『今回予告』

 俺は負けない、今も必死で敵を食い止めてくれてる皆のために!
 妾は負けられぬ! 敵を必死で食い止めてくれておるお師匠達のためにも!
 俺は絶対ファントムを倒す! 罪もない人達がこれ以上被害に遭わないために!
 妾はセブンを倒さねばならぬ! 罪もなき幻想の者達を守るためにも!
 俺は生きて帰る! 縁寿や仲間たちと再び平穏な生活を過ごすために!!!!
 妾は絶対に死なぬ!! お師匠様達との平穏な生活、そしてあの戦人や真里亞とまた一緒に遊ぶためになっ!!!!!
そう俺は……
  そう妾は……

                  第25話   必ず守りぬいてみせる!!!!
 

 セブン達が戦っている城の地下深くにはこの城の主であるベアトリーチェですら知らない区画があった、明かりのほとんどないその部屋を照らすは怪しげんな魔法陣の光……そしてその上に立つ謎の蒼いツインテールの少女。
「……ワスデヤイハンデグイサ」
 少女がコマンドワードを唱えると空中に無数の文字が浮かび上がった、ルーン文字のようなそれはこの魔法陣の魔法を構成するプログラムであり彼女はそれに問題がない事を確認する。
「……さて、ベアトリーチェはセブンを討ち倒せるでしょうかね? どう思われます皆様方?」
 彼女一人しかいない部屋でまるで観客でもいるかのように問う、それはこの”カケラ”を覗き見る観劇者に対してのものかも知れなかった。


