六軒島戦隊 うみねこセブン番外編

          巨大ロボ対決!? エヴァトリーチェ大地に立つ……?
 

 現在ファントムは危機的状況に陥っていた。
 それは数多くの失敗を繰り返し主力部隊とも言える煉獄の七姉妹を失ってしまい、これ以上の失敗をし本国の信頼を失う事は許されない、そんな状況だった。
 「……それは分かるけど……?」
 地下に建造された広い空間、エヴァ・ベアトリーチェがそこへ連れてこられたのはおやつに冷蔵庫のプリンを食べようかどうしようかと迷っていた時だった。
 その通路でもあるキャットウォークをワルギリアの後ろについて歩くエヴァはそういい首を傾げて見せた、あちこちから騒がしい音や声はするが必要最低限の明かりしかなくいったいこの場所がなんなのかすら分からない。
 「……ここです」
 その時ワルギリアが足を止める、そしてそれが合図かのようにエヴァ達の前方が強い照明で照らされた、そこにあったものにエヴァは目を見開いてしまう。
 「……はぁっ!?……顔?…ロボット…?……ってか、あたしぃっ!!?」
 目の前にあるのは自分にそっくりな、しかし十倍以上はある巨大な顔だった。 装甲のつなぎ目や無異質な瞳が見えることがその巨体がロボットであると教えている。
 「これは我らファントムの総力を結集し開発した切り札、汎用魔女型決戦兵器エヴァトリーチェ初号機です」
 「…………はぁ?」
 「これを操縦出来るのはエヴァ、貴女だけなのです」
 「……何で?」
 「……設計ミスでコクピットが狭く……操縦出来るのは貴女の様な小柄な魔女だけなのです」
 「………………帰っていい?」
 「駄目です!」
 いつの間にかエヴァの背後の通路では黒山羊部隊が通せんぼをするように立ち塞がっていた……。
 「……まぢ……?」
 こうしてエヴァは無理矢理にエヴァトリーチェ初号機の胸部にあるコクピットに乗せれたのだった、球状のコクピットの壁面が全天モニターになって360°すべての光景が映し出されている、そしてシート脇の二本の操縦桿をメインとして周囲にあるボタンやレバーで操作するというまるでどこぞのモビルスーツの様なコクピットだった。
 『……操縦マニュアルは読みましたね?』
 「……一応はね、それにしてもこのロボット本当に大丈夫なんでしょうね?」
 本来科学とは無縁な魔女が開発したロボットだけにエヴァには不安で仕方がなかったが通信用小型モニターに映るワルギリアはしれっと言う。
 『大丈夫ですよ、その機体は黒山羊の”あむろ”が基礎設計をし”ちぇーん”が整備しているんですから』
 「ちょっ……まじで大丈夫なんでしょうね!!?」
 『……エヴァ様!』
 その時ワルギリアの画像に割り込む形でシエスタ410と45から通信が入った。
 『とっておきのサラダを作っておきますにぇ!』
 『……お早いお帰りを……』
 「…………」
 言葉自体は何て事無いものだったがエヴァはそれに恐ろしく不吉な何かを感じた、まるでその言葉で送られたパイロットは二度と帰って来る事がなかったような……言うなれば死亡フラグだ。
 どこからかピンポ〜ンという音がエヴァには聞こえたような気がしたのだった……。


 平和なものだとグレーテルは感じつつ紅茶を一口啜った。
 偶には一人でのんびりしたいという気まぐれから天草を置いて町をぶらぶらとしていたものだが、ふと見つけた『うみねこカフェ』なる喫茶店に入り午後のティータイムとしゃれこんでいた。
 「…………ん?」
 その時ズシンという振動を感じた、地震かとも思ったがすぐに違うと分かる。
 「……この振動は…大質量の何かが動いている……?」
 『……あ! お嬢! 大変ですぜっ!!』
 携帯電話を取り出したところでちょうど天草からコールがあった、通信ボタンを押すなり大慌てと言った風な天草の声が響く。
 「ちょっと、落ち着きなさいよ天草。 いったいどうしたっていうのよ?」
 『……そ、それが……その、でっかい…そう! でっかいエヴァがっ!!』
 「……はぁ?……でっかい…エヴァっ!?」


