最終話T 「シンデレラ後日談」

戦人たちが、ティル・フィングとの決着をつけていた頃、演劇のほうもクライマックスを迎えていた。


「このッ!ガラスの靴がッ!足にぴったりはまればッ!玉の輿なんだからもっと気合入れなさい!!」

「痛ててててててて!む、無理っす!無理ザマス!!ホント足入らないから堪忍してぇぇぇ!!」

継母役の絵羽がいじわる姉の足にガラスの靴をぐいぐい押し込むたびに、姉役の役者は悲鳴を上げる。

迫真の演技である。まぁ舞台に乱入し悪事を働こうとした恨みもあったわけだが。

いじわる姉役:チョコ・ザイナー……
シンデレラの義理の姉。舞踏会に向かう途中、魔王キーンゾーの魔力により劇そのものをぶち壊す魔物と化してしまった。しかし、突如現れた幻想刑事ヴァンダインとホワイト☆クレルンにボッコボッコのギタギタにされ無事元の姿(?)に戻る、という設定で無理やり演技をさせられるのであった。

ちなみに客席から高速で飛んできたボップコーンがチョコザイナーの動きを止めた事が早期解決につながったのだった(ウィルがポップコーンが飛んできた方向を確認したが、二つの空席があるだけだった)。

「うぐぐぐぐ、なぜに、俺がこんな目に…」

「人が足りてないからちょうど良かったわ、つべこべ言わず演技なさい」
「でなけりゃまたボコるぞ?」

王子(楼座)と騎士(ウィル)にぼそりと呟かれ、いじわる姉ことチョコ・ザイナーは慌てて演技に戻る。
ウィルもせっかくということで「事件を解決した活躍を認められ、騎士として召抱えられた」という設定で劇に参加していた。

話は進み、シンデレラがガラスの靴に足を通す。

「おお、このガラスの靴にぴったりのそなたこそがシンデレラ!我が妃となってくれますね?」

王子の言葉にシンデレラ役の夏妃がこくりと頷く。
万雷の拍手を浴びながら幕が下がっていく。舞台演劇シンデレラ無事終了である。



―――終了のはずなのだが、カーテンが下りた舞台の前にクレルが進み出る。
ざわつく観客席。

「シンデレラは末永く幸せに暮らしました……童話は、この一文で終わっています。しかし、実際に見て見たくはありませんか?シンデレラのその後を?」

客席から子供達の「見たーい!」という無邪気な声が聞こえてくるのをクレルが満足そうに頷く。


「シンデレラのその後…王子との子供に恵まれ、幸せに暮らすシンデレラ……」
クレルが朗読を続ける中、舞台の幕が再び上がり出す。


「えっ!ちょっ!ウィルこれはどういう!?」
「絵羽さん!私も何も聞いてませんよ!?」
上がりつつある幕。理御と夏妃の二人が慌てる。

「即興で脚本書き直しただけじゃつまらんだろ?折角だからおまえも子供役で出ろ」
「自分の子供と幸せに暮らすシンデレラの図…いいじゃなぁ〜い♪」

ウイルと絵羽がニヤニヤしながら夏妃と理御を見る。
硬直する夏妃と理御。大丈夫かしらと少し心配そうな楼座。
そしてチョコ・ザイナーがこそこそと幻想界へと逃げ帰る。

幕が完全に上がり、舞台には夏妃と理御が残された。

「………………………」
「………………………」
しばらく続く沈黙。

「…夏妃姉さんがアドリブ利かないのは覚悟してたけど、ヒーローショーで誤魔化した後の話を即興で考えたあの子が固まるのは意外ね…」
絵羽が当てが外れたと少し焦る。


「お…お……」
意を決したように理御が言葉を搾り出す。


「お母様!!」


「……はい♪」

先ほどまで冷静だった理御が緊張してるのを見て、逆に夏妃の緊張はほぐれる。
そしておかしそうに返事を返す。
それを見て理御は嬉しいような恥ずかしいようななんともいえない表情で顔を真っ赤にした。

(この辺のアドリブの利かなさは、やはり親子ですね)
(だな)
ウィルとクレルはニヤニヤと苦笑する。


そして再び幕は下りる。
たった二言だけの後日談。

しかし見ていた人たちは、二人の表情で十分幸せだったことが理解できたと先ほどよりも大きな拍手を二人に送った。

story:らいた   


最終話U

執事服を着こなしてから、早数時間。

この執事、メイド喫茶連合VS茶屋『おっさん』のバトルは、既に激化していた・・。

その中で・・。


一人の恋する乙女は、戦人の顔をじーと見つめていた。


「ほわぁ・・。」


無我夢中で見つめる少女は、黒髪ロングで、赤いブレザー服みたいな服を着ていた。

「…。はっ!いけない、ここに来たからには、なにかを・・。頼まないと」

メニューを見ながら、じろじろと辺りを見渡す。


人間界に来て、早数ヶ月。

思えば、いろんな事があり過ぎて、今日を迎えてしまった気がする。
戦人との一騎打ちに巻き込んでしまった、あの二人は、今、どうしているのだろうか・・。
自分は・・。こんな所に居て良いのか・・。


「…。フロスト、ランタン・・。」

小声でそっと、呟いてしまうのは、今は、何処に居るか分からない、あの二人の姉弟の事だった。







「えーと・・。後、注文を頼んでいないのは・・。」

戦人がキョロキョロしていると、ふいに彼女の顔を見つめた。

「あの子だけか・・。」






「どうしよ、決められそうにない・・。」
「…。お、お客様・・。ご注文をお決まりでしょうか?」
「は、はぅ・・。」

頬を赤らめながら、私は、メニューの絵にキョロキョロしていた。
まず、なにしろ・・。こんな所に来た経験が少なくて、実際に注文するのは、初めてで・・。

不安がいっぱい、あり過ぎた・・。


「そ、それが・・。き、決められないの・・。」
「おや・・?どうしてですか?」
「だって、美味しいモノがあり過ぎて、決められないの・・。」

赤らめながら・・。メニューを適当に指さす。

「これ、私の持っているお金で足りるかしら・・。」
「チーズタルトか・・。うん、それなら、足りるぞ」
「なら・・。それ、1つ、頂戴」
「はい、畏まりました」


story:白右鎖璃月   


最終話V 「あとしまつ」

「……おや?」

文化祭最後の締めを告げる校内放送。
秋の夕日差し込む学園の廊下で一人ぶらついていた天草は、洗い物の音だけが静かに鳴る教室に目を向ける。

「そろそろ学徒さんたちの真の逢瀬が始まるってのに、ご苦労なこった。それとも暇持て余しているんかねぇ……」

扉の窓からひょいと顔を覗かせる。雑用を押し付けられた不遇な子猫でもいないか、ちょっとだけ期待しながら。
果たしてそこにいたのは……

「ふんふんふふーん、ぱんぱんぱぱーん♪」

「(ありゃ。まじかるさんでしたか。)」

右代宮家料理人・郷田敏郎。彼は一人黙々と――されど楽しそうに、山のように積まれた食器たちを片付けていた。
そのまま立ち去ろうとした天草。しかしここを去っても何をするわけでない。
しばらく外で眺めていたが、尚も仕事を続ける男の満面の笑みに興味が湧き、気付くと戸を叩いていた。