 扉を開くとそこはさながらゲームなんかで見た様な西洋風な謁見の間、そして城の主が奥の玉座にいるのもまさにゲームの通りでる。
「……ああ、来たぜお前がベアトリーチェだな?」
 見た目こそ少女であってもその身体から放たれている臨戦態勢の魔力の波動を感じればそうである事は疑いようもない、レッドは油断なく【ガン・イーグル】を構えた。
「……一人とは妾も甘く見られたものよ……と思うべきか?」
「……まさか……心配しなくても俺の仲間達はすぐに来るさ、お前の手下をぶっ倒してなっ!!」
「お師匠様やロノウェやガァプが負けるはずがないわっ!!!」
 ベアトリーチェが手に持ったキセル――ケーンを振うと彼女の前に三角錐状の赤い光が出現した。
「妾のこの【赤き楔】……受けてみるがよいっっっ!!!!」
 言葉と同時に【赤き楔】がレッドめがけて襲い掛かるが十分に距離があった事もありレッドはそれを回避すると【ガン・イーグル】のトリガーを引いた、だがベアトリーチェも高速で迫る【通常弾】を【バリア】を張り防ぐ。
「……ちっ! あっさり防いでくれるもんだぜ……だがお前は絶対に倒すぜっ!!」
「そう易々と倒されるわけにもいかんな!」
「そんなに人間界を侵略したいのかよ! お前はっっっ!!!!」
 叫びながら【通常弾】のカートリッジを排出する、だがその間にもベアトリーチェの【赤き楔】が攻撃を仕掛けてくる。
「……ちっ!?」
「そうよ! 妾はやらねばならんのだっ!!!!」
「こいつっ!!?」
 新しいカートリッジの装填を完了すると同時に照準もそこそこにトリガーを引くレッド、今度は銃口から放たれたのは蒼き光弾だったがそれは【蒼き幻想砕き(ブルー・ファントムブレイカー)】よりもはるかに小さい。
「【蒼き弾丸(ブルー・ブリッド)】っ!! こいつならどうだっ!!!!」
「……!!!?」
 【紅き楔】と【蒼き弾丸】が衝突し対消滅した。
 【蒼き幻想砕き】を研究し開発されたこの弾丸は威力こそ格段に落ちるが十分な数を作るだけの生産性を確保出来た、一撃必殺ではなくとにかく数をぶつけて勝負するのがこの【蒼き弾丸】だ。
「……幻想を打ち消す蒼き力だとっ!!!?」
「へへへへへ、レッドが蒼い弾ってのも奇妙だがな!」
 言いながらも一発、二発と弾丸を撃ち込んでいく、それをベアトリーチェは【バリア】で防ぎながらも忌々しげな表情を浮かべていた。
「……成程な……その力で……その蒼き力でルシファー達も殺したかぁっっっ!!!!!」
 それまでより一回り大きな【紅き楔】が今度は二つ出現する、レッドはすかさず【蒼き弾丸】を撃ち込むが今度は対消滅しない。
「……ちっ!」
 さらにもう一発撃ち込むと対消滅したがその間にもう一方の【紅き楔】が襲いかかってくる、舌打ちしつつも迎撃するためトリガーを引くが銃口から【蒼き弾丸】は出てこなかった。
「弾切れかよっ!!?」
 残弾数を気にしていなかった迂闊さを呪う前にレッドは回避行動をとっていた、その切り替えの速さが幸いしかろうじて【紅き楔】を回避する。 ミサイルのような追尾能力を持たない楔は床に突き刺さりしばらくして消えた。
「そうまでして妾達を滅ぼしたいのか人間はぁぁぁああああああああああああっっっ!!!!?」
「はぁっ!?……そっちから攻めてきておいて何を言ってやがるんだよっ!!!?」
「お前達が妾達を……幻想の者を消そうとするから侵略するしかないのであろうがっっっ!!!!」
「……意味わかんねぇよっっっ!!!!」
 レッドはカートリッジ交換の手を思わず止めて言い返してしまう、ファントムが攻めてくるまで人間側は幻想の者達の存在など想像すらしていなかったのにそれを消そうとかまったく意味が分からない。
 だからそのことに気をとられたレッドはベアトリーチェが怒りと同時に悲しみの表情を浮かべている事に気が付かなかった。
「お前らが何もしなけりゃ俺達だってっ!!!!」
最初の頃はともかく今となっては、ルシファー達とふれあい幻想の存在にも自分達と同じ心があると知ってしまえば殺し合いなどしたいとは思えないが、しかし戦わないわけにはいかないし負けるわけにもいかない。
 それは罪もなき人々を襲い支配しようというファントムのやり方を許すわけにはいかないからであり、何より今戦っている仲間達の想いに応えるためだ。 
装填が完了した【ガン・イーグル】を再び撃つレッド、だがその弾丸はベアトリーチェの展開した【バリア】に防がれる。
「お前達人間のせいで妾達が滅びかけてなければ妾だってなぁっ!!!!!」
「……わけ分かんねえよっ!!……ちっ……やみくもに撃っても弾の無駄か……」
 舌打ちしながら新開発の銃――【エスペランサー】のエネルギーをとっておけばと悔やむがないものはどうしようもない、ならば今ある最大の火力をぶつけるのみだ。
「その程度の力では妾は倒せぬよ、本気で来いレッドよっ!!」
「ああ! 本気でいってやるさベアトリーチェっ!!!」
 言い返しながら素早くカートリッジを交換すると【ガン・イーグル】の銃口をベアトリーチェに向けた。


