『今回予告』


「予告?面倒くせェ、手短に言うぜ。『ヱリカの卑劣な作戦が、うみねこセブンたちを襲う』…以上だ」


『六軒島戦隊 うみねこセブン』 第30話 「うみねこセブン殲滅作戦」


「うみねこセブン、おまえ達の力……見極めさせてもらうぞ」






【オープニング】

「ふふふ、これでもう次の戦いではチェックメイトをすればいいだけ。引き上げますよドラノールッ!ガートルードッ!コーネリアッ!…それでは御機嫌 よう、うみねこイエロー。次にお会いした時が皆様の、うみねこセブンの最期の時だとしっかりとお伝え下さいね?!…くっくく、あーーーーっはっはっはっ はっはっはっはッッ!!!」

新生ファントムのヱリカによる不敵な必勝宣言、警戒を強めるうみねこセブンの面々であったが、以降ファントムの襲撃はなく、不気味な静けさを感じながらではあったが、それぞれ日常の生活を送っていた。

      ☆       ☆       ☆

「遅くなってごめんなさい。お留守番大丈夫でしたか?」

「う〜、ばっちり!」

Ushiromiya Fantasyland【クラシックセレナーデ】入り口付近にあるインフォメーションセンターで、アルバイトが風邪で休んでしまったため急遽ピンチヒッターとして、紗音と真里亞は案内の仕事をしていた。

当初は紗音一人であったが、土産物コーナーを探していた老人が耳が遠くなかなか言葉が伝わらなく困っていたところ、真里亞が留守番を買ってくれたので、紗音は直接老人の案内をしてきたところであった。

「ふふっ、それにしても真里亞ちゃん、すごく張り切ってますね。道案内の仕事に興味があったのかな?」

「うー…そういうわけじゃないけど、ベアトが真里亞たちのこと忘れたから…真里亞たちと遊んだこと一緒に笑ったこと、全部忘れたから、もう一度、遊園地のいろんな場所を案内してあげようと思って」

「…あ」

「それなら、今度は前以上にいっぱい色んな所を見せてあげようと思って!そしたら思い出すと思う、そしたらまた戦人や、今度はみんなと一緒にパレード見るの!だからこの遊園地のいろんな場所のこと覚えておこうと思って!」

「……みんなとパレードを見るの楽しみだね」
「うん!」

ベアトリーチェが記憶を失っていたことで皆が様々な思いを抱いていたが、この幼い少女は誰よりも早くそのことを受け入れ、前に進んでいたのだと紗音は知り、そして素直にすごいな、と思った。

「すいません、食事のとれるところはありませんか?多少遠くてもいいのだけれども」

「あ!すいません、それでしたら…」

会話は道を聞きに来た家族連れによって中断される。

「(え〜っと熊沢さんのところはギックリ腰で臨時休業、郷田さんのところは…あ、そういえばベルゼが来てたから駄目か…)九羽鳥庵レストランがお勧めです、行き方は…」

「う〜!真里亞が案内する!さっきも同じ場所案内したから大丈夫!」

真里亞が胸を張って案内を始める。が、

「あそこはね〜この道をギュイーンと行ってから、ガーと行ってバリバリ……」

「こ、この左側の道をまっすぐ道なりに進んでください。のんびり行くならフラワーウィッチバスがお勧めです。またアトラクションにもなってるエンドレスナインバスターで行く方法もありますよ」

ほぼ擬音で道順を伝えようとする真里亞を慌てて紗音がフォローをする。案内を終えた紗音は恐る恐る真里亞に問いかける。

「あの……真里亞ちゃん?私が留守の間に道案内は何人ぐらいの方にしたのかな?」

「ん〜一人だけ。でも思い出すとさっきの人と同じところに行きたい人だったのに、反対方向に歩いていったような…なんでだろ?」

ああ、私が留守の間に来た人ごめんなさいごめんなさい、と紗音は心の中で何度も謝った。

「!!(この魔力はッ!!)」

二人は察知する、ファントムの魔力を。二人は悟る、どうやら道案内の仕事はここまでだと。
直後二人の前にはファントムの山羊の従者たちの姿と駆けつけたうみねこセブンの仲間たちの姿があった。

     *     *     *

《 うみねこセブン本部・作戦司令室 》

「ついに動き出したか……状況は?」

「クラシックセレナーデとエンジェルスノウにファントム出現、観客の避難は完了しています。紗音ちゃんと真里亞ちゃんが入り口付近の案内センターにいましたが、その場での変身は正体がばれる恐れがあったので『うみねこグリーンが二人を避難誘導する』フリをしながら、3人にはエンジェルスノウに向かってもらっています。敵は山羊の従者が多数、クラシックセレナーデには幻想怪人の姿もあります」

「前回のように、伏兵を仕込んでいる可能性もある。全エリアのチェックを怠らぬように……どうした?」

楼座の報告を受けて金蔵は指示をだす。しかし直後、その楼座が少し狼狽するのを金蔵はいぶかしむ。

「あ、いえ…間違い?いやそんなはずは…エンジェルスノウに出現した山羊たちの反応が……消えました」

     *     *     *

Ushiromiya Fantasyland・エンジェルスノウ。避難を終えたため人の姿は無い、楼座が報告したような山羊の姿も無い。
そこには青いコートに身を包む一人の男の姿だけがあった。