「……おや。どなたですか?」

一度のノックに素早く手を止めそちらへ向く。
応じるように音も無く戸を開け、後ろ手で滑らかに閉める天草。何でもないと言うようにひらひらと手を振る。

「天草さんでしたか。如何でしたか?」
「いいもんですねぇ。学生さんらしい非日常、ヒーローらしい非日常、眺める分には一粒で二度美味しい時間を過ごさせていただきました。」

両者共に件の一部始終は知っていた。まぁ天草はのらりくらりとしながら祭りを楽しみ、郷田は自分の任された店舗を守っていたわけだが。

「それは良かった。私も生徒さんのお手伝い、という形でここに参りましたが、とても有意義な一日でした。」
「盛況だったらしいですねぇ。なんか郷田さんの方が張りきっちゃって、終いにゃ午後来店した絵羽さんと大立ち回りしたとか?」

ドタバタ劇も無事に終わり、あの後絵羽は『家庭の味も良いけどやっぱり本格派だよねー。』という声を聞きつけ郷田の手伝うレストランに駆けつけていた。
午前の盛況ぶりはあの二大勢力の闘争二も負けてはいなかったが、午後からの盛り上がりは更に拍車が掛かっていた。それもこれも、郷田の時間に合わせたメニュー切り替えのお陰だろうか?

「まさか絵羽様と料理で勝負することになるとは思いも寄りませんでした。これでも料理人のはしくれ。お仕えする家の血族の方が相手と言えど、啖呵を切られては受けずにいられませんでした。いやはや、思い出してみると恥ずかしい限りです。」

それはさておき、彼らの対決はすさまじいものだった。名のあるシェフ対名家の奥方。物見遊山で見物に来た者は、ただのパフォーマンスくらいにしか思わなかっただろう。
しかし実際には見る者を圧倒する真剣勝負。先に絵羽自身が手加減無しと宣言していたこともあってか、両者の腕は遺憾無く振るわれていた。それはよくテレビ番組で行われるような、――悪く言うとおちゃらけた対戦とは格の違う、言わば緊迫した戦場の様相。
誰もが息を呑む、互いに過去為してきた全てを投入した調理時間。
各々の得意分野が随所に表された、共に世界一と呼べる最高の料理のお披露目と紹介。
――挙げれば切りが無いが、それ程までに魅力を取り上げられる時間が底にあった。

「有名ホテルの甘甘スウィーツVS母の激辛料理フルコース!でしたっけ? 是非つまみたかったですねぇ。何やら途中でお客さんが決闘始めたから有耶無耶になったんでしたっけ。」

その二人の特徴。見るからに子猫のように可愛いのに、中身は真っ黒な狸少女。そしてもう一人は努力の集大成を評価してくれる格好良い人なんだけど、やっぱり少女趣味な女性(?)だったそうな。全く誰か分からないねッ!

「はい。それでも楽しい一時でした。あれだけ本気になれたのも久しぶりです。誰かと味を競い合う感覚、ここ最近は忘れていた気持ちが蘇りましたよ。」
「あぁ……そうでしたっけね。粋な計らいしてくれるじゃないですか。まぁあの人のことだから、単に勝負したかっただけなのかもしれませんが。」

部下として働いた頃を思い出す天草。ここではない世界でもしばしば垣間見られた、家庭を大事にする絵羽の顔が目に浮かぶ。


―――楽しかったでしょうねぇ、そりゃあとてもとても。―――



そしてまた静寂。
ちょっと怪しげな優男は何をするでなく、淡々と後片付けをこなしていく大男を見つめる。

「……楽しいですかい?」

何気なく口を突いて出た言葉。
ここに入る時に感じたこと。既にもう答えは分かっていたが、聞かずにはいられなかった。

「……楽しいですよ。」

それだけで通じる。
この人にとっては料理に繋がる全てが楽しいもの。
それがどう見ても大変な前日からの下ごしらえでも。それが八百長とも勘ぐれる騒がしい料理対決でも。それが一見面倒な皿洗いでも。
それが好きなことに繋がるから、どれも楽しい。

「……そいつぁ良かった。」
「有り難う御座います。」

彼には料理が一番似合っている。


―――じゃあ、自分もこんな風にへらへらしていないで、当面の目的を果たさないと、かな。―――


「おっと。そろそろフォークダンスが始まる時間ですね。天草さんも、行ってみては如何ですか?」
「そうですねぇ。縁寿さんでもからかいに行きますか。ついでに……っと、若い子とも交流してくっかな。」

軽く伸びをして後ろ手を突いていた机から離れる。
終盤に差し掛かった片付けを優雅に進めつつ、郷田は天草に笑いかける。

「まだまだお若いですよ、あなたも。」
「ですか……、ははは。有り難う御座います。」

扉へと歩き出す護衛の青年。流しで待つ戦友たちを労る手を止める料理人。
ひらひらと振られる手と礼儀正しいお辞儀は、背を向け合いながらも互いを視送っていた。


―――それがあれば視える。それで良いんですよ………ってね。―――


story:神風刹那   


最終話W「蝶々の舞う頃に」

――うみねこ学園中庭 待ち合わせ時間5分前

「ふう……一時はどうなることかと思ったけど、文化祭が無事に続いてよかった」
 待ち合わせ場所に着いた紗音は安堵のため息とともにそう言った。
 ここは中庭のほぼ中央部に建てられたお城のようなオブジェの前。爆弾を巡る戦いの最中も終わった後も、盛況状態が続いている執事&メイド喫茶をなんとか抜け出してきて、紗音は今ここにいる。
 無論紗音一人の力では不可能なこと、朱志香や友人達の協力のおかげなのだけれど。
「朱志香ちゃんは、本当にいいのかな……」
 呟く。先刻のことを思い出す。朱志香だって嘉音と一緒に屋台や展示物回りをしたいはずなのに、
「ほら、紗音は――譲治兄さんとめったに会えないだろ? だから会えない分、今日ここで楽しんできなって」
 そう言って紗音を笑顔で送り出してくれた。
 その笑顔に少しも偽りがないことは、そう長くはないとはいえ、友人として、そしてうみねこセブンとしての付き合いから分かっていたけれど、それでも―――
「う、ううん、うじうじしていたらそれこそ朱志香ちゃんに失礼だよ。気分を切り替えてお祭を楽しまなきゃ」
 ぐっ、と拳を握り締めてから、時間を確認しようと顔を俯き気味にした時。

