『今回予告』

私はマモン…煉獄の七姉妹…最後の…一人。
うみねこセブン……お前等が私の姉妹を一人残らず奪い去った!!
そう、これは正当なる復讐…みんな…みんな壊れちゃええええええええ!!!

あははははははは!!…あら?…アンタ誰?ふふ…そうかぁ…アンタが私の死神なのね…
誰だっていいわ!さっさとかかって来なさい!!青いヤツ!!


『六軒島戦隊 うみねこセブン』 第19話 七姉妹最後の戦い。マモンVS青き死神


【オープニング】


キャッスル・ファンタジアの地下会議室の椅子に一人座り込む少女が居た。
何時からなのだろうか。静かに…唯、静かに椅子に座り続けているだけ…
元から紅いその両の目は泣き腫らして一層紅く染まっている。
まるで血の涙でも流し続けたかの様に…。

栗色のストレートの髪の紅目の少女と言えばもう分かるだろう。
煉獄の七姉妹が最後の一人…強欲のマモンだ。


「煉獄の七姉妹も私で最後……みんな…みんなあのうみねこセブンの連中に敗れ去った…ルシ姉も…レヴィ姉も…サタン姉も…ベルフェ姉も…ベルゼもアスモも!!……だから…もう此処には……私以外誰も……誰も、………居ない…」


再びその両の瞳から涙が零れ落ちる。
何故?決まっている。悲しいからだ。


「…煉獄の七姉妹が五女……強欲の…マモン…あはは…私の強欲って…姉妹ではしゃぎあってただけのあんな下らない日々ですら欲していたって言うの…?悪魔の…ファントムが上級家具の…この……私が…そんな……う、ううぅうう……」


カタン…。

マモン以外誰も居ない筈の会議室の片隅から聞こえた物音にマモンはその音源を見る…。
それは………


「……うっふっふ……これって運命ってヤツかしら。…これで奴らを一人残らず葬れって事よね?……いいわ。私は悪魔。神の気まぐれではなく悪魔の誘いに乗ってあげるわ!うみねこセブンも……この世界も!!


私が全てコレでぶっ壊してやるッ!!」


涙ながらに見つけたソレを右手に掴んで決意を込めて叫ぶマモン。
ルーレットは回った。
七姉妹の最後の取りを務める事となったマモンの一世一代の狂気の戦いが。







けたたましく鳴り響く非常事態のアラートで遊園地地下の訓練場で訓練をしていたうみねこセブンの面々は一斉に出動準備に入る。


「くっそお!今何時だと思ってんだよファントムの奴ら!もうちょっとでシャワー浴びて帰宅って時間帯によぉ!」

「うー!睡眠不足はお肌に大敵なの!絶対に許せないね、朱志香お姉ちゃん!紗音お姉ちゃん!」

「「ええ、その通りです(だぜ)!!」」

「……女って良く分からないですね。譲治先輩」

「あははは…うん、良く分からないねぇ…(苦笑)」

「オペレータールームッ!霧江さん!ファントムの奴らは何処だ!?」

『今回の襲撃は山羊達も怪人も居ない単独よ。「ホイール・オブ・フォーチュン(Wheel of Fortune)」の頂上部の観覧車に居るわ。でも』


ドゴオオオオオオオン!!


基地内に居ても震度4クラスの揺れと耳をつんざく様な強大な爆発音。
セブンの面々に緊張が奔る。
その大破壊が今霧江が言い掛けたたった一人によって成されていると察したからだ。
直後に映像が付近にあったモニターに映り状況を確認する。


「あの服装は…煉獄の七姉妹の…」

「最後の一人だから…五女のマモンだね。でもあの力は…」


ドゴオオオオオオオン!!


再びの地震と轟音。
今度はモニターによって映像が見えていたから何が原因だったのかを見る事が出来た。


極太のレーザー砲を思わす大破壊魔法だ。
ゲームなんかで言えば宇宙戦艦の主砲による砲撃みたいなヤバさ!
いくら上級家具の七姉妹といえども連発で使えるものではない!!

