「煉獄の七姉妹がすべて倒されたことにより、幻想の世界にて、

我等に対する不信感が広まってしまいました…

なんとかしなければいけませんね………さて次なるお話は…


『六軒島戦隊 うみねこセブン』 第20話 「揺らぐ幻想」


そう、私が…このワルギリアが、なんとかしなければ……」






「煉獄の七姉妹全滅!!由々しき事態であります!!」

ファントム本部地下会議室にてシエスタ00が熱弁を振るい、シエスタ45がうんうんと頷く。

「しかしファントムには幹部の皆様はもちろん、このシエスタ部隊もいるであります!我らに任せていただければ必ずや…!!」

「だぶるお〜」
興奮気味に捲くし立てるシエスタ00とは対象的に、気怠げにシエスタ410が口を出す。

「なんだ410!」

「誰もいないにぇ」

「…………」

410の突っ込みに00がガックリと肩を落とす。


今日は定例の会議が開かれるはずだった。
今まで出番のなかったシエスタの存在をアピールする良い機会だと00は張り切っていたのだが…ガァプ・ロノウェの二人の幹部に『急用』が入ったため会議は突然の中止となった。

「それにしてもホントに寂しくなったにぇ…」
「ベアトリーチェ様も最近元気がないし……ファントムはどうなっちゃうんでしょう……うう」

五月蝿いぐらいだったあの頃を懐かしむように410は会議室を見回し、これからのファントムの行く末に不安を感じた45が嗚咽を漏らす。

「だ、だからこそ、我々シエスタがしっかりとだな…」

「何も心配することはないわよぉ?」

「!!?」

突如、会話に割って入った声に45・410・00の3人は声のした方を向く。



「なぜなら、この私が、いるのダカラー!」
エヴァだった。


(いたんだ…気付かなかったであります…)
(いたんだ…き、気付きませんでした…)
「いたんだ、気付かなかったにぇ」


なんとなく微妙な空気になった。



「おや?今日の会議は中止になったはず、ここで何をしているのですか?」
「あ、ロノウェ様!」

そこにロノウェが登場、シエスタ達は椅子から立ち上がり敬礼を返したのに対し、エヴァは顔だけをロノウェの方に向ける。

「折角来てやったのに、そのまま帰るのも癪だからダベってたのよ。『七姉妹が全滅して、ファントムがヤバそうだから皆で転職しようか』ってねー」

「ええっ!?いや、そんなこと…」

毒突くエヴァに対して、45が慌てて否定する。しかし、410は口笛を吹きながらソッポを向き、00もロノウェの様子を探るかのように何も言わない(先ほどまで息巻いていたが、本音としては色々と思うところはあるようだ)。

「たしかに呼び出しておいて中止では腹を立てるのもわかります。どうです?わたし特製のお茶でも淹れましょうか?」

エヴァの挑発に対して、しかしロノウェはいつもの飄々とした態度で接するのみだった。

「ふん…じゃあ、お願いするわ。ところで、今までどこに行っていたのよ?」

「ちょっとした おつかい ですよ。やれやれ、慣れない事をすると肩がこりますね」


『七姉妹全滅』の一報は異常な速さで本国に広まっていた。ガァプとロノウェは、ファントムに対する不信感を抑えるために幻想界を東奔西走しており、今回の会議中止もそのためであった。