「待ってー!」「待てー!」

 聞き覚えのある声。
 顔を上げると、目の前を真里亞が走り抜けるところだった。背負っているリュックからはいつも通り、さくたろうが顔を出している。
「うー! 紗音おねえちゃん、これからデート?」
「え……?」わずかに顔を赤くする紗音に構わず、真里亞とさくたろうは続けた。
「真里亞達はね、ちょうちょを追いかけてるの!」
「うりゅー、一回捕まえたんだけど逃げられたの」
「うー、今度は逃がさないんだからー!」
「蝶々……?」
 きょろきょろと辺りを見回して蝶の姿を探す紗音。
 その時、人混みの間を、ひらひらと蝶が飛びぬけていくのが視界に入った。
「い、今あっちに、蝶々が――!」
 蝶を見かけた方角を指差しながら伝えると、
「いた? うー、さくたろ、行くよ!」
「うりゅー! 紗音おねえちゃんありがとう!」
 そう言って真里亞とさくたろうは紗音が指差した方角へ駆け抜けていった。その姿はあっという間に人混みに紛れて見えなくなる。
「行っちゃった……」
 指差し状態だった手を下ろそうとして、今度は譲治の姿が視界に入り、手を止めた。
「あ……」
 逡巡する。手を振って、自分がここにいることをいち早く譲治に知らせようか否か。
 だけど、そうこうしているうちに、紗音の姿を見つけたらしい譲治と、目が合った。
「――譲治さん!」
 思いきって名前を呼びながら手を振ると、応えるように振り返してくれた。

「ごめん、待った?」
「いいえ、全然待っていないです」
「そう、それなら良かった。もっと早くつけると思ったんだけど、途中で父さんやおじさん達に出くわしちゃってね……」
「そうだったんですか。――それにしても、この人混みの中から、よく私の姿を早く見つけられましたね。びっくりしました」
 ――事実、譲治と目が合った時に感じた胸の高鳴りは、まだ紗音の中に残っていた。
「……それがね、蝶の姿を追っていたら、偶然、紗音ちゃんの姿が目に入ったんだ」
 照れくさそうに笑って譲治は言った。
「そうなんですか……素敵ですね。それに、偶然とは思えません」

 そう。
 まるで蝶々が、紗音と譲治の、お互いに「会いたい」という想いを運んでくれたかのようだ、と。
 ふと、思ったのだった。


story:チョコ・バナナ   


最終話X「小さな夢が叶うとき」

 譲治と紗音の2人は、終わりに向けて盛り上がる学園内を歩いていた。
 爆弾騒ぎや、戦い、クラス展示等で、時間を取られ、残り時間は後少し……30分程しかない。

「鯖〜! 鯖〜! 美味しい鯖は如何ですか〜!」
「おや、譲治さんじゃないですか。よろしければ買って行って下さいませ」
「って、熊沢さん、何でここに!」

 掛けられた声に振り向くと、大きな「鯖」ののぼりが目に飛び込んで来た。

「ほっほっほっ。息子が鯖同盟の屋台を出すという事で、その手伝いですよ。同志として、鯖の凄さを伝えるチャンスですからねぇ」
「母さんがいつもお世話になってます。鯖如何ですか? 美味しいですよぉ!」

 親子2人のにこやかな笑顔―――美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。
 少し小腹が空いて来た頃合ではあるが、女性連れで鯖というのは匂い的な面で問題があるのではないだろうか。
 ちらりと紗音の方へ目を向ける……紗音はその視線を受けて、にこやかに微笑んだ。

「美味しそうな匂いですね。どんなメニューを出していらっしゃるんですか?」
「鯖寿司に、鯖サンド、鯖フリッター辺りが、人気商品ですが、鯖ジュースに、鯖アイスもありますよ。ほっほっほ」
「……さ、鯖ジュース?」
「鯖アイス……ですか?」
「鯖の概念を覆すべく開発した新商品です。よろしければ如何ですか?」
「あ、い、いえ、鯖サンド下さい!」
「わ、私は、鯖フリッターで」

 慌てて注文する2人。
 2人が薦めるのだから、美味しいのかもしれない……だが、積極的に頼みたくはない品々である。

「あ、お会計は一緒で」
「譲治先輩! それは……」
「ここは男で年上である僕にかっこつけさせてよ。これでも大学生だからね。高校生の紗音ちゃんより、懐は豊かだから、気にしないで。高級フランス料理とか、ブランドバックとか言われたら、白旗揚げるけどね」
「あ、ありがとうございます」

 福音の家出身の紗音の懐は、豊かとはいえない。
 右代宮家からは十分な援助をしてもらっているけれど、弟妹達の将来の為に出来るだけ貯金しておきたいし、援助して頂いているお金を自分の楽しみの為に使うのは申し訳ない。
 本来ならお小遣いを貰うのも贅沢ではないかと思うが、自分が受け取らないと嘉音も受け取らないし、弟妹達が気にするから受取り、大部分を貯金してきた。
 今日はお祭ということで、その貯めたお金を持って来た……一緒に行動する朱志香達にに気を使わせないよう、それを使おうと思っていたのだが―――思慮深い彼の事だから、全て察しているのかもしれない。
 負担のかからないさりげない気配りが、大人だなと思う。
 自分もいつか、こんな風になれるんだろうか。

「毎度ありぃ!」
「ありがとうございます!」

 満面の笑顔に見送られて、屋台を離れる。

「うわぁ。揚げたて熱々ですね。美味しそう」
「鯖って、匂いとか嫌がる子もいるけど、紗音ちゃんは平気なんだね」
「焼いた時の匂いは凄いですけど、お魚なんだから、当然ですよ。栄養たっぷりで安くて美味しいお魚だと思います」
「うん……そうだね」

 飾らない等身大の彼女―――柔らかな笑顔。

「あ、あの、もしかして……譲治先輩、この匂い駄目でしたか。あの、その、こういうの平気で食べちゃう女の子はその……」
「まさか。大好きだよ」
「え、あ、あの……」

 紗音の顔が真っ赤に染まっていく。

「あ、い、いや、そ、そういう意味じゃなくって……揚げたての魚って美味しいよね〜と」
「あ、そ、そうですよね。美味しいですよね!」
「うん。……まぁ、熊沢さんみたいに、毎日というのは流石に勘弁して欲しいけどね」
「くすくすくす」