 巨大エヴァ型メカの出現によりすぐさま戦人達うみねこセブンに招集かかかる。
 「……まじかよ……」
 指令室のメインモニターに映し出された光景に唖然となるのは戦人だけではない、何しろ巨大なエヴァ・ベアトリーチェが街を蹂躙し迎撃に出た自衛隊のF‐15戦闘機の部隊も撃墜していくのである。
 「……イーグル――F‐15戦闘機の部隊は全滅ね、でもパイロット全員の脱出は確認したわ」
 この状況にあっても冷静なのは流石霧江といったところだ。
 「あんなもん相手じゃとても戦闘機じゃ無理だぜ……」
 「でも朱志香ちゃん、僕達だってあんなもの相手じゃ……」
 「そうですね譲治さん、相手が大きすぎます……」
 全長50メートルはあろうかという巨体はモニター越しであっても迫力を感じる紗音は茫然と言う。
 「……ファントムがあんなものを開発していたなんて……」
 紗音と共に元はファントムにいた嘉音だったがこんな巨大ロボットを建造していたという話は聞いた事がない、それ以前にファントムが科学の結晶ともいえるロボットという物を使うというのが想像出来ない。
 「……ふっふっふっふっふ……がっはっはっはっはっはっはぁぁああああああああっっっ!!!!」
 「「「「「「!?」」」」」」
 その時司令室に響いたむさくるしいおっさんの声は右代宮家当主にしてうみねこセブン司令でもある右代宮金蔵である、しかし腕を組みはしゃいだよう高笑いするその姿はただのむさくるしいおっさんでしかない。
 「安心しろお前達! こんな事もあろうかと開発していた切り札があるわい!! そうこんな事もあろうかとな! すぐに地下格納庫へ行くのだ孫達よ、こんな事もあろうかと用意していたシーキャット07に搭乗し戦うのだぁっ!!!!」
 「「「「「「……さ、三回言ったっっっ!!!!!」」」」」」
 金蔵の傍らに控える源次は無言であったが、”よほど、こんな事もあろうかとと言いたかったのですね”とその顔が語っている
 「……訓練もなしにいきなりシーキャット07を使う……?」
 「……う〜?」
 金蔵の発言に対し一人だけ驚いたポイントが違うグレーテルの呟きに気が付いた真里亞は怪訝な顔でグレーテルの顔を見上げたが彼女はそれ以上は何も言わなかった。
    

 「きゃっはっはっはっはっは〜〜〜〜〜!!!! 結構イケるじゃないこのロボット、見ないさいよ人がゴミの様よ〜〜〜〜〜〜〜☆ うふふふふ、このエヴァトリーチェ初号機が量産の暁には連邦なんてあっと言う間に叩いてみせるわ〜〜〜〜☆」
 自分しかいないコクピットで誰に言っているか、そして連邦とはなんぞや?という疑問はあるがとにかくハイテンションなエヴァの笑い声が響く。
 モニターにはエヴァトリーチェに目から発射される【ツイン・エヴァビーム】によって破壊された街が映る、自分の指が操縦桿のトリガーを引く度に街の建物が面白い様に吹き飛んでいく様は彼女を愉快にした。
 「……でも、こんだけ壊して死者がいないってどゆこと?」
 ふと浮かんだ疑問を口にしながら発射した【ツイン・エヴァビーム】が高層ビルの屋上を狙撃しそこにいた双眼鏡でこちらを覗き見ていたであろう蒼いツインテールの少女ごと吹き飛ばす。
 その直後にふとメインモニターにざらつきが生じた。
 『エヴァ、言い忘れてましたがその機体の目はビーム砲とメインカメラの両方を備えていますのでビームを撃ち過ぎるとメインカメラに障害があるらしいと”あむろ”が言ってましたよ』
 「何じゃいそりゃっ!?……ってか、それ明らかに設計ミスじゃないのっ!!?」
 狙ったかのようなタイミングで通信を入れていたワルギリアに怒鳴るエヴァ、同時にとてつもない不安を覚える。 コクピットのスペースにビーム砲の欠陥と続くと何かまだ設計上のミスがあると疑うのはエヴァだけではないだろう。
 『何しろ二機目とはいえ試作機に入る機体ですからねぇ……』
 「……ん?…二機目?」
 『ええ、一機目のエヴァトリーチェ零号機は起動実験中に暴走し大破しました……そして”れい”が殉職……』
 「んな危険なもんならあんたが乗れやぁぁぁああああああああああああっっっ!!!!!」
 さらに文句を続けようとしたが不意に響いた警告音にはっとなる。
 「……何?……レーダーに反応?……敵…!?」