「ところでベアトリーチェ様とマダムは?」

自分のおつかいの件は、あまり触れられたくない話なので、ロノウェはすぐに話題を変える。
45が心配そうに答える。

「ベアトリーチェ様は気分が優れないということで自室でお休みになってます。ワルギリア様が看病で付き添いを…」





「ベアト、身体の具合はもう大丈夫ですか?」

ベアトリーチェの自室にて、ベッドに身を起こしてぼ〜っとするベアトを、ワルギリアは花瓶に花を活けながら、心配そうに聞いた。

「え?……ああ、うん……」
先日遊園地の外に出ようとして倒れてから、ベアトは明らかに元気をなくしていた。

(仕方ないのかもしれませんが…)
自分が籠の中の鳥であることを改めて認識したのだ無理も無いとワルギリアは思う。


「痛っ!!」

ベアトのことを気にしすぎたからだろう、花を活けていたワルギリアだったが、過って薔薇の棘で手を傷つけてしまう。

「お師匠様…大丈夫か!?」

「ちょっと切っただけですから大丈夫ですよ」

心配そうにベアトはワルギリアの元に駆け寄る。

「お師匠様も案外抜けてるなぁ、歳食ってるから治りも遅いんだし気をつけないと」

ベアトが自分のハンカチを取り出し、それを包帯代わりにワルギリアの手の傷を縛る。

「ありがとう、ベアト。あと私はまだまだ若いですよ?」

「ははっ、そうかぁ?…………顔に疲れが出てるぜ?お師匠様こそ身体大切にしろよな」

まだまだいつもの元気なベアトには程遠いが、ベアトの笑顔が見れてワルギリアは少しだけほっとした。


突然ワルギリアの目の前の空間が歪み、小さな黒き穴が出現する。その穴から紙切れが一枚舞い落ちる。

「ガァプからか?」
「ええ、そのようです」

ガァプは自身の能力により、いかなる場所にも移動可能だが、そのガァプでさえ、幻想世界とこちらの世界を行き来するのには相当な魔力を必要とする。故に緊急の伝達手段として、魔力消費を抑えるため小さな空間の歪みをほんの一瞬だけ生み出して、このようにメモだけを送る時がある。

「…ベアト、貴方はもう休みなさい、体を休めれば調子も戻りますよ」
「ああ、わかった」

素直に言うことを聞くベアトを心配に思いながらも、ワルギリアは部屋を出る。

ワルギリアはメモの内容に目を通す。
ガァプが送ったメモにはこう書かれていた。

『ゴメン 一人なだめるのに失敗 魔獣ゲリュオン 地上に向かった』




【オープニング】



『六軒島戦隊 うみねこセブン』 うみねこセブン第20話「揺らぐ幻想」




「くっ!強い!!」

下弦の月が厚い雲に覆われ、ただでさえ暗いウィッチハートエリアの「魔女の森」が、一層の暗闇に包まれた頃に闘いは始まった。脚を活かし、フェイントを混ぜ、数多の斬撃を繰り出すが、そのことごとくを槍技と盾で防がれ、うみねこブラックは焦る。

「噂に聞こえし うみねこセブンの実力はこんなものか?ならば、拍子抜けと言わざるを得んな」

「く、くそっ!」

「ブラック!みんなが来るまで無茶はダメ!」
人々の避難を終えて戻ってきた うみねこホワイトが叫ぶ。が、熱くなっているブラックにはその声は届かない。


Ushiromiya Fantasyland内にて、魔力反応があったため、一番近くに居た嘉音と紗音が調査に来たのだが、そこで敵と遭遇した。
獣の上半身には翼が生え、大蛇の下半身に蠍の尾を持ち、槍と大盾を構えるその姿は神話に出てくる怪物を思わせた。ゲリュオンと名乗るこの怪物は「いざ尋常に勝負!」と、うみねこブラックに襲い掛かり、交戦となったのだった。


「はあああぁぁぁあああ!!」
うみねこブラックは渾身の力を込めブレードの一撃を放つが、敵の持つ槍により軽々と防がれる。

「やれやれ、本当にこの程度か…そぉら!消し飛べぃ!!」

「なっ!うわあああぁああああ!!」
「ブラック!?きゃああああああ!!」

鍔迫り合いの状態から、ゲリュオンは強引に槍を振るい、ブラックの身体は小石のように吹き飛ばされる、その先にいたホワイトも巻き込み二人は巨木に激突した。

「ほほぉ…白い方はなかなかに機転が効くようであるな」

うみねこホワイトはゲリュオンが槍を振るう直前、ブラックが吹き飛ばされる進行方向に駆け付け、自らブラックと共に吹き飛ばされ、巨木に激突する瞬間バリアを展開してブラックがダメージを受けるのを防いだのだった。