 零れる笑顔にほっとする。
 言った言葉に嘘はない。好きだという気持ちは間違っていない。
 ないけれど―――

(流石にまだ早いよな)

 自分達が出会ってまだ数ヶ月しか経っていない。
 その間色々な事があった。
 自分でも整理し切れていない事が数多くあるのだ。渦中にいた彼女なら尚更だろう。

 今彼女は自分の隣にいて、微笑っていてくれる。
 傷つきつつ、前に進んでいく彼女を支え、守る事の出来る関係……今はそれだけで十分だ。

「譲治先輩?」
「あ、いや、ごめん。残り時間もったいないよな。行こう」
「はい」


 終了30分前となれば、出し物系はほとんど終わっており、食べ物の屋台も、店じまいを始めるところが出て来ている。
 鑑賞するというよりは、あちこちを覗き、文化祭の雰囲気を楽しむのが精一杯だった。

「流石に文化祭、色々な出し物がありますね」
「色々講演会もあるみたいだね。何々『西洋民俗学者大月教授のウイッチハンター講座』? かなりマニアックな講座だね」
「こちらは……『アイゼルネ・ユングフラウの法語教室』。法語って、何処の国の言葉なんでしょうね」
「『シエスタ姉妹近衛兵の弓道でBINGO☆』……ちょっと気になるなぁ。もう少し早く来れれば良かったね」

 それでも―――楽しかった。
 好きな人と文化祭を一緒に過ごす……子供の頃からずっと憧れていて、十年前のあの日に諦めた夢が叶ったのだから。

 これまで文化祭を体験した事がなかった訳ではない。
 だが、純粋に楽しむ事は出来なかった。
 福音の家を失い、ファントムの庇護を受け、弟妹達を守る為に、全てを切り捨ててしまっていたから。
 人間に、未来に期待する事を諦めた抜け殻のような心―――固く閉ざした扉を彼をはじめとする皆が開いてくれた。
 時に傷つけあったり、残酷だったりするけれど、それでも、世界は、人は優しくて温かいのだと教えてくれた。

 今は大事な戦いの最中だ。
 皆を世界を守りたいし、恩のあるロノウェ達を止めたい。
 だから、これ以上何も望まない。

 けれど―――いつか……そう願う事は……許されるだろうか。
 
「どうしたんだい。じっと見て……もしかして、口元に何かついてるかな?」
「え、あ、い、いいえ、何でもありません」
「?」
「えと、あの……」

 ドン!

「ちょっと待ってよぉおおお!」
「!」

 背中から軽くぶつかられ、よろける。
 僅かによろけたところを譲治に抱きとめられる。

「すみません! こら、気をつけなさいよね」
「慌てすぎだな。別に逃げる訳でもなかろうに」
「ご飯の為ならわかるけどね〜(もぐもぐ)」
「って、さっきからずっと食べっ放しじゃないの」

 良く似た面差しの少女達が、先に駆け抜けて行ったツインテールの少女を追いかけていく。

「今の彼女達……」
「どうしたんですか?」
「あ、いや、七姉妹だったんじゃないかなと。……ま、いいか。遊園地行けばいつでも会えるんだし。大丈夫?」
「はい。軽くぶつかっただけですから。すみません」

 慌てて離れようとする……握られた手に僅かに力がこもった。

「譲治先輩?」
「……人が多くて危ないから、良かったら……このままで歩かないか」
「え……あ、は、はい」


 ―――軽く手を繋ぎ、学園の廊下を歩く。

 頬と手の熱さを感じながら―――


story:祐貴   


最終話Y「この歌声を君に捧ぐ」


「……あ、ジェシ! 今日は楽しかった!? 今度打ち上げで盛り上がろうよ」
「うん、そうだな。そっちはもう片付け始めるの?」
「そうなのよー! 今日中にあらかたやっておかないと、明日休めないしね。せっかくの振替休日なんだから」
「あ、そう………んじゃ、頑張れよ」
「ジェシもね〜! それじゃまた………あ〜忙しい忙しい」

祭りの終わりとは、何とあっけなく物悲しいのだろう。
早くも展示品を片付け始めるらしく、慌ただしげに他クラスの友人が通り過ぎてゆく。その友人を横目で見送った後、右代宮朱志香は不貞腐れたように階段に腰を下ろした。
………慌ただしく撤収作業に取り掛かり始めた生徒たちの声が、あちこちから聞こえてくる。何もそんなに焦ってやらなくてもいいじゃないか、もう少し祭りの余韻を味わえよと、朱志香はぶつぶつと不満を漏らしながら窓越しに空を見上げた。
茜色の空が、燃えるように美しい。
しかし今の朱志香はその空に向けて再び不満げな視線を送ってから……はぁと大きな息をついた。このままぼやいていても仕方ないと何とか立ち上がったが、その表情は彼女が本来持ち合わせている元気さや覇気には程遠いものだった。
それを裏付けるように、再び彼女の口から力ない言葉が漏れる。

「正直……今年はほとんど遊べなかったしな………それに…………」

「それに」
その先の言葉を飲み込んで、朱志香はがしがしと頭をかいた。
もうこれ以上沈んでいたって、時間が巻き戻るわけではない。文化祭はもう終わり。明日からは再び、日常とうみねこセブンの一員としての闘いの日々が待っている。別に彼女はそのことを不満に思っているわけではない。
それでも………今日という特別なイベントに「何か」を期待していたのも、また彼女の偽らざる心境だったわけで。

「あ……朱志香さん、こんなところにいたんですか? もうそろそろフォークダンスの時間ですけど」
「ひゃっ!? か、か、嘉音くん!? ……呼びにきてくれたの?」

突然、朱志香の視界に現れた嘉音。
先刻思い切り頭をかいたせいでぐしゃぐしゃになった髪を必死に押さえながら、涙目で問う朱志香。怪訝な表情で首を傾げる嘉音に「じゅ、じゅ、10秒だけ待って!!」と背を向けて、ポケットから折りたたみ式のブラシを取り出すと……驚異的なスピードで「何時もの」ヘアスタイルに戻すことに何とか成功した。
「朱志香さん……? 顔が赤いですよ? 
………あ、そろそろ行きましょうか。本当にフォークダンスが始まってしまいます」
「あ、う、うん……そうだね嘉音くん」

相変わらず冷静なままの嘉音に置いていかれないように、早足で隣に並びかける。
―――彼女が言いかけた「それに」の続き。
「ま、まあ……こうやって少しだけでも一緒にいられたから、いっか………ホントは色々一緒に回りたかったけど……」
「……何か言いましたか?」
「ううん、何でもないよ………そっか、フォークダンスか……嘉音くんは初めてだっけ?」
話を逸らすように、フォークダンスについての話題を振る朱志香。
しかし、嘉音はその言葉に表情を曇らせると……不安そうな声でぽつぽつと話し始めるのだった。

「あの……すごくたくさんの女子の人から………『一緒に踊りませんか』というお誘いをいただいて……皆さんとても血走った目で必死に僕を誘おうとするんです。それが、何か……怖くて……」
「ぬあにいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!?」

その台詞を聞いた朱志香の表情が、怒りと憎しみで真っ赤に染まる。殺気に慣れているはずの嘉音ですら「ひいいっ!」と後ずさってしまうほどに。
――しかし、朱志香はそんな哀れな子羊嘉音を逃すはずもなく。

がしっ!