「飯を食う前に戦う羽目になるなんざ、ついてねェぜ………ガーっと行ってゴーと行っても飯屋に着きゃしねェし…」

ぶつくさと文句を垂れながら黒き刀剣を鞘にしまうと、男はその場を後にした。



《 Ushiromiya Fantasyland・クラシックセレナーデ 》

ファントムと戦ううみねこセブンたち。うみねこレッド・ブラック・ブルーが山羊の従者達と戦う中、うみねこイエローは敵怪人と交戦していた。

「クラーケンウィップ!」
「破魔連撃拳!」

蛸や烏賊を思わせる無数の触手が唸りをあげてうみねこイエローを襲う。しかしイエローは怪人が放つ攻撃を拳で全て弾いた。

「私の攻撃を悉く防ぐとは…やるネ、うみねこイエロー」

中国の民族衣装とパーカーを併せたような服装、そして容姿は美しい女性のようであったが、手足の代わりに生える無数の触手が、人間以外の何かであることを物語っていた。

「この手の攻撃は前にイヤというほど喰らったからな、慣れちまったぜ」

イエローは軽くステップを踏みながら同じような攻撃をする怪人と戦った時のことを思い出す。

「たしかに、いたネ、くらげ型の怪人。あれ初期型の雑魚、一緒にされる心外。私、ヱリカ様に再改造されたネ。この幻想怪人クトゥルナ…今までのやつらとは違うネ!」

「……そのようだな」

イエローはチラリと後ろの方を見る。イエローを外したクトゥルナの攻撃が、まるでチーズケーキでも切るかのように、石畳に無数の深き傷跡を残し、その傷は幻想へと変じていた。

     *     *     *

《 Ushiromiya Fantasyland・エンジェルスノウ 》

「本当に山羊達の姿はありませんね」
「う〜、いない…」

エンジェルスノウエリアに到着したグリーン・ホワイト・ピンクの3人。向かう途中で山羊達の反応が消えたとの報告を受けたが、調査のためにそのままやってきたのだった。

「しかし、誰もいないと言う訳でもないみたいだね…」

「ヱリカ様の特訓を受け強化したと聞いていましたが、山羊は所詮山羊でございますなぁ」

「新手の幻想怪人!?」

うみねこセブンの3人に近づく影がひとつ。赤いタキシードにシルクハット、黒い羽を持ち、肩には鴉が一羽止まっている、そしてその面貌の右半分も鴉と同じそれであった。

「幻想怪人クロウズと申します、以後お見知り置きを…山羊たちを知りませんか?逃げたのか…それとも、すでに倒されたのですかな?」

「……(今の口ぶりからすると、何かの作戦というわけではない…のか?)」

「まぁいいでしょう。会ったばかりで恐縮ですが……死んでいただきます」

クロウズと名乗る幻想怪人の体から無数の鴉が生み出される。そしてその鴉が弾丸のような勢いでうみねこセブンの3人に襲い掛かった。

     *     *     *

《 ファントム地上前線基地 》

「幻想怪人クトゥルナはレッド・ブルー・イエロー・ブラックと交戦、幻想怪人クロウズはグリーン・ホワイト・ピンクと交戦……なかなかに理想的な分かれ方をしてくれましたね。実にグッドです。まぁ想定外の自体も早々に起こりやがりましたが、クロウズがうまくフォローしてくれるでしょう」

キャッスルファンタジアの地下深くに存在するファントムのアジト。空間に映し出されるのは幻想怪人とうみねこセブンの戦い。その映像をそこそこに見ながら、テーブルの上のチェス盤を前にヱリカは考えていた。

チェス盤の自軍のポーンは半分失われている。

「エンジェルスノウの山羊たちに何があったのでしょうか?いくらなんでもやられるのが早すぎデス」

傍に控えていたドラノールが口を挟む。

「考えられる可能性としては、@思いのほかうみねこセブンが強かった A逃げた B別の何者かに倒された といったところでしょうね」

@は前の戦いで収集したデータからすればありえない。Aがもっとも可能性が高いとヱリカは踏んでいた。

前回の作戦において、負傷した山羊を投入したことでファントム内部のヱリカへの反感は益々高まっていた。事実、少数ながら、山羊たちの何人かにヱリカは襲われている。

二度とこんなことが起こらないよう、返り討ちにした山羊たちには凄惨な『見せしめ』が施されたが、念のため信頼のおける忠誠心の高い精鋭の山羊は今回の作戦から外して手元に置き、反抗の兆しの見える山羊たちを中心に投入されていた。

「ま、今のところ作戦に支障はありません。気にせず〔うみねこセブン殲滅作戦〕を続けるとしましょう」

しかし、そう言いながらもヱリカはBの可能性についても捨てきれずにいた。故に最も信頼のおける戦力ドラノールは、戦況によっては投入予定であったが、手の内を隠す意味でも、今回は待機であった。