 レッドが一人で入って来た事には驚いたがすぐにまだワルギリア達が他の者達を足止めしているのだろうと分かる、ならば彼女らに報いるためにも自分は確実にレッドを倒さねばならない。
「ああ! 本気でいってやるさベアトリーチェっ!!!」
 小技では埒が明かないと思ったのであろうレッドがカートリッジを交換した銃口を自分に向ける、おそらく彼の持つ最大の威力の技を放つのだろう、ならば自分もまた最大の火力で迎え撃つのみだ。
 カートリッジ交換の隙をつくという発想など浮かびもしないのはベアトリーチェがあまりにも精神的に幼く純粋である事と実戦経験の無さだった、だからカートリッジ交換の完了を待ってゆっくりとケーンを掲げた。
「そなたら人間が蒼き力で幻想を否定しようと言うなら妾は幻想の紅き力で世界を染めようぞ!!」
「させねえっ! そんなことさせねえぞっ!! お前はここで絶対に倒してやるぜっ!!!」  
 その叫び声に不意に彼女の脳裏を戦人と真里亞の顔が過ったのは目の前の敵が放つまっすぐな感情のこもった声が戦人と名乗っていた青年と似ていたからだろうと思える、この赤い仮面の下の素顔がどんなものなのかは分からないが戦人であろうはずもない。
 人間界を支配し幻想の世界に平穏が訪れたらもう一度会い遊園地で遊びたい、彼らと友達になりたいと思ったあの青年が自分の敵となって現れようはずもない。
「……面白い、倒せるものなら倒してみせよっ!!!!」
 不敵な笑みのベアトリーチェはケーンを振うと彼女の胸の前あたりに紅い光球が出現し一気に肥大化すると巨大な三日月型へと形を変えた。
「……な、何っ!?」
「……【紅き幻想の刃(クリムゾン・ファントムブレード)】……人間の現実(リアル)を一刀の元に斬り伏せる幻想の紅い力よ!」
  魔力を大量消費した時特有の疲労感を感じる、ブレードと言うよりも巨大なブーメランとでも形容すべきそれは【紅き楔】の何十倍のパワーを持つ、その刃を維持するだけの魔力消費量でもベアトリーチェには負担となるがそれでもすぐにその力を解き放たないのは確実に命中させるためである。
 レッドもそうだろうが必殺の技だからこそ確実を期すのである、それは護身用のためとワルギリアから教わった数少ない戦闘の知識である。
「いいぜっ! お前をその紅の刃ごと撃ち抜いてやれるぜっ!!!!」
「やってみるが良いわっ!!!!」
 それが合図だったのようにベアトリーチェがケーンを振いレッドがトリガーを引いた、レッドの身体を斬り裂くために飛んだ【紅き幻想の刃】とレッドの銃口から放たれた蒼く激しく輝く光【蒼き幻想砕き】がぶつかり合いスパークする。
「妾は負けんぞ! 負けるものかぁっ!!!!」
「俺は負けねえっ!!!! 絶対に負けねえぇぇぇええええええええっっっ!!!!!」
 そう負けるわけにはいかないのだ、幻想の存在を、なにより自分の大事な人達を守るためには敗北は許されない。
「何故だ!? 何故お主ら人間はこうまでして我らに抵抗するっ!!?」
「何を言ってやがる! お前らが攻めてこなけりゃ俺達だって戦う必要ないんだよっ!!!!」
「そうするしかないから妾達はこうしておるのだっ!! なのにお主ら人間が抵抗するからっっっ!!!!」
 ベアトリーチェは自分達が勝てば幻想の存在だけでなく人間とて平和に生きていける世界ができると信じている、だから侵略という行為がどういうものでありどういう結果をもたらすかという事を理解していなかった、出来なかった。
「ふざけた事をいいやが……何っ!!?」
 紅と蒼の力の均衡が崩れた、【紅き幻想の刃】が【蒼き幻想砕き】を押し返し始めたのだ。 そして次の瞬間には蒼き光を斬り裂き一気にレッドを襲う。
「……くっ!?……くぁぁぁあああああああああああっっっ!!!?」
 威力が相当に減退していたのであろう【紅き幻想の刃】はレッドの身体を両断こそできなかったがその衝撃で彼の身体を勢いよく壁に叩きつけた。
「……はぁ…はぁ……お主らが抵抗しなければルシファー達は……お主らが抵抗するから無駄な犠牲が出るとどうして分からんのだ!!!」
 身体の力が一気に抜け立っているのが少しきつくなっているがそれでもベアトリーチェは叫ぶ、しかし答えを返したのはレッドではなかった。
「あんた達が攻めてくるから無駄な犠牲が出るのよ! だからあんた達を全部倒す、そうすればもう誰も犠牲にならずに済むのよっ!!!!」
 扉を蹴破らんばかりの勢いでとびこんで来たのはブルーだった、そしてピンク、イエローにブラック、さらにはグリーンとホワイトも次々と飛びこんで来る。
「それは違うよブルー、僕達は別に彼女らを殲滅したいわけじゃないんだ」
「レッドがやられてる!? おい、大丈夫かよっ!?」
 グリーンが過激なもの言いをするブルーをたしなめ、イエローは倒れているレッドに気がつき駆け寄った。
「……あ…ああ、このくらい平気だぜ……」
 イエローに手を借りてよろよろと立ちあがるレッドはその頭部マスクにひびが入っていた、だがベアトリーチェはそんな事を気に留めている場合ではなかった、それはワルギリア達と戦っていたはずのメンバーがここに現れたことの意味がひとつしかないからだ。
「……ば、馬鹿な……お師匠が、ロノウェが……ガァブも負けたと言うのか……!?」
 それはありえないはずだった、ワルギリア達が負けるなどありえないと信じていた。 しかしやって来たのはセブン達であるという事はそのありえない事が起こったという事である。
「そうよ、他の奴らは倒したわ! 後はあんたを倒してしまえばすべて終わるのよっ!!」
「……倒した……だと……そんな……」
 ブルーの”倒した”という単語に愕然となるのは”倒された=死んだと”いう認識に頭が支配されてしまったからだ、レッドとの戦闘による興奮状態とセブンの仲間がやって来たという衝撃はベアトリーチェから”もしかしたら皆逃げのびたかも”という発想をするという冷静さを奪っていた。
「そうよ! でも安心しなさい、あんたもすぐに同じとこへ送ってあげるわっ!!!!」
「……お、おいブルー! それじゃまるで悪役じゃねえか!!」
「イエローの言う通りだぜ、俺達は別に……」
「そういう甘い考えじゃ駄目なのがどうして分からないのレッド! こいつらは確実に、そして完全に殲滅しなければいけないのよっ!!!!」
「……さぬ……許さんぞ貴様らぁぁぁあああああああああああああああああっっっ!!!!!!」
 ベアトリーチェの怒りの咆哮は内輪もめを始めたセブン達をすくませた、彼女の全身から激しい魔力の翻弄が巻き起こり物理的な暴風となって彼らを襲う。
「……うおっ!!?」
「……何!?」
「……くっ!? 何てパワーだ……」
「ねえさ……ホワイト!」
「うん! 【シールド】展開っ!!!」
「……う〜〜?……何これ……悲しんでる……?」
 ついには魔力が光輝く無数の蝶となり舞う中レッド達は防御に意識を向けたためピンクの呟きは誰にも聞えなかった……。