「痛い痛い痛い! じぇ、朱志香さん………僕の肩が……砕けますっ!! 
離してくださいぎゃあああああああああ痛い痛い痛い!!!!!」
「嘉音く〜ん? もちろんフォークダンスなんか行かないよな? そんな誘いなんて断るよな?」

みしみしみし………!!

「で、でも断りもなく、痛い痛い……行かないなんて、失礼だと思いますぎゃあああああああああああああああああ!!」
「ああ、そのことなら私が話をつけとくから大丈夫。嘉音くんはな〜んにも心配することなんてないから。
………あ、そうだ! 私のお気に入りの場所に案内してあげるから♪ ね、嘉音くん」

みしみしみし……ばきっ!!

「ぎゃああああああ! 肩の骨が! 僕の両肩がああああああああああああ!! 痛い痛い痛い!!」
「大丈夫大丈夫、次の場面では何事もなかったように元に戻ってるから♪」
「え!? そんなものなんですか!? というか僕の扱いひどくないですか!? 本編でのシリアス展開は何処に行ったんですか(以下略)」

本編ではありえないほどにはっちゃけてる嘉音。そんな彼を有無を言わさずに抱え上げ、朱志香はずかずかと歩みを進めた。その目的地は………



「ふう……いい風だな嘉音くん! ほら、こっち来なよ!」
「あれ!? 本当に治ってる!? ………あ、確かに気持ちいいですね。夕焼け空がとても美しいです」

つい数分前に朱志香の怪力に砕かれた両肩が、すっかり治っていることにまず驚愕した嘉音。そして朱志香の言うとおり、この場所から見渡す街並みと燃えるように赤い夕焼け空、心地よく吹き抜ける風に目を細めながら頷いた。
……此処は、うみねこ学園の屋上。
文化祭の後片付けやフォークダンスに繰り出している者が大半だったから、普段の休み時間や放課後は生徒で賑わっているこの場所も、今はひっそりと静まり返っていた。嘉音自身もこの場所には何度か訪れたことはあるものの、自分たち以外誰もいないというのは初めてのことだった。自分たちしかいないという開放感に、思い切り背伸びをして柵に手を掛ける。朱志香もそれに倣うようにして隣に並びかけて……嘉音と同じように街並みを見渡した。
しばらくの間、言葉もなく時間の流れに身を任せるふたり。
そして、ぽつりと嘉音の口から言葉が漏れた。
視線は、間もなく沈んでゆく夕日へと真っ直ぐに伸びていた。真っ赤に染まった、夕日へと。

「僕………赤い色はこれまで大嫌いでした。
あの時の炎を思い出すから。あの時の悲しさと自分の情けなさを………思い出すから」
「うん……………」

朱志香は、嘉音の言葉を否定しなかった。静かに頷き、その先を促す。
嘉音が背負った悲しい過去。悲しみを乗り越えても、その事実をなかったことにはできない。傷痕は、一生残る。体にも、心にも。10年前の悲劇はこれまでも、そしてこれからも嘉音の心から消えることは決してないだろう。
しかし、それでも。

「……………でも最近は、そんなに嫌いというわけでもないんです。どうしてだろう、ってずっと考えていました。そして今、この夕日を見て……分かりました。
赤は、戦人さんの色だから。強くて優しい、戦人さんの色だからだって、今分かりました。
僕も、あの人みたいになりたいです。この夕日みたいに、戦人さんみたいに………人の心を暖めることができる、そんな人間に」
「…………嘉音くんなら、なれるよ。絶対に」

朱志香の言葉に、嘉音は「ありがとう」と微笑んだ。
そして。

「朱志香さん………今日はありがとうございます。あまり一緒にはいられませんでしたけど……一生思い出に残る文化祭でした」
「あ、あははは……途中戦ってたもんな〜私たち(汗)
ま、こういうのの方がかえっていい思い出になるかもしれないよな! 私こそありがと、嘉音くん。最後に私の我がままに付き合ってくれて」

再び頭をかきながら苦笑する朱志香。一日中嘉音と文化祭を堪能するという彼女の野望は脆くも崩れ去ったが……まあ最後に嘉音くんと一緒にいられたからいいか、と思い直す。
「あ……そうだ! ちょうど今は私たち以外誰もいないから……初披露しちゃおうかな〜!」
「え………? 何ですか?」
何やら企んでいるような含み笑いを浮かべると、怪訝な表情の嘉音から数メートル距離をとる朱志香。
そしてごほんごほんと、大げさな咳払いを繰り返してから。




青いくもり空
二人してあるいた
そのとききみはまだ笑ってた


朱志香は、目を閉じて。
嘉音は、目を見開いて。



遠くまで投げ捨てたあなたの思いを拾った
母の日の手紙には、ありがとう


朱志香は、何時も厳しく……そして時に優しい母を想った。
嘉音は、自分を産んだ顔も分からない母に祈りを捧げた。



追いかけて追いかけて届くまで追い続けて
あなたの思い出があふれた 
夢が覚め一人きり。きみの顔が見えない


朱志香は、真っ直ぐに嘉音だけを見つめた。
嘉音は、真っ直ぐに朱志香だけを見つめた。





「…………ありがと、嘉音くん。最後まで聴いてくれて。アカペラって初めてだったけど………どうだった?」
「はい。とても悲しくて………でも、素敵な曲です。聴かせてくれて、ありがとう」
「私こそ……ありがとう。この曲、『生まれてきてくれてありがとう』っていう曲なんだ。
今の嘉音くんに、私が言いたかったことだから……もう一度言うね。自分の言葉で。
嘉音くん………生まれてきてくれて、私と会ってくれて、ありがとう」
「僕も、あなたと会えてよかった。本当にありがとう。そして、これからも」