そんなことも考えながら、新たに映し出された映像にヱリカは注目する。その映像には建物の屋上で待機する砲魔怪人シュトラールの姿が映し出されていた。



《 Ushiromiya Fantasyland・クラシックセレナーデ 》

「みんな気をつけて!アトラクション『ビルからダイブ』の建物屋上に敵怪人の姿を確認したわ」

「なんだって!」

夏妃からの通信を受け、イエローが目に組み込まれた望遠機能で確認すると確かに前回と同じ怪人の姿がそこにあった。

「私が行くわ。レッド、ブレードショットの準備をお願い。たとえ伏兵がいたとしても、今度は前のような遅れはとらないわ」

ドラノールに一撃で倒された時のことを思い出し、ブルーは拳を握りしめる。

「イエロー、他に敵の姿は?」

「いないみたいだけど…注意は必要だろうな、一人は危険だぜ」

「イエローはここの怪人と相性がいい。だから行くならボクだ。伏兵がいた時のためにブルーをサポートします」

敵との交戦中のわずかな接触の機会を利用して作戦を打ち合わせる。

「気付かれたみたいネ。しかしさせないネ、私もおまえらもここで消える運命ネ!」

クトゥルナの触手が迫り動きを封じようとする。しかしイエローの拳打がそれを防ぐ。

「攻撃力が上がっても、前戦った怪人と攻撃パターンがそんなに変わらないなら、防ぐのは訳ないぜ!おまえの相手は、私一人でも十分だぜ!」

「くっ」

イエローがクトゥルナの動きを抑えてる隙に、レッドがブレードショットを二連射で放ち、ブルーとブラックがそれに飛び乗り『ビルからダイブ』屋上にいる敵怪人の元へと向かった。

うみねこセブン達は気づかなかった。今まであまり感情を表に出さなかった幻想怪人が口角を吊り上げ、不気味な笑みを浮かべていたことに……

     *     *     *

《 うみねこセブン本部・作戦司令室 》

「譲治達と連絡が取れないわ…おかしいわね、さっきは通信できたのに…」

ビル屋上にいる敵怪人のことを、エンジェルスノウにいる3人にも伝えようとしていた絵羽はもどかしそうに結果を伝える。

「しかし見たところエネルギーチャージもまだ進んでないようだ。今回は待ち伏せする敵の姿も見当たらない。戦人くんが前回みたいに仲間を向かわせれば大丈夫だろう……どうした留弗夫、それに霧江さんも?」

「いや、俺のは何ていうか…胸騒ぎっていうか、勘みたいなもんだが……霧江、どうだ?」

楽観的な蔵臼とは対照的に、留弗夫は何か自分でも説明のできないひっかかりを感じているようだった。そのひっかかりが説明できないため、同じように違和感を感じる霧江に助言を求めた。

「前回と同じ…同型の怪人…場所も同じ、私が相手の立場なら、そんなことはしない…」

(間違いなく対策を立てられてしまうから。現に今回は早々に発見されている)

「何度やってもダメね…これは通信妨害されてる可能性があるわね」

(……!)

毒づく絵羽の姿を見て霧江は気づき、青ざめる。
通信を妨害する手段があるのになぜ怪人の発見を許したのか、そしてなぜ待ち伏せする敵の姿が無いのかを。

「だめ!!罠よ!!!」

霧江は通信マイクに向かって叫んだ。

     *     *     *

「えっ?」

高速で敵怪人の元へ飛来するうみねこブルーとうみねこブラックはその身を襲う攻撃の意味を理解することができなかった。


『ビルからダイブ』の屋上は轟音を立てて大爆発し、巨大な火柱を上げた。

以前のような倒されたことによる制御不能の爆発とは桁が違う。
それは明らかに、その場所で爆発することを目的とした…自爆であった。

遠くから見てもわかる異常な火力、あれに巻き込まれて無事でいられるとは、とても考えられなかった。

     *     *     *

「まずは二人」

巨大な蝋燭のように炎を灯す高層ビルの映像を満足げに見ながら、ヱリカは目の前にあるチェス盤の相手陣地にある[クィーン]と[ナイト]の駒を指で弾く。

二つの駒はゆっくりと傾き、そして倒れた。



《 Ushiromiya Fantasyland・エンジェルスノウ 》

「あ、あれは、いったい!?」

炎を上げるビルに対して、うみねこグリーン・ホワイト・ピンクの3人は驚きの表情を浮かべた。その様子を見て怪人クロウズは面白そうに笑った。

「ハ!ハ!ハ!どうやらヱリカ様の作戦は成功したようですなぁ。といっても貴方たち3人は私の生み出す魔法鴉の影響で魔力を探ることもままならず、その[通信機]と言うのでしたかな?それも使い物にならないはず。何が起こっているのかわからないでしょうな」

上空を飛び回る夥しい数の鴉の群れは全て幻想怪人クロウズより生み出されたもの、そしてその鴉の発する鳴き声が電波妨害だけでなく魔力探知をも阻害していた。

「よろしい!今がどういう状況なのかを説明して差し上げましょう!」

口髭を撫でながらクロウズは、前回と同じようにビル屋上に突っ込んできたうみねこセブンを仕留める作戦であったことを説明した。

「そ、そんな」

「くっ、ボクが状況を理解していれば…」

「おっと、うみねこセブンの頭脳うみねこグリーンを隔離することこそが私の役目、その仮定は無意味ですな。そして作戦が成功したので…本気で仕留めさせていただきましょう」

無数の鴉がうみねこセブンの3人に襲い掛かる。バリアで防ぎ、格闘術で打ち払い、魔法弾で撃ち落すが、その数は減るどころか増していく一方であった。

「う〜!数が多すぎ!」

「これだけの数を生み出すには相当な魔力を必要とするはず、あの怪人の魔力は無限なの?」

「ハ!ハ!ハ!ヱリカ様の手により再調整された我が肉体には『ある宝玉』が埋め込まれておりましてな!外部より補給される魔力により、鴉たちは無限に生み出すことが可能なんですよ!」

