六軒島戦隊 うみねこセブン番外編

  〜蒼き戦士グレーテル物語〜


 序章 コードネーム・グレーテル

 月夜の下を蒼いバトルスーツの少女が駆けていた、彼女の視線の先にいるのは身長が一メートル程の人間…というには容姿が爬虫類的すぎる、グレムリンとでも言えばいいのかも知れない
 「…くっ!? しつこい奴め…!!」
 「むっ!?」
 逃げ切れないと判断したそいつは素早く反転するとレーザーブレードのようなものを取り出し少女に斬りかかった
 「うりやぁぁぁああああああっ!!!!」
 「…覚悟を決めたわね、【天使の双刃(エンジェリック・ツインブレード)】!!!!」
 少女もまたその両腕に白い光のブレードを展開するとその攻撃を受けとめる
 「…くっ…このヨーダ三兄弟の一人ナンノ・ヨーダ様の魔法剣【雷斗星刃(ライトセイバー)】を受けとめるか!?…名は何と言う!?」
 少女はそれには答えずにバックステップで後退すると今度は自ら斬りかかる、右腕のブレードをナンノ・ヨーダは自らのソードで受けとめるが少女はもう一方のブレードを突き出してきた、それには対処できず左肩を貫かれてしまう
 「う…うがぁぁああああっっ!!!?」
 「滅べファントムっっっ!!!! 【天使の十字斬(エンジェリック・クロスブレード)】っっっ!!!!」
 左右のブレードで十字に斬り裂かれたナンノ・ヨーダは断末魔の叫びを上げて光の粒子となり消滅した、それを見届けた少女は小さく息を吐くとブレードを消す 
 「…あたしはグレーテル…あんた達を滅ぼすために未来から来た戦士よ」

 
 「ナンノ・ヨーダがやられた?」
 ワルギリアがその報告を受けた時信じられないと言う顔になる、この世界ではちょっとは名の知られた悪魔騎士ヨーダ三兄弟の長男ナンノ・ヨーダがやられるとは驚きであった
 「…うみねこセブンですか…?」
 「いえ…何とか生き延びた黒山羊”こーらさわー”によるとそうではないようです…」
 ロノウェがそう言うとワルギリアの表情が曇った、それが事実ならばセブン以外にも敵が現れたということになる。 先ほどセブンに対しての対策会議を終えたばかりだというのに頭が痛くなるのワルギリアだった
 「このことはお嬢様には…?」
 「まだ報告はしていません、まずは正体を掴むことが必要かと…」
 ロノウェの言うことは間違ってはいないのだが問題は誰をその任務に当てるかだった、七杭姉妹の誰かが適任ではあるが彼女らにはひとまずセブンの件に集中してもらいたいところである
 「…気は進みませんが”彼女”にやらせますか…ソノ・ヨーダとダレニ・ヨーダも付けましょう…彼らの兄の仇でもありますし…」
 そのロノウェの提案にワルギリアは渋々といった感じで頷くのだった…


 ビルの屋上から見下ろすのは廃墟となった町並み…それは人間と幻想住人達との戦いの爪痕である
 幻想住人の組織ファントムとの戦いで中心となった戦士達はもういない…いや、最後の一人がこの少女右代宮縁寿である
 「……この未来を変えてお兄さん達を助けてみたい? くすくすくす…」
 彼女の前に現れた青い髪の魔女はそう言った、もちろんすぐに信じたわけではない。 しかし魔女はこうも言った
 「…人間達にファントムに対抗できる技術を与えたのはこの私よ? 私は魔女だけど人間に勝ってほしいからねぇ?」
 縁寿にはその笑顔が邪悪に見えるのは気のせいではないと思った。 嘘は言ってないだろうがこいつは間違いなく人間の味方ではないだろうと思う
 しかしそれを魅力的な提案だと思うのは縁寿もすでに疲れ心が壊れかけてるのかも知れない、例えファントムを滅ぼしたところで家族はもう帰ってこない。 そして自分が世界や人類を救うといった大義のために戦える程善人ではないとも自覚している
 「……いいわ、その誘いに乗って上げる…あんたは?」 
 「…私? うふふふふふ、私はねぇ……」
 
