番外編 うみねこセブン、ハロウィンの戦い!?
この日右代宮縁寿はご機嫌だった、今夜は家族揃ってハロウィンパーティーをやる予定なのだ。 だから玄関の扉が開く音が聞こえた途端に部屋を飛び出す、この時間なら兄・戦人が帰ってきたと思ったのだろう
「おにい…!!?」
玄関から入って来たのは戦人ではなくカボチャのマスクをすっぽりかぶった怪しげな三人組だった、体格からすると女性のようである
「…な…なに…?」
あからさまに不審な人物の登場に怯える縁寿は数歩後さづる、その時その不審者の一人が出刃包丁を取り出し縁寿に向けにじり寄ってくる。 そして三人が声を揃えて声をあげた
「「「悪い子はいねぇぇがぁぁぁああああああああっ!!?」」」
「きゃぁぁぁあああああああああっ!!!!」
「…絶対許さねえぜファントムっ!!!」
何度目になるのか戦人の怒りのこもった声が響く。 家に帰って来て彼が見たのは気絶し倒れていた縁寿だった、慌てて助け起こすと怯えた顔で戦人に泣きながら抱きついてきた
「…気持ちは分かるけど落ち着くんだ戦人君、焦ってもすぐには見つからないよ?」
「ああ…祖父様の情報ではこの町内を移動しているらしいことは分かっているんだ、落ち着こうぜ?」
それは戦人も分かるが分かっていても抑えられないのが感情である、よりにもよってこのハロウィンの日にカボチャの仮面を付けて縁寿を襲うなどとても許せない
「…う〜? 今悲鳴が聞こえた?」
「何っ!?…あっちかっ!!?」
最初に真里亞が気が付き二度目には戦人にもはっきりと聞こえた、すぐさま駆け出しそして走りながら変身をする
「コアパワー・チャージオンっ!!! チェンジレッドっ!!!!」
ブレスレットの”コア”が輝き戦人の身体を包む、そして彼の服がウェットスーツのようなものに変わりさらに光が個々に形を形成していき各種アーマーが実体化し装着される
「おい戦人…しょうがねえなぁ…コアパワー・チャージオンっ! チェンジイエローっ!!」
「戦人君は縁寿ちゃんのことだと熱くなりすぎだよ、真里亞ちゃん僕達も…コアパワー・チャージオン、チェンジグリーン!!」
「う〜!! コアパワーチャージ〜オ〜ン♪ チェ〜ンジピンクぅっ!!!」
やれやれといった様子の朱志香達とも変身し急いでレッドの後を追うのだった
一目見ただけでレッドにはその正体が分かる、顔を隠していてもその独特の服装は忘れようもない
「犯人はお前らか煉獄七姉妹っ!!!!」
「…くっ! うみねこセブンかっ!?」
おそらく縁寿と同様に誰かを驚かして逃げて来たであろうルシファー・マモン・アスモデウス(声からすると)と鉢合わせになった
「お前らみんなの楽しいハロウィンだってのにどういうつもりでこんなことやってんだよっ!」
「どういうも何もハロウィンに魔女や悪魔が人を脅かして何が悪いっ!?」
怒鳴るレッドにルシファー(と思われる)が負けじと言い返す。 合っているいうな間違っているようなその理屈に彼らは思わず唸ってしまう
「…だからってカボチャ頭でナマハゲはねぇだろ、普通…」
イエローが呆れた口調でやっと言うと三人はとは?というような顔を多分した…多分と言うのは彼女らはいまだにカボチャマスクを被ったままだからだ
「…ナマハゲ? 何よそれ…?」
マモン(と思われる)に他の二人も頷く、ナマハゲを知らずにやっていたということなのだろうかとセブン側も首をかしげたくなる
「…と、とにかくこうなっては仕方ない! いでよ幻想怪人ジャック・オー・ランタンっ!!!」
ルシファー(と思われる)の呼びかけに応えカボチャ頭に黒いマントをはおった怪人が彼女らの背後から姿を現す、気のせいかマモン(と思われる)パンプキンが一瞬自分の頭の上を警戒したような気がした
「…ジャック・オー・ランタンとは…まさにハロウィン仕様だね」
「う〜☆ジャック・オー・ランタン〜☆」
グリーンが感心したように言いピンクはその姿に喜んでいる。 しかし以前の亀怪人のこともあるし外見に惑わされてはいけないだろう、レッドとイエローは攻撃態勢をとる
「…【蒼い光剣(ブルー・レーザーソード】!」
レッド用に試作されたレーザーソードを握りしめてジャック・オー・ランタンに斬りかかる、レッドの実力次第だが最大出力さえ出せれば計算上はメガラの甲羅ですら斬り裂くも可能な武器だった。 しかしその刃がランタンを斬り裂くことはなかった、なぜなら…
「…マイリマシタ、コウサンシマス!」
「…はぁっ!!!?」
驚いたのはレッドだけではない、ルシファー達もいったい何事かという顔をこれまた多分している。 その疑問に答えたは彼女らの背後から聞こえた静かな女性の声だった
「…当然です、その子はあくまでハロウィンで子供達を驚かすための怪人です。 ケガ人でも出たら大変ですから戦闘能力なんてぶっそうなものを付けるわけないですよ?」
「「「ワルギリア様っ!!?」」」