 瓦礫の山と化した建物、その中の一か所がガサガサと動いたと思ったらその下からぶわっ!と声を上げ謎の蒼いツインテールの少女が顔を出した。
 「……ぐ…ぐは……も、もうちょっとで死ぬところでした…わ……」
 ある人物の命令でファントムの作戦を監視していたのだが、そこへ急な攻撃である。
 「……ん?……って、ぎょぇぇぇええええええええっっっ!!!?」
 彼女の周囲に影が差し暗くなったと思った次の瞬間に上空から落下してきた巨大な白い何かの脚に踏まれ謎のツインテール少女は再びその姿を消した……。


 「シーキャット07参上!!!!」
 「……あれ?」
 七人乗りのコクピットでレッドが勢いよく叫ぶと同時にホワイトが奇妙な声を上げる、気になったグリーンがその理由を聞いてみた。
 「……いえ、センサーに人の反応があった気が……?」
 「気のせいだろ? 祖父様の素早い対応で住民とかみんな速攻で避難したはずだぜ?」
 気にするなと言わんばかりにイエローが言う。
 「そんな事は後よ! 今は目の前に敵がいるのよ!!」
 そしてブルーにもそう言われればまだ気にはなっても頭を切り替えるホワイト、素早く各種計器をチェックしていく。
 「……OSプログラムは正常に稼働……しかし……」
 「ええ、戦闘パターンのプログラムの入力が完全じゃないわ! 戦闘可能なのはレッドのメイン操縦『剣撃モード』だけ、それジェネレーター出力も約70%よ!!」
 「分かってるってブルー! 俺がこの【超神剣クリムゾン・ブレイカー】であのエヴァをスクラップにしてやるぜ!!! く〜〜やっぱ戦隊ったら巨大ロボもないとなぁぁああああああっ!!!!」
 白を基調とし赤と青に塗られたその機体に持たせた剣を掲げさせレッドは叫ぶ、男の子ならば誰でも憧れる巨大ロボットのパイロットになった事ではしゃいでいるのは明らかだった。
 「う〜〜〜! 何だかレッドのテンション高い〜〜?」
 「あはははは……仕方ないよピンク、僕も少し……ね」
 「そんなものですか……」
 男子の中では一人冷静なブラック、発進の前に彼らの親――正確には蔵臼と留弗夫と秀吉が俺達に操縦させろ〜〜と大騒ぎになったのを思い出す。
 「しゃあねえよ! ロボットに乗るのは男のロマンだからな!」
 ブルーはそんな風にはしゃぐレッドを子供っぽいと思いながらも、そのおかげでレッドが乗り物恐怖症を忘れているように見えて今はこれでいいだろうと思う。
 「そんなのどうでもいいから! さっさとあのでっかいエヴァを倒すわよ!!」
 「分かってるってブルー!」
 返事と同時にフットペダルを踏み込みながら操縦桿を操作するレッド、それに反応しシーキャット07の機体がゆっくりと、しかしすぐに加速し前進を開始した。 数十トンはあろうかという機体が一歩踏み込むたびにズシンズシンと地面が揺れる。
 「うおりゃぁぁぁああああああああああっっっ!!!!!」
 巨大なエヴァ――エヴァトリーチェ初号機へ一気に間合いを詰めたシーキャット07が【クリムゾン・ブレイカー】を振り降ろすがエヴァトリーチェもそれをケーンで受け止めると言う事をしてみせた。
 「……っ!…押しきれないか!?……ぐっ!?」
 一見華奢にも見えるエヴァトリーチェの機体の意外なパワーにレッドが驚いた直後にエヴァトリーチェがキック攻撃を放った、不意を突かれかわす事も防御も出来ずぬもろに腹に食らいシーキャットは後方に吹っ飛ぶ。
 「「「「「「「ぐあぁぁぁあああああああああっっっ!!!!?」」」」」」
 吹き飛び地面に激突した衝撃でコクピットが激しく揺れる、追撃をかけようとしたエヴァトリーチェだったがブルーが撃った頭部バルカンの攻撃を両腕でガードした。