何だか別れの挨拶みたいになっちまったな〜と、また頭をかきながら苦笑する朱志香。嘉音もそれにつられて笑みを漏らした。
「生まれてきてくれてありがとう」
その言葉を、もう一度胸の奥に大切にしまい込みながら。

『文化祭実行委員会よりお知らせします。
間もなく、フォークダンスが始まります。ご参加される方は急いで校庭までお越しください。繰り返しお知らせします。フォークダンスにご参加される方は……』

「……あ、やっぱりせっかくの文化祭ラストだし、フォークダンス行こうか?」
「はい、そうですね……あ、もう少しだけこの景色を眺めてもいいですか?」
「うん………そうしよう」

再び、柵に身をもたれさせて眼下の街並みを眺めるふたり。
もう、言葉は必要ない。
そして、案の定フォークダンスへの参加を忘れてしまったのは言うまでもない。


story:豚骨ショウガ   


最終話Z「彼女の文化祭」


賑やかな廊下に、一人。
ひょこりとベアトリーチェは一つの教室の中を覗き込むように顔を出した。
きょろきょろと生徒で一杯になっている教室の中を見渡す。
しかし、目の前の教室にも望む姿が見つけられないことに気付いた彼女は、
小さくため息を付くと教室を離れて再びとぼとぼと歩きだした。


……どこにおるのだ。あのバカ。

昼間に起きたドタバタの中で戦人や真里亞と逸れてしまってから数時間。
彼女の力によって騒ぎを止めたあと、ずっと彼女は居なくなってしまった戦人や真里亞を探していた。
しかし、爆弾騒ぎが起こったにも関わらず…、いや、むしろあの騒ぎからもっと盛り上がった
文化祭の人波の中で彼らを見つけることは出来ず、夜になってしまったのだ。

また、人ごみに流されてワルギリア達ともはぐれてしまった。
こっちも真里亞達を探すついでに探してみてはみたが、結局見つけることが出来なくて、
結局彼女は、折角の文化祭だと言うのにほとんどの時間を一人で過ごすことになってしまったのだ。
ため息しか出てこないのも仕方ないだろう。
…もっとも、一日ベアトと合流できなかったワルギリア達の方はもっと大変なことになっているのだが。
これはまた別の話である。

とぼとぼと、文化祭で湧く学校の中を歩く。
楽しそうに笑う学生のグループや、保護者達とすれ違うたびに、なんだか一人で歩く自分がとても惨めに感じた。
何で妾は、こんな日に一人で歩いて居るのだろうか…?

本当なら招待してくれた真里亞や戦人と一緒にお茶を飲んで、学校中を回って、1日中遊びまわるつもりだった。
生まれてから今まで友達と遊ぶという経験をしたことがなかったベアトは今日をとても楽しみにしていた。
それこそ、昨日はわくわくしてよく眠れなかったぐらいに。
だからこそ、こうしてはぐれてしまったことが彼女にとってはどうしようもなく悔しくて、…寂しかった。

なんだよぉ…、誘ったんなら一人にするなよぉ…、……ぐす。


ずっと耐えて来た涙は、もう堪えることができなかった。
当ても無く歩いていた足が止まる。
蹲って泣きだしてしまいそうになったその時……、


「あ…!ベアトォオ!!」
「!!」

突然後ろから彼女の名を呼ぶ声がした。

遠くから走ってきたのは…、ずっと探し求めていた姿。
その彼がこっちに向かって走ってくるのに気付いて、ベアトは慌てて滲んでいた涙を拭った。
情けなく歪んでいた顔をフンと、いつもの自信に満ちた顔に戻す。
そして、戦人が彼女の元まで辿り着いた頃には、いつも通りの元気な笑みを浮かべる彼女に戻っていた。

「なんだよぉ、戦人ぉ!もう執事は終わったのかぁ〜?
残念だぜぇー。あのままお持ち帰りぃ★して妾専用の執事にしてやればよかったわ!あひゃひゃひゃ!!」
「はぁ…、元気そうで良かったぜ。昼からずっと姿が見えねぇし…。爆弾騒ぎに巻き込まれたんじゃねぇかと心配してたんだぜ?」
「…ふん、それは心配をかけたのぉ。妾はこの通り、大変文化祭を楽しませて頂いておったわ」

大きく頬を膨らませるベアトに戦人が苦笑いを浮かべる。
彼女をわざわざ誘ったのは自分と真里亞だし、彼女が自分達以外の知り合いがこの学校に居ないことも知っていた。
なのに結局昼間の爆弾騒ぎの時に置き去りにして、そのままほっておいてしまった。
ワルギリア達ともはぐれてしまったみたいだし、文化祭の多くの時間を彼女は途方に暮れて過ごしたのかと思うと、
さすがの戦人もちくりと胸が痛むのを感じずには居られなかった。

「あー、悪かったぜ。ちょっと野暮用がな……、これから回るの付き合うからってことで駄目か?」
「………これからって、もうほとんど終わってしまったではないかぁ…!!」

じっと、ベアトが恨みがましそうな目で戦人を見る。
彼女の向こうに、次々に片づけを始めてる店や、掃除道具を持って走る生徒の姿が目に入って、
戦人は罰が悪そうに数度頭を掻いた。

「…確かにほとんどの出し物は終わっちまったな……、でも……、
メインイベントはまだ残ってるぜ?」

そう言って、戦人は窓の外へと視線を向ける。
釣られるようにベアトも窓の外を見る。
校舎からの照明で照らされたその場所では、文化祭の最後を飾るイベント。
フォークダンスが始まっていた。


「行こうぜ?俺でよかったらエスコートさせて貰うぜ?いっひっひ」
「………」

戦人がベアトに向かって手を伸ばす。
戸惑いや葛藤が混じった冷たい表情で、じっと、ベアトがその手を見つめる。
差し出された手を取るのは、ほんの少しだけ勇気がいった。
……それでも。



「……ほら行くぞぉ!戦人ぁああ!
 ひゃっはは、光栄に思えよぉ〜?そなた如きがこの妾のエスコートができるのだからなぁ!」
「へいへい。光栄ですよ。ベアトリーチェ様!ってな」

ベアトは戦人の手を強く握って駆け出す。
戦人を引っ張るように校舎の中を走る彼女の表情は、
…きっと城の中で浮かべていたどの表情よりも明るい、笑顔だった。


story:葉月みんと   


最終話[ 〜 Ending 〜

**********************
Cast
**********************



「色々あったけど、終わってみればいい文化祭だったなぁ」
「うむ。人の祭りというのは楽しいものだな。この『ふぉーくだんす』とやらも、楽しくて良い」
「そりゃ、良かった。誘った甲斐があるってもんだぜ。今日は来てくれてありがとな」
「……礼を言うのは妾の方だ。ありがとう。戦人」