「姉さん!しっかりして、姉さん!!」
「嘉音くん…無事で…良かった……」

バリアのおかげでブラックにダメージはまったく無かった。しかし、ホワイトはそのまま意識を失う。

「白い方が自らを犠牲にして守ったというのに、敵に背を向けるとは・・・愚かと言わざるを得んな…」

自分に対して背を向け、ホワイトの身を気遣うブラックに対して、ゲリュオンが襲い掛かる。


しかし銃弾の嵐により進軍は阻まれる。


「ブラック!ホワイト!大丈夫か!?」
「僕は大丈夫だけど、姉…ホワイトが……ッ!」

「…大丈夫、怪我はたいしたことないし、気を失ってるだけみたいだ」


グリーン・レッド・イエロー・ピンクがブラックたちと合流。
レッドが牽制の攻撃を放つ間、グリーンがホワイトの容態を見たが、特に外傷は無く、衝撃で気を失っているだけだったので安堵のため息を漏らす。


「チィ!全弾防がれちまった……」
弾が切れ、カートリッジの交換をしながら、うみねこレッドこと右代宮戦人は舌打ちをする。

「盾もかなりの硬度ですが、槍捌きもなかなかのものです。僕の攻撃がまったく歯が立たなかった…」

ブラックが悔しそうにゲリュオンを昏い瞳で睨みながら話す。
その様子をグリーンが少し厳しい表情で見つめ、そして考え、作戦を提案する。

「あの大きな盾の前では通常の遠距離攻撃は効果が薄いみたいだね……レッドとイエローで中近距離から攻撃して隙を作ってほしい、ただし無理はしないで。ピンクは強力な一撃を放つために後方で魔力を高めながら待機。僕とブラックはホワイトとピンクを護衛、こちらに敵が向かってくるかもしれないしね。とりあえず、これで…」

「僕が囮になります…その隙をついて攻撃してください」

グリーンの言葉を遮り、ブラックは再びブレードを展開しゲリュオンの方を睨む。

(悔しいけど、僕の力ではあいつに敵わない、そして自分の未熟のせいで紗音も危険な目に遭わせてしまった…償いに、この身を犠牲にしてでも敵の隙を作…あ痛ッ!)

ぽかりとイエローに小突かれてブラックは驚きの表情を見せる。うみねこイエローこと右代宮朱志香は少し怒った表情を嘉音に見せる。


「な〜んか、ネガティブな事考えてなかった?ネガティブ禁止!!」

「えっ?えっ??」

「……イッヒッヒ。グリーン、作戦変更提案!ブラックも入れて3人でやらせてほしい。3人のコンビネーションでピンクがでかいのを当てれる隙をつくって見せるぜ……でもまぁ3人で力を合わせれば倒しちまうかもしれないけどな!」

ブラックは目を丸くしていたが、ホワイトを傷つけた自責の念に捕らわれていた自分をフォローしてくれているのだと気づき、少し恥ずかしく、そして嬉しく感じた。

「レッド・イエローありがとう、でもグリーンの言うとおりぼくは後方で…」

「いや、今の3人なら本当に倒せそうだと思う……レッド・イエロー・ブラック、任せたよ」

ブラックの状態を心配して最初の提案をしたグリーンも、もう大丈夫だと、レッドの案で行こうと3人に檄を飛ばす。

3人はお互いに頷き前線へと向かう、


「おう、任せとけ!」
「よっしゃ行くぜ!」
「ハイ!いきましょう!」




「むぅぅ……」

第二ラウンドが始まり、いきなり風向きがガラリと変わり劣勢に転じたことにゲリュオンは唸る。
ブラックの剣技、イエローの拳技、レッドの銃撃が見事に連携し防戦一方であった。


「人数が増えただけで、この強さとは…!」

「はぁ?何言ってやがる。増えりゃ強いのは当たり前!更に俺たちのコンビネーションなら1+1の足し算ではなく、1×1の掛け算………………あ」

「2から1に減っているではないか、アホだと言わざるを得んな……」

「う、うるせええぇぇぇぇ!!」

「レッド……」
「…………………」

レッドが顔を赤くしながら逆ギレする。流石にブラックもイエローもフォローできなかった。


(いやしかし、実際この強さはどういうことだ!?)