「…そういうわけですセブンの皆さん、貴方達は戦闘力を持たないこの子でも倒しますか?」
そう言われると彼らとしても困るところだった、何しろ相手は戦闘力皆無でしかもすでに降参しているのだ。 さっきまでファントムを許さないと息巻いていたレッドでさえ剣を降ろすしかない
もちろん罠かと疑ってもみたがランタンのカボチャ頭は青ざめており脂汗すら浮かんでいるのが見えると嘘とも思えない
またルシファー達もこのことは初耳だったのか呆然とワルギリアを見つめている、演技には見えない
「…だがいったいどういうことなんです?」
「…せっかくのハロウィンですからね、私もあの子もちょっと遊んでみたくなっただけですよ…ついでにちょっと日本風にアレンジしてみましたけどね」
グリーンの問いにそう言っていたずらっぽく笑うワルギリアをセブンは唖然と見つめている、そして本当にこの女性はファントムなのかと疑いたくなる
「…今日のところは遊びですが貴方達とはいずれ戦うしかないでしょう、しかし私達魔女は決して意味もなく命を奪ったり物を破壊したりはしません…そんなことをするのは人間だけです」
「何だってっ!!? 勝手なことを言うなっ!!!」
レッド達は憤り彼女を睨みつけるがグリーンだけはその理屈にも一理あることを認めていた、少なくとも人間側の事は認めるしかない
「普段の闘志といいランタンへの攻撃をやめる優しさといい貴方達は真っ直ぐな少年達のようですね、これからも人間界の毒素に侵されないよう…気をつけなさい…そしてもしもの時は……」
ワルギリアはケーンを振るうと無数の蝶が舞いそしてそれが収まる頃にはパンプキン・ルシファー達ととものその姿を消していた。 最後に何を言ったのかを聞き取れたのはピンクだけだった
(…う〜…あの子を救ってあげて…?)
その意味を彼女はまだ理解することは出来なかった
「トリック・オア・トリ〜ト〜♪」
黒いとんがり帽子にマントという仮装をした縁寿が留弗夫と霧江に言い寄っている、二人は笑いながら用意していたお菓子を縁寿に渡す。 そのはしゃぐ顔からは昼間に脅かされて怯えていたことは想像も出来ない
「…奴らのことは覚えていない…か…」
何故かは知らないが戦人が戻って来た時には七杭達に驚かされた記憶だけがなくなっていた、縁寿だけでなく被害者全員がそうらしい。 予想ができないわけでもないがそれを認めるには彼には抵抗があった
「…あのワルギリアか…?…どういうつもりなんだか…」
譲治はまるで自分達があのワルギリアに試されていたみたいだと言っていた、確かにガァプの実力を考えればあの魔女にも相当の力があってもおかしくはない、それこそ自分達を簡単に全滅させるくらいのものがあっても不思議ではない
今まで考えたこともなかったが特撮番組の悪の組織でもないのだからファントムにはファントムの理由というものがあって当然なのかも知れない、もちろんそのために人を襲うという行為を許す気はないがそれを知ることで不要な戦いを回避する術があるのではとも思える
「…ちゃん…おにいちゃんっ!!」
「…ん?」
考えに耽っていたため縁寿が近寄っていたことに気がつかなった、少しむくれた表情なのは彼がトリック・オア・トリートと言っているのを無視していると思ったのだろう
「…あ、すまねぇ縁…」
「…いいも〜ん、おかしをくれないならいたずらしちゃうぞ〜♪…こうだっ☆」
「…!!!?」
縁寿は勢いよく戦人に跳び付くとその頬にキスをしたのだった。 突然のことに戦人だけでなく留弗夫と霧江も目を丸くしてしまう
「な、ななな…え…縁寿っ!?」
「まあ…縁寿ったらおませさんねぇ?」
「ほう? 縁寿もやるじゃねえか、どうした戦人ぁ? 妹のキスぐらいで何を照れてやがる?」
戦人は顔を赤くしそんな彼を両親がからかうように笑う、そんな平和で穏やかな時間が流れ夜は更けていくのだった
ちなみにまったくの余談ではあるが後日戦人らが遊園地を訪れた時……
「なあ…譲治の兄貴、あのジャック・オー・ランタンってどっかで見たことないか?」
「う〜ん…気のせいじゃないかな? 何でもファンタジアから派遣された新しいマスコットキャラの人らしいよ?」
「う〜♪ 真里亞も風船貰ってくる! う〜☆」
「おし! 行ってこい真里亞!」
はしゃぐ真里亞とそれにつき合う朱志香を見ながらもどこか釈然としないものを感じる戦人だった
設定
【蒼い光剣】:【蒼い幻想砕き】の弾丸を解析しそのデータを使って開発された試作レーザーソード、強力ではあるが出力が使用者に左右され安定しないのと現状レッドのコア以外では波長が合わず使用不可能なのが欠点
幻想怪人ジャック・オー・ランタン:ハロウィンに子供達を脅かすためだけに創り出された怪人、安全のため戦闘力は皆無で性格も大人しい、おそらく真里亞(変身前)でも勝てる。 (リーア師匠の)連絡の不備からルシファー達は戦闘用と勘違いし本来の目的に運用さえることはなかった