うみねこレッド 右代宮戦人
黄金の魔女 ベアトリーチェ


「…………」
「…………」
「…………くす」
「どうしたんですか?」
「幸せだなぁって……」
「……うん……」


うみねこイエロー 右代宮朱志香
うみねこブラック 嘉音


「あの……今日は、ありがとうございました。とても……楽しかったです」
「お礼を言うのは、こちらの方だよ。つきあってくれてありがとう」
「……そんな事ありません。私の方が……」
「いや、僕が……って、キリがないね」
「くす……あ……」
「どうしたんだい?」
「蝶々が……」


うみねこグリーン 右代宮譲治
うみねこホワイト 紗音


「ママー、王子様になったんだよね。真里亞も見たかったな」
「真里亞達が頑張ってくれたから、最後までやる事が出来たのよ。頑張ったわね。ありがとう」
「えへへ……さくたろも頑張ってくれたんだよ。敵にどーんと体当たりしたの。ねー、さくたろ」
「そうなの。さくたろも頑張ったわね。お疲れ様」
「うりゅー!」


うみねこピンク 右代宮真里亞
右代宮楼座
さくたろう


「凄いお祭り騒ぎね。こんな事をしている間にも、世界は破滅の未来へと近づいているっていうのに」
「まぁまぁ、せっかくなんですから、今日位は戦いの後手に入れた平和を楽しみましょうや。戦人さんのところへ行って踊って来たら、如何ですか?」
「な、何で私がおに……戦人のところへ行くのよ。……行ける訳……ないじゃない……
「では、僭越ながら私がお相手を務めましょう。お嬢様お手をどうぞ」
「し、仕方ないわね」


うみねこブルー 右代宮縁寿(グレーテル)
天草十三


「どうなるかと思ったが、無事文化祭を終える事が出来そうだな。終わりよければ全てよしという事だな」
「まさかファントムの者達が手助けしてくれるとは……な。ファントムも一枚岩ではないということか。それとも……別の勢力だったのかの」
「それを考えるのは後日でよかろう。まずはこの祭の余韻を楽しもうではないか。喫茶『おっさん』の成功を祝って、盛大に打ち上げじゃあああぁっ! 源次、準備は整っておるな」
「もちろんでございます」


右代宮金蔵
南條輝正
呂ノ上源次


「いやはや、文化祭の大騒ぎの後、ダンスなんか踊る体力があるとは……ガキ共は元気だなぁ」
「若いというのはいい事だ。子供達が笑顔でいられる未来の為、今後も頑張っていかねばな」
「派手なのは子供達に任せて、わしらはのんびり行きましょうや。文化祭の無事の終わりと、喫茶『おっさん』の成功……そして、子供達の健闘を讃えて―――」
「「「乾杯!」」」


右代宮蔵臼
右代宮秀吉
右代宮留弗夫


「皆様宜しければ美味しいおつまみは如何ですか? リクエストがあれば、何でもお作り致しますよ」
「郷田さん、打ち上げの時位ゆっくりしたらどうだい? 今日一日ずっと動きっ放しだったんだろう」
「いえいえ、大丈夫です。私の楽しみは、こうして皆さんの為に料理をお作りする事ですから。いわばこれが私なりの打ち上げの楽しみ方です」
「プロだねぇ。うちの会社にスカウトしたくなるな」
「有り難いお言葉ですが、私の仕事場は、右代宮家のみでございます」


郷田俊朗
小此木鉄郎


「まさか、姉さんと共闘する事になるとは思わなかったわ」
「助けてくれてありがとう」
「ご、誤解しないで頂戴。姉さんに勝つのはこの私。万が一あんなオートマータに負けて貰ったら困るから、助けてやったのよ」
「ふふふ……いつでもいらっしゃい」

キリエ 右代宮霧江
嫉妬の炎使いカスミン 須磨寺霞


「ドタバタだったけど、劇成功して良かったわね。主役お疲れ様」
「あ、ありがとうございます。すみません。一杯噛んでしまって……」
「いいのよ。即興ですらすらやるなんて出来る訳ないじゃない。夏妃姉さんが、色々天然ボケかましてくれたからこそ、思いっきりツッコミが出来た訳だし」
「あの、それでいいんでしょうか? 何か違うような……」
「凄い盛り上がってたじゃないの。成功すれば、それでいいのよ。珍しく褒めて上げてるんだから、素直に受け取りなさい」
「あ、ありがとうございます」


右代宮夏妃
右代宮絵羽


「一般人に紛れて、のんびり楽しむつもりが、大変な事に巻き込まれちゃったわねぇ」
「そうですね。でも、無事文化祭が終わってよかったです。あなた達もよくやりましたね。お疲れ様」
「メェ!」
「ベアトリーチェ様も楽しそうですし、来た甲斐がありましたね。……と、すみません。少し席を外させて貰います。喫茶『おっさん』の打ち上げに顔を出したいので……ぷっくっく」
「あ、では、私も、プロデュース担当として、鯖同盟の屋台へ……」
「って、リーア、そんな事してたわけ?」


ワルギリア(悪義 梨亞)
暗黒将軍 ロノウェ(呂ノ上源三)
ガァプ
山羊さん


「盛況でしたね。鯖吉」
「新鮮で上手い鯖を、鯖を愛する者達が、調理する……そんな至高の料理とも言うべきものが売れない訳ないよ」
「そうだねぇ。鯖ジュースや、鯖アイスが売れなかったのが残念だったけどね。鯖を使った料理という意味では、鯖寿司や鯖サンドと何も変わらないと思うんだけどねぇ……」
「そこはそれ、次の課題にすればいいんだよ。鯖の道は一日にしてならずだよ」


熊沢チヨ
熊沢鯖吉


「ちょっと! 私達の出番少なすぎない? 酷過ぎるー!」
「全く出番のなかった者達に比べたら、あっただけマシなのではないか」
「(もぐもぐ)」
「でもさー、ルシ姉だけ、1人目立っちゃって、ずるいわよね」
「え?」
「と、いうことで、何があったか、キリキリ吐きなさい」
「な、何がといっても、戦人の給仕で、執事喫茶でお茶を……」
「それだけなの? 小学生以下じゃない?」
「まぁ、らしいがな。本人が満足しているなら問題ないだろう」
「いいなぁ。私も縁寿様のところに行って来よう」
「あー、ずるい。それなら私だって、嘉音くんの所に……」
「(もぐもぐ)」
「って、ベルゼ、食べてばっかりいないで何か言いなさいよぉ!」