 「……お前……」
 「いいからさっさと機体を立たせて! 頭部バルカンじゃあいつの装甲は撃ち抜けないわ!!」
 「……あ、ああ……」
 一発で戦車の装甲をも撃ち抜く二門のバルカン砲がバババババ!という音を響かせて頭部バルカンを撃ち続けながらシーキャット07がよろよろと立ちあがり剣を構え直す。
 「ホワイト、ダメージは!?」
 「……え?……あ、はい…………各部に異常なし、装甲にも大したダメージはありません!」
 「頑丈なんだな、こいつ……」
 コクピットを襲った衝撃がすごかったため内心ひやりとしていたイエローは素直に感心した。
 『あーーテストテスト……そのロボットのパイロット、聞こえてるかしら?』
 「……通信だって!?」
 『その声はうみねこセブンの緑ね?……て、言うかやっぱりあんた達だったのね』
 突然の通信にぎょっとなったセブン達。
 「その声はエヴァ・ベアトリーチェか!?……つか、そのでっかいエヴァをエヴァ自身が操縦してるっていうのかよ!?」
 『そういう事よ……えっと…赤い奴ね、あんたらもなんかとんでもないロボットを持ちだしたみたいだけどさ、この汎用魔女型決戦兵器エヴァトリーチェ初号機でけちょんけちょんにしたあげるわよぉ〜?』
 「エヴァトリーチェだかエヴァンゲリオンだか知らねえがな! てめえこそこのシーキャット07でスクラップにしてやらぁっ!!!!」
 元より敵であるが喧嘩を売られればもれなく買うのがレッドである、フットペダルを勢いよく踏み込み操縦桿を倒すとシーキャット07を吶喊させた。
 「たぁぁぁああああああああああああっ!!!!」
 間合いを詰め【超神剣クリムゾン・ブレイカー】を振り上げるがそこへ【ツイン・エヴァビーム】を撃ち込まれた。
 「……くっ!? だがっ!!!!」
 レッドはそれでも強引に特攻し【クリムゾン・ブレイカー】を振り降ろすがエヴァトリーチェは身軽な動きで後ろに跳ぶことでかわした。
 『きゃっはっはっはっは〜〜〜〜〜♪』
 「ちっ!」
 「……ちょっ……無茶し過ぎだぜレッド!」
 「そうだよ、装甲が耐えられたかいいようなものの……」
 舌打ちするレッドにイエローとグリーンが抗議する、装甲を撃ち抜かれていたらコクピットの自分達も無事ではいなかっただろう。 
 「……ビームが命中した部分の装甲が過熱しています!」
 「あのビーム攻撃はそう何発も持たないわ、もう無茶な特攻はやめなさい!」
 ホワイトの報告からビームの威力を推測し頭に入っている装甲の強度や耐熱限度のデータと照らし合わせ警告するブルー、手足がふっとぶ程度ならまだいいが装甲を貫通しコクピットやジェネレーターを直撃されたらアウトである。
 『うふふふふふふ、ずいぶん頑丈な装甲みたいだけど……次はこれよっ!!!!』
 エヴァトリーチェがケーンを構えると同時に機体の全身が発光を始める、すると魔力計測のゲージが一気に上昇しピンクが驚きの声を上げた。
 「う〜〜〜〜!?……エヴァトリーチェから放出されてる魔力反応が数十倍に上がっているよっ!!」
 その間にも発光はその勢いを増し、そしてエヴァトリーチェの前面に奇妙な図形を浮き上がらせた。
 「う〜〜! あれはセフィロトの樹!?」
 「……まずいわ!! 回避行動を……」
 『遅いわぁっ!!! 【セフィロト・ブラスト】!!!!!」
 セフィロトの樹に描かれている十二の円すべてから一斉に【ツインエヴァ・ビーム】の数十倍の出力はありそうなビームが放たれシーキャット07に迫った、太陽の光よりも眩しい閃光が辺りを包みシーキャット07もそれに呑みこまれていった……。
 