ゲリュオンは焦る。うみねこレッドの言いたいことは(計算は置いといて)まぁわかる。
連携をとることで相乗効果を発揮する…多対一の戦闘において幾度となく経験していたからだ。

しかし明らかに個人個人の力が増している。

それが証拠に、先ほどまで簡単にいなすことのできたうみねこブラックの攻撃は、もう受けるだけで精一杯であり、反撃に転じることができない。一撃が放つ重みが先ほどまでと明らかに違っていた。

(むぅぅ、この迷い無き一撃!なぜ放てるのか!?)

ただ一人で戦い続けてきたゲリュオンには理解できない。
守ろうとする決意、守られているという信頼が力に変わることを。そして理解できないことへの気持ちの動揺が判断を一瞬、致命的な一瞬として、遅らせた。


「疾風付与……貫通付与……」

(しまった!!!)

一瞬の隙をうみねこイエローは逃さなかった。
攻撃できるほどの隙ではないが、強力な一手を放つための"タメ"に入ることができた。
対してゲリュオンは、攻撃を阻止することは無理と判断、盾を構え攻撃に備える。

「うおりゃああああぁぁ!!」

うみねこイエローの拳から放たれた闘気の奔流は盾に防がれたが、その威力は盾を貫通しゲリュオンの左胸に炸裂する。

「ガッ!?・・・・カハッ!!!」

「レッド!ブラック!いまだ!!」

身体を突き抜ける衝撃に心肺機能が一瞬動きを止め、ゲリュオンは盾を落とす。それはまさに「攻撃できるほどの隙」であった。

うみねこレッドが大きめのエネルギー弾を銃より放つ。

ゲリュオンは銃弾の軌道を逸らそうと槍を構えようとするが、反対方向にて突撃してくるうみねこブラックを目にする。
着弾と斬撃はほぼ同じタイミングで襲い来るようだ。


(盾を拾う暇は無い!どうする?どちらから防ぐ?赤か?黒か!?)


わずかにうみねこブラックのほうが速いと感じたゲリュオンはブラックへと槍を振るう、しかしギリギリまで判断を遅らせた攻撃ではブラックを捉えることはできなかった。


「「喰らえ!銃剣交叉『ルージュ・エル・ノワール』!!」」


うみねこレッドとブラックの攻撃を受け、ゲリュオンは倒れ伏した。


【アイキャッチ】



「う、う〜〜ん…グリーン?………!!」

「よかった、意識を取り戻したみたいだね」


意識を取り戻した紗音は自分が譲治の腕の中で介抱されているのに気づくと、顔を赤らめながら、慌てて譲治から離れ(なぜか正座で)、きょろきょろと辺りを見回す。
遠くのほうにいる3人と倒れる怪物の姿を目にして、おおよその状況を把握する。

「すいません…私、気を失って、戦いに参加できなくて…」

「ハハッ、気にしなくていいよ。僕たちも出番が無かったからね。あの3人が…」

「う〜〜!まだ終わってない!」


グリーンとホワイトの会話に、集中し魔力を練り上げていたうみねこピンクこと右代宮真里亞が割り込む。

「感じる…七杭のお姉ちゃんたちを遥かに超える魔力!」

「な、なんだって!?」

うみねこグリーンは慌てて戦場に目を戻した。



「うおおおぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!!!」


「なっ?こんだけ喰らっても倒せないってどんだけタフなんだよ!」
「くっ!!何か仕掛けようとしています、気をつけて!!」

驚くイエローに、ブラックが注意を呼びかける。
倒したかに思えた怪物は、咆哮を上げながらすごい勢いで立ち上がる。
その身体は赤く染まり身体からは蒸気が立ち昇る。

「寿命が縮む故できれば使いたくなかったが・・・・奥の手を使わざるを得んようだな!」

「上等だ!だったらこっちも!!【蒼き幻想砕き】ブルー・ファントム……」
(やべぇ…間に合うか……)