「よくしゃべるね、でももう対策は考えたよ」

「ハ!ハ!……え?」

次の瞬間、クロウズの肩に止まっていた鴉が奇妙な鳴き声を上げ飛び去っていった。うみねこセブンたちを襲っていた鴉たちもまるで酔っ払ったかのようにふらふらと当ても無く飛び回り始める。

「こ、これはいったい!?」

「ジャミング能力を持つのは貴方だけではありません!」

「霊子波動による霍乱だと!?」

「水の精霊よ、我が声に応えて巡れ【シー・オブ・アクア・マーメイド!!】」

うみねこホワイトの霊子波動による攻撃で前後不覚となった鴉の隙を突き、ピンクが放つ津波のごとき魔法が直線上にいる鴉ともども敵怪人を襲う。

「ク!クッ!……この程度の攻撃耐えられないことは……ッ!!」

うみねこピンクの魔法攻撃に耐えるクロウズだが、水の中から迫るうみねこグリーンの姿に戦慄する。

「海王渦流脚!」

濁流のスピードを上乗せしたうみねこグリーンの錐揉み状の蹴りをモロに受けたクロウズは、身体を九の字に曲げたまま断末魔を上げることもできず消滅し、主を失った鴉達は散り散りに飛び去っていった。

「やりましたね!でもあの怪人の話だと誰かが……グリーン?」

駆け寄り言葉をかけるホワイトだったが、自分の言葉に反応を示さず空を睨むうみねこグリーンの様子に心配そうな表情を浮かべる。、

「あ、ああ、ごめん……そうだね『ビルからダイブ』に急いで向かおう」


次の瞬間、3人は赤き結界に閉じ込められた。


「「「!!!??」」」

うみねこグリーンは敵怪人のジャミングのもう一つの目的を知る。より強大な魔力を持つ敵の接近を隠蔽することであったこと、そして怪人を倒した直後の油断を最初から狙っていたのだと。

「謹啓、謹んで申し上げ奉る。貴方達の命はここで潰えるものと知り給え」

誰にも気づかれることなく現れたガートルードは魔力をこめた右手を握りつぶす。それと同時に結界の中には魔力の爆発が起こった。

     *     *     *

《 Ushiromiya Fantasyland・クラシックセレナーデ 》

「どけええぇぇぇぇ!!!」

拳を敵怪人に叩きつけようと うみねこイエローが大きくジャンプしながら拳を振るう。その攻撃を幻想怪人クトゥルナは難なく避ける。敵怪人を外したイエローの攻撃は地面を抉り、大きな傷跡を残した。

砲魔怪人シュトラールの自爆により、動揺したうみねこイエローはすぐさまブルーとブラックの元に駆けつけようとしたが、それをクトゥルナは阻止しながら挑発。そしてうみねこイエローは、ファントムの『予定通り』に、逆上攻撃を繰り返していた。

(情報では威力値3000と聞いてたが、怒りで力を増しているみたいネ。しかし、どれだけ威力があろうが当たらなければ意味がないネ)

しかし、そのことごとくをクトゥルナは避ける。回避に専念していれば勝手に相手は疲労し自滅する。対してクトゥルナにスタミナ切れは存在しない。

クトゥルナは【GEドライブ】搭載型の試作怪人である。砲魔怪人シュトラールや七姉妹マモンのような一撃必殺の攻撃手段は持たない。しかし魔力炉から送られる魔力の全てを運動性能に変換することにより、常時最高性能で戦うことができる迫撃戦タイプであった。

前回の戦いにおいて、ヱリカが最も注目したのは威力値や防御値ではなく、実は機動力であり、柔軟な身体と回避能力を持つクトゥルナが今回の作戦に抜擢された理由もそこにあった。

「ち、ちくしょう…はぁはぁ…なんで当たらないんだ……」

疲れを見せ始めたイエローを見てクトゥルナはほくそ笑む。もう少しで動きが止まる、そうなればとどめを……

「【蒼き弾丸(ブルー・ブリッド)】っ!!」

「!?」

うみねこレッドの攻撃にクトゥルナは驚愕する。うみねこレッドは出鱈目な攻撃を繰り出すうみねこイエローに弾を当てないように苦心していて、照準を合わすことができずにいた。それはイエローの動きが鈍くなってきた今もまだ変わらない。

クトゥルナは大きく回避行動をとり弾丸を避けるが、案の定、弾丸の何発かはイエローに当たった。

「レッド、て、てめっ!」

「すまねぇなイエロー、でもちっと頭冷やそうぜ」

ダメージを受け動きを止めたイエローの傍にレッドは近づき、敵怪人に対しての防御姿勢をとる。

「(仲間を助けるために敢えて味方ごと攻撃を)…情報だともっと熱い性格かと思ってたネ。意外と冷静。それとも仲間はどうでもいい存在か?」

「んなわけねぇだろ。ただあいつらがあの程度でくたばるわけがねぇ」

「!」

「でもまぁ動けないぐらいのダメージは負ってるかもしれないな。だったらおまえを確実に倒して迎えに行かねぇとな」

うみねこイエローと同じように、うみねこレッドを挑発するクトゥルナ。しかし、レッドはその挑発に乗ってこない。うみねこレッドの揺るぎないその瞳を見てクトゥルナは、挑発は無駄だと理解する。