 モニターで巨大エヴァロボとシーキャットの戦いを見守っていた親達はその光景に愕然となった、エヴァロボが放った破壊の光芒にシーキャットの機体は呑みこまれ消えていったのである。
 「……じぇ、朱志香ぁっ!!!?」
 「真里亞……真里亞っ!!!!」
 「譲治ぃぃぃいいいいいいいいっっっ!!!!!」
 三人の母親が悲痛な叫び声を上げ、父親達も叫びこそしないが悲痛な表情でモニターを凝視するしかなかった。
 「……ば……戦人……冗談だろ……?」
 「……は…反則やろ…あんな攻撃……!!」
 「……何と言う事だ……こんな…………」
 白い煙がもうもうと舞い上がり視界がまったく効かないためシーキャットの機体がどうなったのか肉眼では確認出来ない、だが司令官席に座る金蔵はまるでその煙の中が見えてるかの様に不敵に笑って見せた。
 「ふっ! 右代宮の……片翼の翼を持つ者に敗北はない、いや、敗北しようとも何度でも立ち上がるものよっ!!!!」
 その金蔵に答えるかの様に必死でセンサーをチェックしていた霧江が声を上げる。
 「これは……識別反応あり! シーキャット07は健在よっ!!!!」


 勝利を確信し勝ち誇った笑いをコクピットに響かせたエヴァだったがだんだんと晴れてきた白い煙の中に小さな二つの光を見つけた、そしてそれがシーキャット07の両目だと分かりぎょっとなる。
 「……ちょっ……【セフィロト・ブラスト】に耐えた……そんな……!?」
 シーキャットの周囲を光の壁が覆っている事に気がつくエヴァ、魔女である彼女にはその光が魔法による【シールド】だとすぐに分かる。
 「あの力は……あの白い女の力……?……でもあんな巨大な機体を包むだけのパワーがあるはずはないっ!?」
 コクピットで驚いたのはエヴァだけではない、【シールド】を張ったホワイト自身もまた自分のした事に驚いていた。
 「……これは……?」 
 何かをしようと意識する暇はなかった、反射的に、あるいは本能的に仲間達を守ろうとコクピットだけでも【シールド】で守ろうとしたかもしれない。 しかしシーキャットの巨体を包むだけの【シールド】をホワイトに張れる力はないのは彼女自身が良く分かっている。
 「……シーキャット07にも【シールド】が装備されていた……?」
 「で、でも……そんな武装はマニュアルには……」
 グリーンに答えながら再度チェックするブラックは小型モニターに信じられないものを見た、出撃前にはなかったはずのシールド展開機能が追加されていたのだ。
 (……どうやっても作動しなかったシーキャットの【シールド】展開が作動した……ホワイトの力と共鳴した……?) 
 シーキャットの設計図には確かにシールド機能は組み込まれていたが、ブルー達がどう機体をいじろうともその機能はこれまで作動しなかった。
(【シールド】の能力を有する者と機体とのリンクで作動する仕掛け?……まさか、この機体は……シーキャット07はこの紗音が乗る事を前提に設計されていた?)
 すぐにまさかと否定する、どっちにしても今がこれ以上考えても仕方ないしそんな暇もない。
 「う〜〜〜? エヴァトリーチェの魔力反応が急激に下がってるよ!?」
 「パワーダウン!? チャンスよ!」
 叫ぶと同時にブルーが金蔵に通信を入れる。
 「司令、リミッターの解除を要求するわ!!」
 「……リミッター……?」
 『がっはっはっはっは〜〜〜〜!!! 待っておったぞぉぉぉおおおおおおおおっっっ!!!!』
 グリーンの疑問はむさくるしいおっさんの声にかき消された、どうにもこうにも今回はやたらとノリノリなおっさん……もとい彼らの祖父にしてうみねこセブン司令の右代宮金蔵だと呆れる。
 「おい! リミッターってどういう事だよブルー!?」
 「シーキャットの【クリムゾン・ブレイカー】は強力過ぎるから普段はリミッターでパワーを抑えているのよ! それを今から解除するのよっ!!」
 『うむっ!!! そういう事だ!! ならば、【クリムゾンブレイカー】リミッター解除……承認んんんんんっ!!!!!』
  