反応が遅れたため、【蒼き幻想砕き】のチャージングよりも先に向こうの攻撃が来そうなため、うみねこレッドは焦った。


「3人とも!ここはピンクとホワイトに任せて一旦引くんだ!!」

後方で待機していたうみねこグリーンが叫ぶ、チラリとそちらを見ると、ホワイトがピンクに自分の魔力を送り、ピンクが練り上げた魔力を放つための魔法詠唱に入っていた。

「わかった!後は任せたぜ!」
3人は慌てて戦場から離脱する。

魔獣ゲリュオンの口から巨大な溶岩の如き灼熱の塊が、
うみねこピンクの杖からは流れ星の如き光りの矢が、

放たれ激突し拮抗する。

「むぅぅぅぅ・・・・」
「う〜〜〜〜てやぁぁぁ!!」

しかし互角であったのはほんのわずか。うみねこピンクの放った流星弾が灼熱弾を貫き消し去り、ゲリュオンに襲い掛かった。

「うおおおぉぉぉ!?このワシが死ぬか?人間に滅ぼされるか!?・・・・ククク、我が考え甘すぎたと言わざるを得んな!!ワーハハハハハーーー!!!」


ダメージを負い過ぎた身体では、この攻撃に耐え切ることはできない。
己の敗北をゲリュオンは覚悟した。


しかし、ゲリュオンが滅ぼされることは無かった。


「なっ!」
驚愕の叫びを上げたのは、うみねこセブンなのか、それともゲリュオンか。

突如ゲリュオンの目の前に顕われた人影が片手で流星弾を防いでしまった。


「う〜…七杭を超える魔力…」
うみねこピンクが呟く。
そう、真里亞が感じた脅威はゲリュオンのものではなく…


「やれやれ、何とか間に合いましたね…」

雲間から再び下弦の月が顔を出し、その姿を照らしだす。
黒きドレスを身に纏った銀の髪を持つ女性の姿がそこにはあった。

「ワルギリア殿・・・・!」
ゲリュオンが叫ぶ。

(ワルギリア様!?まさか闘いの場に出てくるなんて…)
ブラックとホワイトが身構える。

実務を取り仕切るファントムのNo2……
よもや単身でこの場に来るとは思いも寄らなかった。


「こちらの世界に来たばかりで、かなりの魔力を消費した状態だったとはいえ…手ひどくやられましたね、ゲリュオン。しかし、うみねこセブンの力…その身を持って理解いただけた事と思います。」

「我が戦闘スタイルに魔力の多寡は関係無し…素直に認めよう、彼らは強い…故に貴公らだけでは手に余ると思い馳せ参じたわけよ……」

物腰は低いが「ファントムに任せておけない」という不満をワルギリアは感じ取った。

(しかし、そう思われても仕方ありませんね)

七姉妹たちの敗北は、暴走し単独行動させたのが原因。
敗北もまた彼女たちのためであると考えていたが、七姉妹がすべて倒されたことがこんなに早く幻想の住人たちの知るところとなったのは想定外であった。
そして先のマモンの暴走でも不甲斐ないところを見せ、エヴァ・シエスタにも不信感をもたれつつある。


(すべては……わたしの責任ですね……!)

ワルギリアの目がカッと見開かれた。


流星弾を留めていた片手を払う。
凍らせた綿菓子に力を加えればそのようになるのだろうか?
流れ星は、細切れ、ちぎれ舞い、そして消え去った。


「そ、そんな、私たちの攻撃が片手で……」
「う〜…」
ピンクとホワイトは攻撃が簡単に消し去られたことに動揺する。


「ファントムが敗北するなどあり得ません。ゲリュオン、地上のことは我等に任せ、本国に戻ってその身を癒してください。」

「……たしかに我が思いは杞憂のようだ。いや銀の魔女である貴公がファントムにはいるのだ……どうかしていたと言わざるを得ぬ……すまぬ。おとなしく本国に戻り、罰を受けるとしよう…」

ゲリュオンの足元に巨大な魔法陣が現れ、魔獣の巨体が沈み始めた。


「独断で地上に来たことに対する処罰は免れないでしょうが…貴方の勇猛果敢な活躍は本国にも報告しておきますので、たいした罪にはなりませんよ」

「重ね重ねすまぬな……迷惑をかけた侘びに一つ伝えておく。此度のワシの行動、間違いなくワシ自身の判断だ・・・・・・・・・半分だけな」
その言葉を残しゲリュオンは地上から消え、幻想の世界へと戻っていった。