 ホワイトの【シールド】により何とか魔力の奔流から逃れたレッド達だったがこれではこちらからも手出しできないしホワイトの力とて無限には続かない。
「……うう、これがベアトリーチェ様の力……」
「大丈夫かい、姉さ……ホワイト?」
「くそっ……こいつなんてパワーなんだよっ!!? これじゃ攻撃出来ないぜっ!!」
 飛び道具を持たないイエローが悔しそうに叫ぶ。
「ちっ……【蒼き幻想砕き】で……いや、駄目だ! もっと火力のある一撃じゃねえとあいつは倒せねえっ!!!!」
「火力……? あの新型のエネルギーさえあれば……いや、今さら言っても仕方ないか……」
 グリーンの言葉にレッドはふと思いつく、確かに銃本体にエネルギーはないがそのエネルギー源となるものなら自分達は七つも持っているのだと、そう考えた時にはすでに銃を取り出していた。
「ちょっ……お前何を!?」
「へっへっへっ……今からこいつに、【エスペランサ―】にエネルギーを入れてやろうってんだイエロー、俺達の【コア】のな!!」
「……な!?……本気かい!!」
「ああ……本気だぜグリーン!」
 ベアトリーチェの強大すぎるパワーを見てしまっては、このままでは負けるならやるしかなくいちいち考えてる場合ではないと思うしかなかった。 この膨大な魔力の放出が彼女自身をも滅ぼしかねない事も、そして彼女を支配する怒りと悲しも今のレッドには想像している余裕はなかった。
「頼むぜ【コアパワー・フルオープン】!!!!!」
 力を込めグリップを握ると精神を集中し【コア】のパワーを銃へと送るイメージをする、そして一秒……二秒……銃が僅かに光を放ち始めた。
「……これはいけるわ、あたし達のパワーも【エスペランサ―】に……!!?」
 ブルーがそう叫んだ時暴風が止み無限の光の蝶がベアトリーチェに集束を始めた。