「ちょっ……パワーダウンって……!!!?」
 計器の示すゲージが急激に下がりエヴァは焦っていた、出撃前に読んだマニュアルにはこんな事は書いてなかったはずだ。
 「……まさかこれも設計ミスなのぉぉぉおおおおおおおおっっっ!!!!?」
 『……あ、言い忘れてましたが【セフィロト・ブラスト】を撃つといくつかの重要回路がショートするので撃たない方がいいですよ?」
 「撃った後で言うんじゃないわぁぁぁあああああああああああああああっっっ!!!!!」
 またしても狙ったかのようなタイミングで通信をしてくるワルギリアにヒステリックな叫びを上げながらもとにかくここは後退すべきだと判断し操縦桿を動かすが回路がショートしてるせいで先程までと比べて機体の反応も動きもおそろしく鈍っていた……と言うかほとんど機体が反応しない。
 「……うっ!?」
 更にモニターに映るシーキャットの剣が赤く発光するのが見えていよいよやばいと感じた、計器を見るまでもなく魔女たるエヴァにはその赤い光に強力な魔力を感じとれたからだ。
 とにかく必至で操縦桿をガチャガチャ動かす。
 「……動けエヴァトリーチェっ! 何故動かんっっっ!!!!?」
 【クリムゾンブレイカー】を上段に構えたままダッシュするシーキャット07の動きは光速のごときスピードでエヴァトリーチェに迫り、そしてその赤き刃が一気に振り降ろされようとしていた。

 
 『受けれみろエヴァっ!!!! これが必殺の【超神剣クリムゾンブレイカー】ぁぁぁああああああああああああっっっ!!!!!!!』

 
 「……ちょっ……タンマ! ちょっとタンマ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!?」
 そのセブンの叫びは通信なのか外部マイクによるものかはエヴァには分からなかった、分かっているのは自分の絶叫がエヴァトリーチェの機体ごと赤き刃に断ち切られたと言う事だけだった、薄れゆく意識の中でエヴァは……。

 『ああ……こんな事なら冷蔵庫のプリン、食べておけばよかった……』

頭の片隅でのそんな思考と、そしてエヴァの存在もまたコクピットごと赤い光に飲み込まれ消えていったのだった……。

 
 【クリムゾン・ブレイカー】で両断されたエヴァトリーチェの機体が赤い閃光と化し轟音とともに消えていく……。
 「……やった……?…やったぜっ!!!」
 その光景に茫然となったもののすぎにレッドの歓喜の声がコクピットに響いた、そしてそれを合図に他のメンバーも自分達の勝利を確信し喜び合った。
 こうしてエヴァは倒され、人間界にはひとまずの平和が戻ったのであった。




 「いやあ、エヴァトリーチェが破壊された時はどうなるかと思いましたが、あなたが無事で良かったですよ」
 「ふぉほは、ふひはぁぁあああああああああっっっ!!!!!(どこが無事かぁぁあああああああっっっ!!!)」
 ワルギリアが笑いながら見下ろすベッドの上には包帯で全身をぐるぐる巻きされミイラ女と化したエヴァ・ベアトリーチェだった、【クリムゾンブレイカー】で機体ごと両断されたと思われたエヴァだったがどういうわけか奇跡の生還を果たしたのであった。
 「ぷっくっくっくっ! 世の中にはローエングリーンの直撃でガンダムの機体ごと蒸発したはずのパイロットが生還したという事もありますからね?」
 「ふぃれふぁんふぇふぇふひみふぉんふぉはぁは!!?(それ何てエンディミオンの鷹!!?)」
 「うが〜〜〜!!」というエヴァの叫ぶ声がファントム本部の医務室に響く、こうして今回の巨大ロボット騒動は幕を引くのであった……。  



 ……と思いきやまだ終わりではなかった。


 「……私の与えた任務をほったらかしておねんねしていたなんていけない子ねぇ〜〜〜★」
 「あぎゃぁぁぁああああああっっっ!!!? ど、どうかお許しを……わ、我がある……じぃぃぃいいいいいいいいっっっ!!!!!」
 その頃、某所にある祭具殿ではそんな声が響いていましたとさ……

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