ルシファー
レヴィアタン
サタン
ベルフェゴール
マモン
ベルゼブブ
アスモデウス




《Guest original character》
秋葉原萌
謎の尋問官 V・R
時間泥棒の魔女エターナ
離操刻夢
黒崎警部
門都
御智
神坂美佳(琴宮朝奈)
ジャックフロスト
ジャックランタン




「まさか、山本中尉だったとは……」
「田島か。警察署長とは出世したものだな」
「……特別にお客様をお連れしました」
「おまえは……右代宮金蔵!」
「馬鹿な事をされたものだ。だが、今回の事は、黙っていた私にも責任がある。……信じてくれないとは思う。だが、あの時必要だったのだ。あの」
「もう良い。あの黄金が手に入っておれば、私は今回のように……いや、今回以上の過ちをおかしておっただろう。私には黄金以上に大切なものがある。今回の事でそれがわかったのだ」
「山本中尉……」


山本中尉
田島警察署長


「やれやれ。なんとか無事で終わって何よりだぜ」
「色々ありましたけど、楽しかったです。ね、理御。……理御?」
「あ、す、すみませんっ。少しぼーっとしてました」
「良かったですね。お母様と話せて」
「あ、ありがとうございます」
「今回は無事で終わったが……このままと言う訳には行かないだろうな」
「そうですね。もっと大きな山場がいずれやってくると思います」
「ま、それはその時に考えればいいさ。今はこのお祭りを楽しもうぜ」


ウィラード・H・ライト(幻想刑事ヴァンダイン)
クレル・ヴォーブ・ベルナルドゥス(ホワイト☆クレルン)
右代宮理御


「あー、楽しかった〜。たまにはこういう人間の祭もいいわね」
「……本気で満喫してたわね。彼らの実力と戦いの行方を観察するんじゃなかったの? 余計な手出しまでして」
「いいじゃない。既に勝敗なんて決まってたんだから。大体、そういうベルンだって、楽しんでたじゃない。いきなり『激辛料理フルコース』に飛びついちゃうし」
「…………まぁ、いい暇潰しにはなったわね」
「思いっきり暴れられなかったのが残念だけど、まぁ、それはまたの機会よね」
「そうね。また今度……ね」


奇跡の魔女 ベルンカステル
絶対の魔女 ラムダデルタ


 ―――表舞台の影で、静かな戦いを繰り広げた2人がいた。
     無数のオートマータ達と戦い、勝利の礎の一つとなった2人。
     戦いの終わりと共に、2人は静かに姿を消した。
     その行方を知るものは誰もいない―――


エヴァ・ベアトリーチェ
古戸ヱリカ


「お互い死に損ねてしまったな」
「ティル・フィング……」
「失敗した手駒を、あの方が許す筈がない。ならば、奴らを道連れに……と思っていたが……流石正義のヒーロー。甘いな」
「これから……どうするつもりだ」
「ファントムには帰れない。と、なると、逃げるしかないな。その後の事はまたゆっくり考えるとしよう。奴らへの借りを返す事も含めて……な。人間というのは大したものだ」
「全くだな。俺を劇に使おうとは、図太いというか、逞しいというか……」
「違いない」


ティル・フィング
チョコ・ザイナー



――― ……失敗したか。扉にと考えていたものが、脆弱過ぎたな。
まぁ、良い。今回はあくまで様子見……機会はいくらでもある。
お手並み拝見と行こう。うみねこセブン ―――



???




**********************
Staff
(五十音順、敬称略)
**********************


◆企画協力《アイデア》◆

アイスくりーむ
アルブレード
神風刹那
KENM
航希
白右鎖璃月
白桔梗
チョコ・バナナ
豚骨ショウガ
葉月みんと
桃良
祐貴
結城白黒
らいた

◆シーン担当《SS》◆

アルブレード
神風刹那
KENM
白右鎖璃月
チョコ・バナナ
豚骨ショウガ
葉月みんと
祐貴
結城白黒
らいた

◆原作◆

「うみねこのく頃に」
「六軒島戦隊 うみねこセブン」


◆企画・制作◆


劇場版うみねこセブン 制作委員会







劇場版うみねこセブン 〜舞台の上の夢宴〜



The End


story:祐貴   


最終話\ 『夢に向かって』


「うみねこセブンのばかやろー!!」

カキーン

「テロリストのあほんだらぁ〜!!」

カキーン

叫び声と共に、白球が二つ高々と飛んでいく。
雄たけびを上げているのはヱリカとエヴァ。二人は復活した後、さしたる活躍の場もなく帰路に着き、目に付いたバッティングセンターでこうして鬱憤を発散しているのだった。
カキーン、カキーン、カキーン……
見事に飛んでいく白球と容姿に似合わぬ叫び声に、周囲の注目が集まるが、二人はそんなことなど気にせずに、どんどん打ち込んでいく。

「何で私は活躍できないんですかー!!」
「折角恐怖の演出しようとしたのにぃー!!」
「書いた奴でてこーい!!!」
「そんなメタな発言した駄目でしぉー。でも、気持ちはわかるわぁ〜!!」

…………

しばらく打っていくと、球威が足りんと言いながら、どういう仕組みか200キロに設定し直し、それすらも打ち込んでいく。

「お、おい。誰だあの二人!!こんな奴が日本にいたのか!!すぐにスカウトしろ!」
「なにぃー。金はいくらでも出すからぜひうちに入ってもらうんだ!!」

どこから来たのかどこぞの球団のスカウトなども野次馬の中に入っている。しかし、そんな様子にもわき目も振らず、鬱憤解消に努める二人。
ひたすら打ち込んだ後、二人はお互いに見合い、

「あなた、確かヱリカっていったわねぇ〜」
「はい!! 確かあなたはエヴァさんでしたっけ?」
「そぉー。 あなたもいろいろと大変ねぇ〜。」
「あなたもいろいろとネタにされてるようで大変ですね。私も祭具殿とかに……しくしく」
「う、う、ヱリカぁ〜」
「エヴァさーん!!」

がしっと抱き合いながらさめざめと泣きだす二人。何が何かわからず呆然とする観衆。

「ううぅ、えっぐ」
「しくしく」

散々泣き疲れた後、二人は立ち上がり、

「よし、帰るか!!」
「そうですね。 次こそはお互いに活躍しましょう!!」
「そうねぇ〜。 私、次こそは絶対活躍するんだからぁ〜」
「グッド!! 私だって主役をもらっちゃうくらい出張ってやります!」

そう言い残し、夕暮れの町に颯爽と去っていく。
どこかでピンポーンとか言う音が聞こえたとか聞こえないとか。
後には、呆然と立ち尽くす観客のみが取り残されていた。

story:結城白黒   


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