 ベアトリーチェの頭にあったの目の前の敵を殺す事だけだった、ありったけの魔力を放出し駄目ならそれを一点に集束させぶつけるのみであると判断したのは本能に近いものだった。
「貴様らがいなければ……そうよっ! 貴様らがいなければぁぁぁあああああああああっっっ!!!!!」
 今頃は戦いも終わりワルギリア達と語らい戦人や真里亞達と遊ぶ平穏で幸福な時間を過ごせていたかも知れない、それをこいつらがすべて奪ってしまったのである、とても許す事は出来なかった。
「貴様らなど欠片一つ残さず消し去ってくれるわぁぁぁあああああああああああああああああっっっ!!!!!」
 ベアトリーチェの周囲を渦巻く膨大な魔力はそんな彼女に応えるようの形を創る、それは血のように真っ赤で巨大な蝶だった。
「ベアトリーチェ! 俺達は負けない、負けられないんだよっっっ!!!!」
「……何っ!!?」
 レッドの構えた銃に他のセブンの六人が手を乗せ重ね合わせていた、その銃が光輝き強い魔力を放っていると分かり驚く。
 レッドの手にある銃に集中した七人分のエネルギーは単純に足して七人分どころではない、【コア】の特性なのかあるいは銃がブースターの役目をしているのかは不明だが恐ろしいくらい強大なものへと膨れ上がっている。
「……だが妾とて負けぬ!! ロノウェやお師匠様を殺した貴様らなどに負けぬっっっ!!!!」
「そっちから攻めてきてるんだから自業自得だって理解しなさい!! 仲間が死んだから仇打ちとかふざけるにも程があるわよ魔女がっ!!!!」
「その攻めざるを得ない原因を作った人間が言う事かよぉぉぉおおおおおおおっっっ!!!!!
「そっちの理由なんか、都合なんて知った事じゃないって言ってんのよっ!!!!」
 このブルーのような人間がいるせいだと思った、こんなエゴの塊のような人間達がすべて悪いのだと。 こんな人間がいるから大事な人達と静かに生きる事も戦人や真里亞と一緒に遊ぶ事も出来ないのだと。
「止めないかブルー……ベアトリーチェ、君には君の戦う理由があるのかも知れないけどね、僕達も僕達の大事なものを守るために戦わなきゃいけないんだ!」
「そうです、私も守りたい……大好きな人と生きるこの人の世界を!」
 言葉と同時にグリーンとホワイトの身体が光されにエネルギーが膨れ上がる。
「僕は一度はこの世界を、人間を憎んだ……でも今は守りたい! もう一度信じてみたい人のいるこの世界をっ!」
「そうだよ、あたしも守りたい! お前達に支配された未来なんていらない、あたしとそのかの……くん……と、とにかく一緒に生きる未来を守りたいんだっ!!!!」
「……あたしは許せなかった、すべてを奪ったあんた達とその時に何も出来なかった非力な自分が……だから今度こそあんた達を倒し、そして守る! 絶対によっ!!!!」
「………………」
 ブラックがイエローが、そしてブルーが叫ぶ中ピンクだけは何も言わない。 ベアトリーチェには何故かその仮面の下の顔が迷いと困惑に満ちている様に思えたがそれだけだった、憎しみに支配された彼女には気にする価値もない事なのだ。
「こやつら……だがぁぁぁあああああっっっ!!!」
「みんなの言う通りだぜ、俺達は……」
「妾だって……」
 レッドが引き金を引くために指に力をいれ、ベアトリーチェはケーンを振うべく掲げる。
 

                     平和な日常を守りたいんだよっ!!!!!
                     皆を守りたかったんだよっっっ!!!!!