 
 ……そこで縁寿の目が覚める。 そしてつい状況を確認してしまう、彼女が今いるのは金蔵が用意したアパート”葉汰理庵(バタリアン)”の一室であり自分はその寝室のベッドで眠っていたのだ
 「…あの時の夢か…」
 今でもあの魔女の言葉を信じ切ってはない、しかし実際に過去へは送られたのだから少しはアテしてもいいとは思う。 何かを企んでいるならその時は戦って倒すまでである
 「…お嬢、お目覚めですかい?」
 護衛であり同居人でもある天草十三が部屋に入ってくる
 「…ええ、おはよう天草…そう言えば今日だったわね?」
 「ええ、【スナイパー・イーグル】の試作品のテストです。 あれが完成すりゃ俺だってちっとは戦力になれますからねぇ?」
 「…そして量産が出来ればファントムにも十分対抗できる…ね…」
 縁寿が浮かない顔なのは、それが結局自分のいた未来と同じではないかと思うことだ。 ならば結末も同じなのではという不安に駆られる 
 「…分かったわ、あたしはその間一人で行動する…昨夜倒した悪魔が何をしてたか調べる必要はあるでしょう?」
 「…一人で…ですかい…?」
 天草が渋い顔をするのは当然だろう、しかし縁寿はそれを気にした様子もない
 「…へいへい…しかし無茶はせんでくださいよ? お嬢に何かあっちゃ護衛の名折れですからねぇ…」
 「…善処はするわ」
 天草は不安を覚えつつも出掛けるために部屋を出て行こうとするが一度だけ振り向き言った
 「それじゃお気をつえてお嬢…いえ、コードネーム”グレーテル”…」





  六軒島戦隊 うみねこセブン番外編

  〜蒼き戦士グレーテル物語〜


 序章 コードネーム・グレーテル その2

 「…はぁ…」
 ワルギリアは何度目になるであろう溜息を吐く、”彼女”に任せてはみたものの前回が前回だけに不安は募るばかりであった。 ルシファー達はうみねこセブン撃破に出撃しており静かな本部で一人考え事をするとどうしても嫌な方向にいってしまう
 「…アノ…ワルギリアサマ…」
 「…ん? どうしました”めっちぇ”…?」
 「…エヴァサマガ、マチデオオアバレシテイルト…」
 「は…?…はいぃぃぃいいいいいいっ!!!?」
 黒山羊からの報告にワルギリアは大声で叫んでしまうのだった

 エヴァの号令のもと、黒山羊六体とヨーダ兄弟の二人が暴れまわっている。 ワルギリアから謎の戦士調査の任務を受けたエヴァであるが彼女はそういうちまちましたことは嫌いであった、そのため騒ぎを起こせば向こうから出向むくであろうと、こんなことをしているのだった
 「…兄さんたちは来られない!?」
 『うむ…戦人達は現在別の敵と交戦中でそっちには行けんのだ!!』
 「…仕方ないわね…敵の数は?」
 『この前戦人達が交戦したエヴァとかいう者と配下が数名ということらしい…』
 「…エヴァ…?」
 縁寿の目が驚きに見開かれた後鋭くなる、それの瞳に映るのは間違いなく憎悪であった
 「…分ったわお祖父様…エヴァはあたしが…殺すっ!!!!」
 『…縁寿っ!?』
 縁寿の声色の変化に驚く金蔵を無視し彼女は通信機のスイッチを切る
 「…エヴァ…兄さんを殺したファントムの魔女…いいわ、今度は…この世界ではあたしがあんたを殺してやるっっっ!!!!」
 エヴァ達が暴れてるであろう音のする方向をキッと睨みつける、その瞳は十八の少女とは思えないほど冷たく憎悪に満ちていた
 「コアパワー・チャージオンっ! チェンジブルーっ!!」