「………なるほど理解したネ。先に倒すべきは、うみねこレッド!貴様ネ!!」

クトゥルナは触手のなぎ払いをうみねこレッドに仕掛ける。
しかしその攻撃を受けたのは再び立ち上がったうみねこイエローであった。

「イエロー!」

「痛ッッ……ありがとなレッド、目が覚めたぜ」

(そうだ、私が二人を…嘉音君を信じなくてどうする…キャッスルファンタジアでのロノウェとの戦いで嘉音君は私の力を信じてくれたのに)

うみねこイエローは半ば自棄になっていた自分を恥じた。
そしてわき腹に食い込むクトゥルナの触手をしっかり掴む。

「そして捕まえたぜ!うおおおぉおおお!(楼座叔母さん直伝!黄金の夢ぇぇ!)」

「なっ!!うわあぁぁああああ!?」

うみねこイエローはそのままハンマー投げの要領でクトゥルナの体を空中高く放り投げた。クトゥルナは焦る、彼女には飛行能力は無く、自慢の機動力も空中では意味を成さないからだ。

「空中じゃあ思うように動けないだろ!いまだ!レッド!」

「おうよ!喰らえ!【蒼き幻想砕き(ブルー・ファントムブレイカー)】!!!!」

     *     *     *

《 ファントム地上前線基地 》

「仲間の死に動揺して素直に倒されてくれるかと思いましたが、そこまでスムーズにはいきませんか」

クトゥルナの左胸に蒼き幻想砕きが被弾する様をヱリカは冷めた目で観察していた。

「ま、そろそろ残りのうみねこセブンをガートルードが始末してる頃でしょうし、残りは2人。戦力を集中させれば、後はゴリ押しでいけるでしょう、予定通りです。残念ですが、あなたの出番はありませんよドラノール………?」

ドラノールの方を見るヱリカ。しかしドラノールは返事もせず、映像を凝視していた。
様子がおかしい、映像に何が写されているというのか?ヱリカは再び映像を見て、そして言葉を失った。

「なんだ……あれは……?」


アイキャッチ



《 Ushiromiya Fantasyland・クラシックセレナーデ 》

上空で蒼き幻想砕きを喰らったクトゥルナはそのまま地上にふわりと着地する。

「な、なぜ、私は生きてるネ?それに、こ、この身から噴き出す力は……!?」

死を覚悟したクトゥルナであったが、無事であることにむしろ彼女自身が戸惑う。
クトゥルナの胸にくすぶる幻想砕きの威力は、彼女の身体から噴出す禍々しい魔気によって消滅した。

「なッ!まともに【蒼き幻想砕き】を喰らって無傷だと!?」

「レッド、気をつけろ!なぜかわからないけど、あいつ異常にパワーアップ…」

次の瞬間、うみねこレッドたちの前方にいたはずの幻想怪人は、はるか後ろにいた。超スピードによる高速移動、そして同時に無数の攻撃を叩き込まれた二人は何が起こったのかも理解できずに地面に叩きつけられた。

「ガッ!」
「ぐは!」

「は…ははは、身体が軽いネ、それにこの圧倒的な力!誰にも負ける気がしないネ!これなら倒せる…破壊でキる!!破壊するゥuuあAAAAAA!!!」

クトゥルナは気づかない、自分の魂が強大な魔力によって塗り替えられようとしていることに、そして自分の肉体がこの魔力に耐え切れないことに。彼女の触手は内側から弾けるように膨れ上がり、膨張に耐えられず裂け、再生し、また膨れ上がり、裂け、再生し…。
その異常な光景にうみねこセブンたちも山羊達も動けず、目を奪われていた。

「きょ……巨大化した……だと」

よろよろと立ち上がるうみねこレッドとうみねこイエローの目の前には、もはや先ほどまでの怪人の面影など微塵もない巨大な触手の塊が存在した。

     *     *     *

《 ファントム地上前線基地 》

「ば、バカな!あんな力…まして巨大化能力など私は与えていない!!」

予想を超えた事態にヱリカは動揺する。

「謹啓!上司ヱリカに謹んで申し上げ奉る!異常事態也や!」

「あぁ?」

「あ…う…」

GEドライブへ魔力を供給する魔力炉をチェックしていたコーネリアが慌てて駆け込んでくるが、ヱリカの勢いに気圧される。

「ヱリカ、落ち着いてください、話を聞きましょう。コーネリア報告を……」

「き、謹啓謹んで申し上げ奉る!幻想怪人クトゥルナに魔力を送っていた魔力炉は魔力の供給を止めていると知り給え!」

「なっ!ならあの力はいったいどこから……」

そこでヱリカは心当たりに気づく。今回の作戦のことを『あのお方』に説明した時のことを、そしてクトゥルナに埋め込む予定のGEドライブを手に取り興味深そうに観察していた『あのお方』のことを。

「ま、まさか……」

     *     *     *

《 魔界・???? 》

「我が魔力を受けたものがどうなるか…少し興味があったが、150秒と持たないとはな…今の幻想怪人の肉体では器として脆すぎるといったところか…」

地上の様子を伺っていたミラージュは、少しがっかりした表情を浮かべながらため息をつく。

「暴走状態でも作戦に支障はないだろうが…勝手なことをしてしまったからな、たとえ作戦が失敗したとしても不問にしてやらねばな、ふふふ」

ちょっとした好奇心から宝玉の魔力経路を自分に結びつけたミラージュであったが、期待していた結果にならず、すでに興味は失われていた。

ミラージュは静かに目を閉じ眠りについた。



《 Ushiromiya Fantasyland・クラシックセレナーデ 》

「GYAAAAHAAAAAAA!!!!」

「メェ――ッ!?」

巨大な魔物はその触手を無造作に奮う。

その攻撃は、仲間のはずの山羊達をも巻き込みながら、建物を紙切れのように破壊していった。

「こいつ無差別に攻撃を!暴走しているのか!?」

「くっ、遊園地を壊すんじゃねぇ!」

魔物は以前のような華麗な身のこなしで攻撃を避けることはしなかった。うみねこレッドの放つ弾丸が魔物にヒットする。しかし、魔物の表皮には傷一つつけることはできなかった。