 【エスペランサー】――希望の意味を持つ名の銃から放たれたのは黄金に輝くの片翼の鷲だった、それはベアトリーチェの放った【紅の蝶】とぶつかり互いに押し返そうとしている。
「妾は……妾は……むっ!?」
 ベアトリーチェがぎょっとなったのは、おそらく発射の衝撃でレッドのマスクが割れていたからではない、そのさらけ出された青年の素顔が知った顔だったからだ。
「……な…そんな……戦人……だと!?」
「……何?……どうして俺の……おい! まさか……!!?」
「う〜〜〜!? ベア…ト?」
「……何!? まさか、真里亞もだと言うのか!?」
 ベアトリーチェの般若の様な表情が一転して驚愕に変わる。
「何だよ……何でそなたらがそこにいるんだよぉ!? 何でそなたらが妾の敵なんだよぉぉおおおおおっ!!!?……何でそなたらがルシファーやお師匠様達を倒すんだよっっっ!!!?」
「ベアト……あのベアトがどうして……ファントムのベアトリーチェってどういう事だよっ!!?」
 あの戦人と真里亞が敵として自分の目の前にいる、いったい何が何なのか分からなかった。 そして運命はそれを考える時間すら彼女に与えてすらくれなかった。
 【紅の蝶】が【黄金の鷲】によって引きちぎられ障害物のなくなった【黄金の鷲】が一気にベアトリーチェに迫って来たのである、あまりの衝撃に狼狽していた彼女はそれを避ける事も防御する事も出来なかった。 
「う……うおぉぉぉおおおおおおおおおおっっっ!!!!!?」
  白い光が広間全体へと広がりそのベアトリーチェの絶叫や突然の展開に茫然となったセブン達の意識を呑み込んで行った……。


「……ここまでですわね」
 蒼いツインテールの少女は淡々とした口調で言うと最後のロックを解除し起爆装置を起動させるためのコマンドワードを唱えた。
「ネワスデイイテッラキャスアリシ!!」







 レッドはには何があったのか把握出来なかった、気が付いた時には目の前にベアトという少女が倒れていた、黒いドレスはボロボロに焦げ美しかった金髪もちりぢりに焼け焦げている。
「……べ、ベアト……」
 よろよろと彼女に近づいて行く、どうしようというのか自分でも分からないがそれでも放ってはおけなかった、後ろでブルーが何か叫んでいるようだったがほとんど耳に入っていない。
 それはまるで夢の中を漂ってる様な感覚だったが、しかしまだ残っているベアトを撃つために引いた引き金の感覚はまぎれもなくリアルなものだ。
「……ううう……なんで……なんでだよ……どうしてんだよ……」
 ベアトの声はほとんど泣き声だった、数十メートルという距離がありながら今にも消え去りそうなそんな小さな声がどうして聞えるのだろうということすらどうでもいい事だった。
「……あ……」
 何か言いたいのに言葉が上手く出ない、いろんな事が頭の中をぐるぐると廻っている。 その彼がはっと我に返ったのは突然に襲ってきた激しいし揺れと轟音だった。
「な……何っ!?」
「う〜〜〜!? 地震〜〜〜!?」
「何だってんだよ!?」
「落ち着いてイエロー! これは……城が崩れる!?」
「くっ……まだあいつに、ベアトリーチェに止めを刺してないのに……!!」
「そんな事言ってる場合じゃありません、このままでは皆死んじゃいます!!」
「……くっ!?」
 ホワイトの言葉にやむを得ないという風に舌打ちしたブルーがレッドに駆けより手を掴むがレッドは反射的にそれを振り払おうとする。
「馬鹿野郎っ! まだベアトがいるんだぞっ!! あいつは死にかけてるんだぞ、助けなきゃいけないんだよっっっ!!!!!」
「何言ってるのよ! あいつは敵なのよっ!!! あなたと何があったか知らないけど敵は倒すのよ、そうしないと誰かが犠牲になる、あいつらがいる限りそうなっちゃうのよっ!! なのにそいつを助けるとか正気っ!!?」
 ブルーも負けじと腕を掴む手に力を入れる、痛いと感じるほど必死の力がこもったそれは今の彼には鬱陶しいだけだったから苛立ち怒鳴ってしまう。
「俺は正気だっ!!!! お前は敵なら誰でも彼でも殺しゃいいって思ってんのか!? 敵なら友達でも親兄弟でも殺すのかよっ!!!?」
「……えっ!?」
 ぎょっとなったという風に力の抜けたブルーの手を今度こそ振り払い駆けだす……まさにその瞬間に轟音と共にレッドの視界が遮られた、それが崩れ落ちた天井だと分かった時にはもうベアトの姿は瓦礫の向こうに消えていた。
「限界だ、脱出しよう皆!! レッドも早くっ!!!」
「駄目だ譲治の兄貴!! 俺はあいつを……」
「駄目っ!! あなたはあいつのために死ぬ気なのっ!!!? あんな奴のために……あなたはあいつとあなたの帰りを待ってる妹とどっちが大事なのよっっっ!!!!? あなたはお兄ちゃんなんでしょう!!? お兄ちゃんが妹を残して死んでいいと思ってるのっっっ!!!!?」
「……!!!?」
 ブルーの絶叫に幼い縁寿の声が重なったように聞えてりレッドははっ!となった。
「二人共早くっ!! もう持たないよっ!!!」
「分かってるグリーン! 行くわよっ!!!」
 こうなっては今度は抵抗出来なかった、半ばブルーに引っ張られながらレッドは広間の出口へ駆けだす……駆けだすしかなかった。
「……っくしょう……畜生ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!!」