「……………………」

ゲリュオンが何を言いたいのかは十分理解できた。

なぜ彼らはファントムに不信感を抱いたか?煉獄の七姉妹の敗北が広まったからだ。
しかし、あまりにも情報が流れるのが早すぎることにワルギリアは違和を感じていた。

ゲリュオンの一言でワルギリアは確信した。
残りの半分…彼らは『扇動された』のだ。

そしてそんな事をする人物に心当たりもあった。

ギリリとワルギリアは歯噛みした。



「名乗っておきましょう…………ワルギリア、と申します」

ワルギリアが短く自己紹介をする。誰も何も言葉を発しない。


魔法陣の中へ魔獣が消えてから、場の空気がより一層張り詰める。


(さて、どうしたものでしょうね…)
ワルギリアは考える。


当初の目的である幻想の住人の暴走を抑えることはできたが、裏で糸を引いていたのが「あの者」であるならば話は変わってくる。間接的にでも「行動」として関与してきたのだ、事態はかなり深刻である。

(これ以上失敗が続くようなら、いよいよ危ないかもしれません。そうなればベアトは…)

『――ちまちまと襲撃などせずに、大兵力でさっさと制圧してしまえば良かったんです。逆らうようなら、何人か殺してしまえば、大人しくなります』

「あの者」の言葉が脳裏をよぎる。

(ならばいっそここで…うみねこセブンたちを…)

ワルギリアの右手に魔力が集まり、場の緊張感は更に高まる。


レッドは銃を。ピンクは杖を。
それぞれ構え、いつでも攻撃できる態勢を取る。

ホワイトは敵の攻撃を防ぐシールドを展開するための魔力を練りあげ、
イエロー・ブラック・グリーンも接近戦に持ち込めるように脚に力を込める。


(彼らだけなら、まだ何とかなるでしょうが……)

ワルギリアは遠くの方をキッと睨む。
姿を見ることはできないが、こちらに向けられる敵意がはっきりと感じ取れた。

その先にいるのは、双剣を構える青き戦士の姿。

(試作品とはいえ、GEドライブを携えたマモンをどうやって倒したのか気になっていましたが……なるほど、切り札と呼べる存在を温存していたのですね)

その実力は未知数、そして戦いが始まれば一跳びでこちらにやってくるだろう。
これだけの人数を相手にすれば、自分自身も無傷では済まないだろうとワルギリアは考える。

(しかし私は、ベアトを、皆を、守る責務があります。例えこの身が砕けようとも……!)


ワルギリアは魔法を放とうと片手を振り上げようとする。
その手がうみねこセブンの方を向けば、戦いの火蓋は切って落ちるだろう。


しかし、ワルギリアはその手を振り上げるのを途中で止めた。


振り上げようとした手にはハンカチが巻かれていた。
ハンカチは赤く滲み、一筋の血が流れ滴り落ちる様子が目に入る。
ワルギリアは一番幼い戦士の方を見る。


(先ほどの魔法…防ぎきれていませんでしたか…)

すでにワルギリアの心に浮かぶのは「あの者」ではなくベアトリーチェの姿であった。


『お師匠様こそ身体大切にしろよな――』


ワルギリアはクルリと背を向け、うみねこセブンに告げる。


「我等が邪魔をこれからもするならば…次に会う時は……容赦しませんよ?」

(これ以上私が傷つけば、ベアトはきっと悲しむでしょうからね、きちんと策を練ってから臨むとしましょう…)


ワルギリアの姿は顕われた時とは逆に、徐々に闇にその姿を溶かしていった。

そして銀の魔女は戦場から完全に姿を消した。


遠くで戦況を見守っていた青き戦士も姿を消し、戦場には戦人たち6人が残された。



「ワルギリア…あの力は間違いねぇな、ファントムの幹部だ」
「青き戦士も言ってたけど、幹部たちとの戦いも近いってことか…」
「う〜、今日来たのは……顔見せ?」

ようやく戦いの緊張感を解いたうみねこセブンたちはそれぞれに思いを語り合う。

(顔見せ…いや、少し違う気がする)