攻撃を受けたことに反応したのか、魔物の触手がうみねこセブンの二人を襲う。が、その攻撃をうみねこイエローが拳で止める。

「うぐっ!触手一本だけでこのパワーかよ……レッド、エスペランサーだ!このデカブツを倒す火力があるとしたら、それしかねぇぜ!私が時間を稼ぐ!その間に!」

「それしかねぇか…イエローすまねぇが少しだけ持ちこたえてくれ!」

うみねこレッドはエヴァとシエスタを吹き飛ばした必殺の一撃を放つべく、エスペランサーを構えた。

「硬化付与!重量付与!おりゃああぁぁ!!」

魔物の攻撃をうみねこイエローが付与魔法を施した拳で迎撃している。近接格闘において随一の攻撃力を誇るうみねこイエローの拳も魔物には通じず、足止めで精一杯のようであった。

(幻想砕きもイエローの攻撃も通じないんじゃ、確かにこれに賭けるしかねぇ!)

魔物に照準を合わせ、うみねこレッドは引き金に手をかける。

「うわあああぁぁ!!」
「なっ!?」

純粋な防衛本能なのか、魔物に理性が残っていたのかはわからない。うみねこイエローを触手に捕らえた魔物は、ボールでも投げるように、うみねこレッドに向かってイエローを投げつけた。
うみねこイエローにエスペランサーの攻撃が当たるのを回避するため、咄嗟に銃口をそらすレッド、激突する二人。
そしてエスペランサーの一撃は、一度しか放つことのできないその一撃は、無常にも上空へと飛んでいってしまった。

万策は尽きた。

「ぐあああああああ!」

魔物の触手がうみねこレッドに巻きつき、その胴体を締め上げる。

「ちく…しょう……」

そして、うずくまるイエローに対しては、人間が腕に止まった蚊を叩き潰すかのように、触手の一撃が振り下ろされた。



「天使の十字斬!」

うみねこレッドを締め上げていた触手をうみねこブルーが切断する。

「大丈夫か?イエロー!!」

叩き潰されそうになったうみねこイエローを間一髪でうみねこブラックが助け出した(お姫様抱っこで)。

「ブラック…無事でよかった……あ……うん……///」

「ブルーにブラック!?…ははっ、助けに行くつもりが助けられちまったな、詳しい話は…してる暇はないな」

「ええ、そうね、まずはこいつを何とかしないと、生半可な攻撃ではビクともしないみたいね、エスペランサーの一撃が失敗したのも確認したわ。レッド、七人の力を合わせた、あの攻撃の準備を」

ブルーが何を指しているのかは、すぐにわかった。キャッスルファンタジアでベアトリーチェを打倒したあの攻撃、一瞬だけ顔を曇らせたレッドだが、すぐに平静に戻り、条件の困難さを指摘する。

「アレか?でもこの怪物、意外と隙がねぇし、みんなが揃わないと…」

「大丈夫、なんとかするために金蔵が今準備しているわ」

     *     *     *

《 うみねこセブン本部・作戦司令室 》

「セーフティ解除!移動モードから攻撃モードへの移行完了!」

「角度修正。目標、クラシックセレナーデ、敵巨大怪人」

「エネルギー充填完了や!いつでもいけるで!」

「お館様、全ての準備、整いました」

「うむ……ファントムよ、我々が度重なる襲撃に対して、何の対抗措置も考えなかったと思うなよ……」

きっかけはアバレタオックス。セブンの攻撃の効かぬ巨大な敵に対してどうするか、南條博士をはじめとしたうみねこセブンをサポートするスタッフが考え抜いた、打開策の一つの形がここにあった。

金蔵はゆっくりと右手を振り上げ、そして振り下ろし叫ぶ。

「エンドレスナインバスター、発射!!」

     *     *     *

移動砲台エンドレスナインバスターから、普段からは考えられない勢いで何かが発射される。白い球体のソレはクトゥルナに直撃、流石の巨体もその勢いに倒れこむ。

「【シルフシールディング】解除!」

球体の中からうみねこホワイトが現れる。

倒れながらも自分に攻撃を仕掛けたものを捕らえようと魔物の触手がホワイトを襲うが、一緒に中にいたうみねこグリーンのナイフ攻撃とピンクの魔法弾によって阻まれる。

「南條先生の編み出した、ホワイトの能力を活かした攻撃手段…ぶっつけ本番だったけど、なんとかうまくいったみたいだね」

「うー!スリル満点だった!」

「グリーン・ホワイト・ピンク!…へへっ、この戦い、やっと7人全員が揃ったな、それじゃ最後にあの化け物を倒そうぜ!」

敵巨大怪人が今の攻撃によるダメージで動きを止めている隙に、うみねこセブンの7人が集い、うみねこレッドのエスペランサーに【コア】のパワーを集中する。

「喰らえぇぇぇぇ!!」
そして銃口より放たれた7人の力は黄金の片翼の鷲へと形を変え、魔物に襲い掛かった。

「GYYYYAAAAAAAAAA!!!!」

幻想怪人クトゥルナだったものは、断末魔の悲鳴を上げながら消滅した。

     *     *     *

《 ファントム地上前線基地 》

「ガートルード、帰還いたしました」

うみねこグリーン・ピンク・ホワイトの3人を後一歩のところまで追い詰めたガートルードであったが、うみねこブラックとうみねこブルーの邪魔が入ったことでとどめを刺すことができず、ヱリカの帰還命令によりそのまま退却したのであった。