 不意にちくりとした痛みを胸に感じた縁寿が小さく呻いた、彼女がセブン司令室にいるのは少しでも兄に近い所で応援したいという望みを金蔵が聞き入れての事だった。
「……ん? どうしたのだ縁寿よ?」
「……う、うん……なんだかおにいちゃんがかなしんで……ないてるようなきがして……でもへんだよね?」
「何故だ?」
「おにいちゃんたちはわるいひとたちをやっつけにいって……ぜったいにかつのに、おかしいよね……」
「……悪い人達か……」 
 善と悪……世の中がそう簡単であればいいと思う、もちろんファントムの行動は人としては許せないものではあるが彼らには彼らの事情があるのではと思う程度には金蔵も歳をとっていた。
 本拠地を潰せはこの戦い終わるだろうと決断した今回の戦いも、あるいは早計だったのではと思えてしまう、それは縁寿の言葉を聞き取り返しのつかない事態が起こってしまったのではないかと言う漠然とした不安である。
 たかが子供の直感であるがそれを軽んじる事は出来なかったのは縁寿もまた自分の孫であり、右代宮一族の子共だったからだった。


 
 先程崩壊する城内を命からがら脱出したのが幻想だったかのように眼前に城がそびえ立っているのはベアトリーチェの城はこことは別次元にあったからだろう、そのキャッスルファンタジアを朝日が美しく照らすのを茫然と見上げるセブンのメンバーは誰も一言も語らない……。
 ファントムの首領と思われる魔女ベアトリーチェはおそらく死にその居城も崩壊した、しかし敵を倒し生きて帰って来たと喜ぶ気になれず後味の悪さが胸中に残るのは自分だけではないとグリーンは思う。
「……あいつは変な奴だ、変な奴だったけど悪い奴じゃなかったはずだ!? それがどうしてこうなっちまうんだよっ!!?」
「う……ベアト……どうしてなのベアト……?」
 目に涙を浮かべ叫ぶレッド、マスクの下は窺えないそれでもがピンクも泣いてるだろうということは分かる。
 自分の大事なものを守るためには時には誰かを傷つけなければならない事もある、ましてこの一件はファントムから仕掛けてきたゆえの正当防衛であるのも間違いなく、その意味では彼らには覚悟が足りなかっただけとも言える、しかし実際に傷つき悲しんでいる仲間を見てしまえばそれを言葉にして言う気にはなれない。
 (……あのタイミングで気がついてしまった、だから余計に辛いんだろうな……)
 何も知らないままベアトリーチェを倒せていれば問題はなかった、そして気がつくにしてももっと早ければまだ何かが出来たのだろう。 決着が付く瞬間に、何もする時間も何かを考える時間すらないその時に互いに気が付くというのは酷く残酷な運命だろうと。
 だがこれで戦いは終わったはずだ、二人の心は時間が癒してくれるだろうとそうグリーンは……いや、戦人と真里亞の従兄妹であり兄貴分の右代宮譲治はそう願っていた。
 