譲治は思う、ワルギリアと怪物との会話は断片的にしか聞こえなかったが、スタンドプレーに走るあの怪物をワルギリアが連れ戻しに来たように見受けられた。ファントムの内部もいろいろとあるのかもしれない、と予想を巡らす。


「まぁ、どんな奴が相手でも、みんなの平和を守るために戦うだけさ!」

「戦人ぁ…なんかいい締め方な気はするけど、何も考えてないだけだろ?」

「そ、そんなことねぇって!」

皆で笑い健闘を称えるうみねこセブンの面々、しかしこれからの戦いは更に激しいものになるだろうと戦いの決意も新たにするのであった。



【エンディング】











「あっ!ワルギリア様!おかえりなさいです!」
「ただいま…おや?皆でティーパーティですか?ふふっ私も混ぜてくださいな」

ファントムの居城に帰還したワルギリアをシエスタ45が出迎える。


エヴァやシエスタはロノウェが用意したお茶を楽しんでいた(「幹部であるロノウェ様にそのようなこと!」と00は抵抗したが、流れで付き合うことになった)。ロノウェはすぐさまワルギリアの分のお茶も用意する。

「……マダム、その傷は?」
「少しぶつけましてね、たいしたことありませんよ。それよりベアトリーチェ様のご様子は?」
「…ぐっすりお休みになられてます、身体の方はもう大丈夫かと」

心配をかけたくなかったワルギリアは嘘を言い、そして別の話を振る。
ロノウェもそれ以上、詮索しなかったが、嘘がバレなかったというよりは、
ワルギリアの心情の方を察したようだった。


「ただいま〜、あ〜私にもお茶用意してくれる〜?」
しばらくしてガァプも帰還する。

「はいはい、少しお待ちくださいませ」

「ガァプ、お帰りなさい、お疲れ様でしたね」

「そうね、ちょっと疲れたわ…ゲリュオンの件、大丈夫だった?」
説得に応じてお帰り頂いたので、気に病むことありませんよ

さりげなく皆に気づかれぬように、ワルギリアとガァプが言葉を交わす。
ガァプは「そう」と安堵のため息を漏らし、ロノウェが用意した紅茶に口をつける。


しばらく、まったりとした時間が流れる。


「さてベアトリーチェ様は不在ですが、ファントムが誇る精鋭が集っていることですし、お茶が終わったら中止していた会議を開こうと思います」

ワルギリアが提案する。

「会議のお題は?」

エヴァが聞く、聞くまでもないと思いながらも。


「もちろん『うみねこセブン』についてです」


シエスタたちがぐいと紅茶を飲み干し、カップを置く。
ガァプ・ロノウェは一口飲んでから、カップを置く。
エヴァはもうカップを手に取ろうとはしなかった。

最後にワルギリアもカップを置いて皆を見回す。


「準備は良いようですね、では始めましょう」


《This story continues--Chapter 21.》



《 追加設定 》

『ルージュ・エル・ノワール』
レッドとブラックによるコンビネーション攻撃。銃弾の着弾タイミングに合わせてブラックによる剣技が同時に炸裂する。嘉音と仲良くなろうと戦人が「連携技の特訓をしようぜ!」と持ちかけたのがきっかけで編み出された。

『ハート・ブレイク・サイクロン』
ボクシングのコークスクリューブローに魔力付与を乗せたうみねこイエローの技。拳より放たれた闘気の渦を敵の心臓に叩きつけることにより相手の動きを止める、射程1〜2m。後日、録画映像を見た蔵臼が勝手に命名。

「魔獣ゲリュオン」
本国(幻想世界)の住人。獣の上半身と蝙蝠の翼、大蛇の下半身に蠍の尾を持つ。槍と大盾による近接攻撃を得意とし、力も相当強い。

【本国と地上の行き来について】
膨大な魔力を消費するため、かなりの実力者でなければおいそれと行き来することはできない。
現在は、ファントムに所属する者以外の往来は禁止されている(一部例外アリ)。

inserted by FC2 system