「おかえり、あら?怪我してるんですかぁ?まったく、あんたほどの使い手ならうみねこセブンの2,3人仕留めてくれるかと思ったのですが、とんだ計算違いでしたねぇ」

「……………」

「き、謹啓!謹んで申し上げ…」

肩口を血に染めるガートルードに対して欠片も心配することなく逆に侮蔑の言葉を送るヱリカ。そんなヱリカにコーネリアが抗議しようとしたが、ガートルードはそっと制した。

「ま、シュトラールの自爆攻撃をうみねこブルーとブラックが生き延びたのは予定外でしたからね、大目に見てあげましょう」

「その自爆攻撃の件……私は何も聞かされていないと知り給え……」

「あ〜あれですよ、敵を騙すには味方からって奴です」

空間に写しだされる映像を見ながら、ヱリカはガートルードの方を見向きもしない。これ以上の説明をヱリカから聞くことはできないと判断したガートルードは無言でその場を後にし、その後を追って怪我の治療をすべく、心配そうな表情のコーネリアが続いた。

そんな二人に全く関心を示さずヱリカは戦場の状況を確認する。うみねこセブンの7人が力を合わせた攻撃によりクトゥルナが消滅するところが映し出されていた。

「ベアトリーチェを倒した攻撃、くくく、それしかないですよねぇ〜。そして、これだけの大威力の攻撃を放って、まともな力は残されていないですよねえぇぇ?チェックメイトです!」

     *     *     *

《 Ushiromiya Fantasyland・クラシックセレナーデ 》

「ハ!ハ!ハ!待っていましたよ!この瞬間を!」

「なにっ!」

「この声は!?」

建物の影から、木々の中から、飛び出す恐るべき数の鴉、そしてどこからともなく響く声に、うみねこグリーンは青ざめる。

「クロウズ!生きていたのか!」

「ハ!ハ!ハ!私の本体はこの無数の鴉の中にいる一体でしてね、貴方が倒したのは私の影法師にすぎなかったのですよ、お久しぶりアンドはじめまして!うみねこセブンの皆様方!」

うみねこホワイトがバリアを張ろうとする。しかし今回の戦いにおいて最も魔力を消費していた彼女には、もはや防御魔法を展開する力は残されてはいなかった。

無防備のうみねこセブンに、戦艦の一斉射撃の如き、クロウズの魔法鴉による特攻攻撃が降り注ぐ……


 灰は灰に――  塵は塵に――


「ハ!ハ!……え?」

次の瞬間、うみねこセブンに襲い掛かった鴉達は、縦横無尽に走る剣閃により瞬く間に倒された。
そして、うみねこセブンの前には、青きコートを纏った黒き刀を手にした男の姿があった。





時間は少し遡って 《 Ushiromiya Fantasyland・エンジェルスノウ 》 


「くっ、私のバリアが……」

「(バリアの負荷限界値2000程度と聞いていたけど、よく耐えたものね…でも、それも終わり……)」

赤き結界に捉えられたうみねこグリーン・ホワイト・ピンクの3人は、うみねこホワイトが展開したバリアにより、なんとかガートルードの攻撃を耐えしのいでいたが、いよいよバリアは砕け散ってしまった。

(!?あれは、いったい?)

止めの攻撃を繰り出そうとガートルードは掌に魔力を込める。しかし、クラッシックセレナーデにて膨れ上がる凶々しい魔力、そして建物を無差別に破壊する巨大な触手の存在に、攻撃を止め注視する。

「ガートルード!前回の借り、返すわ!」

その隙を突かれた。

「!!…ぐっ!!!」

クラシックセレナーデの魔物に気を取られていたため、本来であれば避けられる攻撃を喰らってしまう。それは先ほど、うみねこグリーンら3人に不意打ちをしたガートルードに対しての皮肉のようでもあった。

「うみねこブルー!うみねこブラック!バカな…さっきのビル屋上の爆発に巻き込まれたのでは…」

「貴方達の思惑通りにはいかなかった、それだけよ。それにしても仲間を自爆させるなんて悪趣味ね……」

「!?」

ガートルードは、作戦のことは聞いていたが、シュトラール自爆のことについては聞いていない。単にトラップによる爆発としか説明を受けていなかった。ガートルードの性格上、仲間を犠牲にする作戦に簡単に同意するわけがない。そのため、作戦内容の一部を伏せて伝えられたのはあきらかであった。

ガートルードはすぐさまヱリカに通信を送った。

(こちらガートルード…申し上げ奉る、うみねこブルー・うみねこブラックは健在也や)

(!…あの爆発を免れたとは意外ですね)

(それと、クラシックセレナーデに異常あり、説明を求めるもの也や)

(ミラージュ様のご助力によりクトゥルナがパワーアップしたのよ、何も心配はない。むしろこれで作戦は磐石なものになったわ)

