てはあった。…なら、借りなんてものはあの子が勝手に作ったと思い込んでいただけの話なんです」

ドラ「……………」

ヱリカ「………随分と不満そうですわね。……ふぅ。今日はちょっと飲み過ぎて酔いが回りましたから口が滑りますわ。あの子は政治的駆け引きに秀でていませんが、姉のリーフィ=フラグベルトは別です。『中立派』の参謀の一翼を担うほど智に長けた者は嘘からでもその裏にある意図を少なからず読み取るもの。つまりはそう言う事です」

ドラ「…偽情報デも遠回しには役に立つ情報となる…デスか。素直でハありませんネ。貴女ハ」

ヱリカ「正直者な古戸ヱリカなんてゾッとしません?」

ドラ「………失言でしタ。貴女らしい、と言うべきデした」

ヱリカ「…ふふ、今日は本当に飲み過ぎてしまいました。ドラノール、基地に帰ったら私は仮眠を取る事にします。貴女は造反者の首魁の紫魔女とそれに同調したウサギ共にそれ相応の制裁をしておいて下さい。…あぁ、念の為に言っておきますが半殺しって意味ですよ?この私への忠誠が低いことは確認出来ましたが、それでも山羊達よりはマシな駒ですから廃棄処分するにしても手頃な捨て場はあるでしょうからね」

ドラ「了解デス。それニしても…」


ドラノールはふと思う。ルーフィシスとの貸し借りの件は遠回しながら彼女との友誼を通していた事は理解した。
…だが、だとすれば重要情報のリークとしての意味合いは、言い訳出来る体裁は繕えるものの歴然とした事実、と言う事になる。
それはミラージュ様の策謀を妨害する行為だ。

ヱリカ卿はミラージュ様に心酔しておられる様子だった。それなのに…何故よりにもよってあのお方自身の直接的な妨げとなる情報を敢えてリークしたのか…?


ヱリカ「どうしました?早く行きますわよ」

ドラ「…ぁ、すみまセン。少し考え事をしていましタ」


浮かんだ疑問に気を取られて遅れていた歩みを取り戻す為に早足でヱリカの横に並び直すドラノール。
先程ルーフィシスに悪びれた様子も無く平然と偽情報を渡していた事も有り、その表情から真意を読み取ることは到底不可能であったが……
自身のこれまでの経験で培った『勘』に頼るなら、彼女は『何か』を隠している。
そう感じ取るドラノールであった。




『雷鳴の轟く夜に Tea party』  終


『雷鳴の轟く夜に ????』 へ続く








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