 

「……あ、危なかったですわ……」
 肌は黒いすすだらけ服もボロボロというありさまなのは蒼いツインテール少女だ。
「私とした事がマイ・お箸を落としてしまったとは不覚でしたわ……」
 一度は脱出した少女だったが常に持ち歩いている自分のお箸をどこかで落とした事に気が付き危険を承知で城に戻ったのである、それは彼女にとってお箸とは命を掛けるに値するものだからだ。
「……ま、何にしてもこれでベアトリーチェは死に情報の漏えいはなくなりましたわ、まったく正義感が強いのは結構ですが中途半端に甘ちゃんなのは困りますよ、余計な手間が増えるだけですわ」 
 ベアトリーチェを生きたままセブン側に渡さず、しかしセブン達は脱出させなければならないという条件をクリアするために爆破のタイミングと城の崩壊の速度を考慮し威力を調整するのに苦労した事もあってそんな文句を誰にともなく言ってみるのだった。


 そこはいくつもの本棚が置かれた部屋だった、そしてその部屋の真ん中にはこの場所の主がウッドチェアに座りくつろいでいた。
「……戻ったかラムダデルタよ」
「ええ、きちんとあなたの命令は実行してきたわよ、フェザリーヌ・アウグストゥス・アウローラ卿……でも本当に良かったの?」
 ラムダデルタと呼ばれたピンクの服を纏った魔女は少し不安げにそう言う、確かにこの事があの男に知られればフェザリーヌはもちろんラムダにも何らかの報復はあるかも知れない。
「観劇の魔女が舞台に干渉するのは本意ではないがな、しかしあやつはどうにも危険に思えてならぬ」
「……ま、それは同感だけどさぁ……」
「取り返しのつかない事態になる前にある程度の布石は打っておかねばならんと言う事よ、ともかくご苦労であったな」
 労をねぎらいラムダを下がらせるとフェザリーヌは椅子に深くもたれかかりゆっくりと目を閉じる。
「……さて、これで後はどうなるか……しばらくは見物させてもうらおうぞ、うみねこセブン、そしてベアトリーチェよ?」 
 現状ではあの男を敵にする気はない、まだしばらくは観劇の魔女に徹するのみと決めた。
 しかしフェザリーヌ程の大魔女であってもこの時はまだ”彼女”が生き残っていた事は予測出来ていなかったのである……。
 













 爆発という大破壊の後に生みだされるのは瓦礫の山だ、そして生きてる者はいないだろうと思えるその瓦礫の山一画がのひとつがガサガサと揺れそして勢いよく跳ぶ。
「ぷはぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!……し、死ぬかと思ったわ……」
 すっかりボロボロになった紫の服を纏ったエヴァ・ベアトリーチェがその下から姿を現す、そして目に飛び込んで来た光景にしばらく茫然としてしまった。
「…………ちょっ……何これ……いったい何があったのぉぉぉおおおおおおおおおっっっ!!!? はっ!?……そ、そうか……セブン、あいつらの仕業ねっ!!!!」
 セブンが攻めてきて自分が迎撃に出て姑息にも奇襲攻撃を食らった記憶が蘇る、つまりこの大破壊も奴らの仕業に違いない。 
「あつら……正義の味方って風にしながらこのあたしに奇襲攻撃をしてくれたあげくここを完膚無きまでにぶっ壊すとかなんて卑怯で極悪非道な連中なのっ!!!?」
 大声で壮絶な勘違いを叫ぶが彼女にとって一番大事なのはそこではない、重要なのはすでに戦闘が終了していたという事である。
「結局あたしに出番はなかったのぉぉぉおおおおおおおおおおおっっっ!!!? このあたしが活躍出来ないとかもうへそ噛んで死んじゃえばぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!」 




《This story continues--Chapter 26.》


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