(…ビルの爆発のことでお伺いしたいこともあります)

(……あ〜…わかったわ、あんたは一度帰還しなさい)

面倒くさそうに指示を出すヱリカの態度に眉をひそめながら、ガートルードは姿を消し、戦場を後にする。ガートルードが消えたことにより、赤き結界も解除され、グリーン・ホワイト・ピンクの3人は解放された。

「みんな!大丈夫ですか?」

「うん、なんとかね、そっちこそ無事で何より、心配したよ」

「ええ…」

「それにしても、クラッシックセレナーデのあれはいったい?」

「ファントムはおまえらの想像以上に深い闇を秘めているってことだ」

「「!!!」」

(あ、道聞いてきた人だ)

クラシックセレナーデの怪物の方を見ながら歩いてくる男の姿に、皆が注目する。うみねこブラックが戸惑いながらフォローする。

「僕とブルーは彼に助けられたんです」

「かなり手荒い方法だったけどね…」

うみねこブルーとブラックは、『ビルからダイブ』に到着する寸前、ブレードショットに良く似た『飛ぶ斬撃』によって下から撃ち落とされたのだった。

着弾する直前に気づき、ブレードショットを放棄したので大した怪我も無く、そしておかげでビル屋上の大爆発に巻き込まれることもなかったが、高度からの着地にえらく難儀したこと、この男とひと悶着があったことをブルーは思い出す。

「貴方は?」

「敵ではない…とだけ今は言っておく。うみねこセブン、おまえたちの力であれを倒して見せろ……露払いはしておいてやる」



「『露払い』…あの時は、何を指しているのかわからなかったけど、このことか…」

敵を倒した時の手ごたえの軽さ、消滅せず散っていく鴉、違和感を感じておきながら、敵の本質を見抜けなかったことを猛省しつつ、うみねこグリーンは男の言葉の意味を理解した。

「き、貴様一体何者……おおぉう!??」

クロウズの声を無視して青いコートの男は『飛ぶ斬撃』を無数放つ、その攻撃を受け何体かの鴉は更に打ち倒された。

(なんなんだこいつは!?しかし、数体倒したところで、GEドライブから魔力が供給される限り、いくらでも鴉は増やせる!持久戦に持ち込め…ば……!!!!)

クロウズは恐怖と驚愕で目を見開く。
男が鴉の群れに向かって跳躍し、一体の鴉と対峙したのだが、その鴉こそ、クロウズの本体であったからだ。

「バ、バカなっっ!!なぜ本体たる私の存在が見抜かれたのだッ!??」

「手下の鴉共は恐怖も何も感じず命令を遂行するように作られてるようだが、失敗だったな…鴉の群れの中で回避行動を取ったのは……おまえだけ、おまえが本体だ」

男はその手に握られた刀を振るい、そして着地する。

「う、噂話を思い出した…黒き刀、そしてその赤き一筋の髪…き、貴様、まさか……」

「灰は灰に、塵は塵に…そして怪人は灰塵に帰りやがれ」

男は刀を鞘に納める。それと同時にクロウズは真っ二つに切り裂かれ消滅した。本体の消滅を受け、他の鴉たちも次々に消滅していった。



幻想怪人を倒した謎の男に、他のメンバーから経緯を聞いたうみねこレッドが話しかける。

「助けてくれてありがとな。あ〜一応自己紹介したほうがいいのかな?俺はうみねこレッド、どうやらお互いファントムと戦う者同士みたいだな。だったら共に…」

レッドの言葉を遮るように男は剣の切っ先を向ける。

「何回死にかけた?」

「えっ?」

「おまえらの戦いぶりは見させてもらったが、まだまだ未熟…足手まといと手を組むつもりはねぇ」

「な、なんだと!言わせておけば…」

抗議するうみねこイエローだが、すでに男の姿は視界から消えていた。

「悪いことは言わん、ファントムの事は俺たちに任せて手を引きな、うみねこセブン」

声のする方に皆が振り向く、いつの間にか男は遊園地の入り口付近まで移動していた。

「今のままだと………おまえら死ぬぞ」

男はそう言って姿を消した。

「未熟か…そう言われても仕方がないね」

何度も危機を救われた事実をかみ締めながら、うみねこグリーンが俯きつぶやく。

「いったい何者だったのでしょうか……」

「結局、名前すらも聞けなかったわね…」


ファントムの攻撃を退けたうみねこセブン達であったが、自分達の力不足を痛感させられた事実と謎の男の存在により、その心は空に広がる曇天のようであった。


     *     *     *


クロウズが倒されたことにより、映像を目から投射していた鴉も朽ち、先ほどまで戦場を映し出していた空間は何もない暗闇に戻っていた。その暗闇をヱリカは睨み続けていた。

「おのれぇぇ!よくも私の作戦をっ!!」

目の前のチェス盤を乱暴に払いのけるヱリカ。盤上の駒が床に打ち付けられる乾いた音が、虚しく響き渡る。

「魔界での動きがおとなしいと思っていましたが…地上に来ていたようデスね」

ヱリカとは対称的に傍に控えていたドラノールは静かに呟く、しかしその身体には闘志がみなぎっていた。

幻想怪人クロウズから送られた最後の映像…男の姿を思い出しながら、ヱリカは敵の名を絞り出した。


「ウィラード・H・ライト!!!」



【エンディング】




《This story continues--Chapter 31.》




inserted by FC2 system