 空中に浮かび暴れまわる部下を眺めていたエヴァは蒼い人影が突撃してくるのに気がついた
 「…現れたわね、まずはお手並み拝見といきましょう?」
 エヴァの命令が下され六体の黒山羊が攻撃を仕掛ける
 「…雑魚はどいてなさいっ! 【天使の双刃(エンジェリック・ツインブレード)】っ!!!」
 力任せに振われたブレードは一撃のもとに黒山羊を斬り裂いていく、そして最後の一体を斬ったところで今度はヨーダ兄弟が襲いかかってきた
 「…こいつらは昨日の…? 同種族!?」
 ナンノ・ヨーダと同じ【雷斗星刃(ライトセイバー)】を構えながら左右に分かれて攻撃をかけてくる、グレーテルは一瞬の思考の後左側の敵…ソノ・ヨーダに狙いを絞る
 「たぁぁぁああああああっ!!!!」
 ソノ・ヨーダはブレードの片方を剣で受けると素早く後退しもう片方による二撃目をかわす。 そこへダレニ・ヨーダが攻撃をかけるがグレーテルもそれを予測し対処するくらいはやってのけた
 しかし一方が陽動、もう一方が死角からの攻撃にグレーテルは攻めきれないでいる。 もしここにもう一人――ナンノ・ヨーダがいたら討ち取られているかも知れないというレベルの連携であった
 「…くっくっくっくっ! このまま兄者の仇を討たせてもらうぞ小娘っ!!」
 「…!?…兄者?」
 兄の仇というダレノ・ヨーダの言葉に一瞬ぎょっとなる。 しかしすぐに鋭い眼で睨み返しなが叫ぶ
 「ふざけないでよね、攻めてきてるのはそっちでしょうっ!? 【天使の飛翔刃(エンジェリック・フライブレード)】っっっ!!!!」
 「…ぐっ…うおぉぉぉおおおおおおおっ!!!?」
 「…ダレニっ!!?…がぁっ!!!?」 
 グレーテルの右腕を離れて飛ばされたブレードがダレニ・ヨーダの身体を斬り裂く、そして弟がやられた動揺で一瞬動きの止まったソノ・ヨーダの胸をもう片方のブレードで貫き倒す
 「…ふん…さあ、残りはあんただけよエヴァっ!!!!」
 消滅していくヨーダ兄弟には目もくれずエヴァを睨みブレードを構える、そのグレーテルの容赦のない戦い方にエヴァはぞっとするものを感じた 
 「…あ、あんた…くっ! 【ファイア・アロー】!!」
 「…【天使の守護領域(エンジェリック・ガードフィールド)】!!」
 エヴァの放った炎の矢はグレーテルの寸前で弾け飛散する。 驚くエヴァに向かって【天使の飛翔刃】が放たれるがすんでのところでエヴァは回避した
 「…こいつ…あのうみねこセブンとかいう連中より数段強い!?」
 接近戦だけでなく飛び道具を持ちあげくには魔法を防ぐバリアまで張ってのけるオールラウンダ―ぶりにさしものエヴァもやっかいな敵と認めざるを得なかった。 このまま遠距離からの攻撃でじわじわと消耗させていけば十分に勝算はあるだろうが、時間をかけてもしセブンまでこの場に現れることにでもなれば少々分が悪い
 「…あんた名前は?」
 「…グレーテルよ、あんた達ファントムを滅ぼすためだけに生きている戦士…」
 「…いいわグレーテル、今日のところは引き上げてあげる…でも次に会ったら絶対殺してあげるわよぉ?」
 「…あたしは今すぐにあんたを殺してやりたいわ…」
 互いに殺意の籠った目で睨みあう。 しかしエヴァはグレーテルの力量が未知数ゆえ、グレーテルは空中のエヴァに対し有効な攻撃手段のなさゆえにそれ以上はやりようもなく、やがてエヴァが転位魔法で消えるまでそのまま睨みあっているのであった…

 アパートに戻った縁寿を天草が出迎える。 【スナイパー・イーグル】のテストは良好であとは最終調整を終えれば実戦投入は可能らしい
 「…ファントムと一戦交えたらしいですが、あんま無茶はしないでくださいよお嬢?」
 「…襲ってくるんだから戦うしかないでしょう? 無茶とか無茶じゃないとかいう問題じゃないわ」
 そう言う縁寿がどこか不機嫌なのに天草は気がつくがこういう時の縁寿は何を言っても答えてくれないだろうと思いその理由を問うことはしない
 「…エヴァ…あいつだけは絶対…殺す! あたしはグレーテル…ファントムを滅ぼす者だもの…」
 「…お嬢…?」
 天草に答えることなく自分の縁寿は部屋に入ってしまう。 しかし一瞬だけ垣間見えた縁寿の冷たい瞳にぞっとするものを感じたのだった
 (…あんな憎悪と殺気、傭兵にだって滅多にいねえぜ…それをあんな十八の女の子が放つだと?…冗談じゃないぜ…)
 いつかその憎悪が彼女の身を滅ぼすかも知れない危険な予感を天草はこの時覚えるのだった


 「…ヨーダ三兄弟が…黒山羊達も前回と今回で十一人…目的を達したとはいえ多い犠牲ですね…」
 ワルギリアは無念そうに俯いた後ロノウェの方を見る。 そこには巫女服を着た五、六歳くらいの女の子がロノウェに手を握られて立っていた、頭の上に狐の耳と尻尾まで生えていることから当然人間ではない。 人間の開発で住処の山を追われ親とはぐれた妖孤の子供であった
 「…この子の親とはすでに連絡をとってあります、数日中には引き取りに来るかと…」
 「…一人の命を救うのにその何倍もの命を失う…やりきれません…」
 そもそもナンノ・ヨーダに任せた任務とはこの子の保護であり、人間と戦う必要などまったくなかったはずなのだ。 ファントムのしていることを考えれば因果応報なのかも知れないがワルギリアはそう簡単には割り切れそうもなかった
 「……それにしてもエヴァ様の遭遇したというグレーテルなる者…気になりますな?」
 「…グレーテル…グリム童話でしたか? 幼い兄妹の物語…何にしても我らの敵ですね…」 
 ファントムが戦わねば幻想の者を待つのは緩やかな滅びだろう、しかし人間とて撃たれれば撃ち返す…その結果双方に多くの犠牲がでる。 その先に待つのもまた滅びかも知れないと不吉な事を考えてしまう
 そしてこの期に及んでも非情になることができない自分の性格を呪いたくなるワルギリアであった…


序章 終


〜NEXT STORY〜

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