がんばれ黒山羊戦闘員

 彼の名は樫鯉黒山羊(かしこい・くろやぎ)、ファンタジア・エンタープライズに勤める一般社員だった
 「…どうしました樫鯉君、元気がないですね?」
 「…あ、社長」
 廊下ですれ違いに彼に話掛けたのは社長である悪桐屋有子(わるぎりや・ゆうこ)だった、大会社の社長の立場でありながら一般社員にも気を配るのが彼女の評判の良いところだ。 逆に悪いところは健康に良いとすぐに鯖系食品を進めるところだった
 「実は同僚の小林隼人君がこの前の戦闘で重傷を負いまして…」
 「小林君だけではありませんね、紫電(シデン)君や安室(アムロ)君もですね…おかげで最近人事課は大変ですよ…」
 そう言って溜息をつく悪桐屋、このファンタジアの社員の約50%は黒山羊が化けているので戦闘でやられると穴埋めが大変だし普通の人間の社員への説明も一苦労なのだ
 「穂征(ほせい)君が戦死した時はやれ転校しちゃったんだと大騒ぎになりましたものね…」
 「…そうなんです、それでもし僕に何かあったら残された妹がどうなるかと考えてしまって……」
 悪桐屋のおかげで万が一の時の家族への保障態勢は整っているため当座は生活に困ることはないだろうがそれでもいろいろ心配なのが兄心というものだろう
 「…私としても貴方達が傷つくのは本意ではないですが、これも重大な使命ですからねぇ…まったくあのうみねこセブンとやらにも困ったものです、私達だって何も人類を皆殺しにしようというわけでもないんですがね…ただちょっ〜と人類を支配したいだけなんですが…」
 おっとりとした声で物騒なことを口走る、天然なのか演じているだけなのと問われればファントム構成員のほとんどが天然と答えるだろう、それが彼女たるゆえんなのである
 「…とにかく彼らさせ倒してしまえば残った人間など取るに足らないでしょう、そうなれば双方に必要以上の犠牲を出すことなく我らの悲願は達成されるはずです…それまでがんばってくださいね?」
 それは悪桐屋――いや、ワルギリアの本心だった、敵であるうみねこセブンであっても見たところ若い青年達で構成されていることを気にしていた。 なるべくなら命までは奪いたくはない
 しかし弟子であり娘同然のベアトリーチェの願いも叶えてやりたいと思うのも本音だ、その邪魔をするなら倒すしかない
 その時樫鯉の携帯が鳴りメールの着信を知らせる
 「…特務発動? 黒山羊は第3から第5部隊まで召集命令?」
 特務とはファントムの戦闘員としての仕事ということだ、そして彼は第3部隊に属している
 「…気を付けていきなさいね?」
 「…はいっ!!」
 ワルギリアの激励に答え彼は走り出す、そうすべてはファントムのために…それが彼ら黒山羊戦闘員の使命なのだ。 そんな彼の決意をワルギリアは走り去るその背中に見たのだった


 ちなみに――

 「【魔王破岩脚】っ!!!!」
 「おぎゃぁぁぁああああああああっ!!!!」
 この日の戦闘開始3分後に彼はやられ全治1か月の重傷を負ったのだった


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