だが…現実問題としてそれほどの破壊の光線を分単位のサイクルでマモンは次々と撃っているのだ。
放たれた光線の先は何人の生存をも許さぬ蒸発レベルの死の熱線の通り道。
今日が休園日でなければ間違いなく一射で数百からの死者が出ているであろうかつてない最悪の殲滅攻撃だ。


「な、何であんな攻撃魔法が連続で…ロノウェさまでもあんな真似は…」

「わ、私のシールドでも何処まで防げるか…」

「…おかしい。今日は休園日な上にこの時間帯だ。ファントムがいくら暴れてもスタッフすら居ないこの時間では逃げ惑う人々は居ない…これじゃあ唯の破壊活動…一体どういうつもりで…?」

「呆けたり冷静に分析してる場合じゃねぇよ兄貴達!!」

「うー!みんな急いで!!」


戦人と真里亞の一喝で我に返る譲治と紗音、嘉音。


「急ごう!一刻も早く奴を止めないと遊園地が灰燼に帰しちまうぜ!!」


急かされる様にしてうみねこセブンの面々は変身してから現場へと急行する。
だが、


ドゴオオオオオオオン!!


一際大きな轟音と共に崩落する通路の天井。
崩落に巻き込まれるホワイトとピンク。
ホワイトのシールドのお陰で最悪の事態は免れたが…完全に埋まった通路の一角に閉じ込められてしまっていた。


「姉さん!?くそ!!直ぐに瓦礫を撤去しないと!」

「うー!ピンクとホワイトは無事なの!当分の間は大丈夫だからみんなは早く現場に向かって!」

「そうは行くかよ!四人がかりならこの程度数分で直ぐに…」


ドゴオオオオオオオン!!


「その数分でどれだけ被害が増えるか分かったものじゃないよレッド!いいから行って!!」

「で、でも…」

「僕が此処で二人の救出作業を行います。それなら心配ないでしょう?」

「ブラック…。すまねぇ、二人は任せたぜ!!行くぞグリーン、イエロー!!」

「…頼んだよ。嘉音君」

「ええ。直ぐにでも姉さん達を助けて見せますからご安心を、グリーン」


二人の救出をブラックに任せてから再び地下通路を走り現場へと急行するレッド達。


ドゴオオオオオオオン!!


再びの至近距離での破壊音。
グリーンとイエローは崩落の懸念から身構えるが…レッドは立ち止まる事無く揺れる通路を駆け抜けていた。


それによってグリーンとイエローはレッドから出遅れる形となる。
ピンク達に託された思いを成さんと一秒でも早く現場に辿り着こうと言う強い意思からの恐怖心の払拭が有ったのだとは察したが……見ていた側としては冷や汗ものだ。
二人にはその強い鋼の意思がレッドの長所であると同時に短所でも有る危うい一面だと感じずにはいられなかった。









「さぁ!さぁ!さぁあああああぁあぁあ!!出て来いうみねこセブン!!早く出てこないと遊園地の全てが消し飛んじゃうわよ!!」


ドゴオオオオオオオン!!


再びの一射。
そしてすぐさま再チャージに入るマモンの右手に握られた銀色の宝玉。
それが、会議室でマモンが拾った禁断の試作兵器。【GEドライブ】と呼ばれる物だった。
Gはガァプの名から。Eはエネルギー。こう訳せばイメージは掴めるだろう。
ファントム側で独自にガァプシステムを開発し、そのシステムを宝玉内に内蔵させる事でエネルギータンクと直結させた魔法礼装…言わば魔力エネルギー炉付きの大破壊魔法補助礼装を作り出したのだ。

空間移動によって魔力エネルギーは宝玉内に納まる臨界まで充填され、それをマモンが任意に撃ち放つ。
正に手の平に納まる戦術兵器。
こと火力においては単独でエヴァやワルギリア達上級幹部の魔女に匹敵するかそれ以上と言うレベルにまでその力は底上げされていた。


破壊される数々の施設…
炎に包まれる木々や草花…
この世の終わりを思わせるほど高々と天をも焦がす黒煙
今のマモンにはその全てが至上なる賛美歌。
破壊に彩られた紅の大地にマモンは酔いしれていた。


「ルシ姉…レヴィ姉…サタン姉…燃え盛る大地はキレイでしょ?何処かで見てくれてる?一緒に見ようよ…ねぇ?」


涙ながらに…此処には居ない姉妹達への哀歌の様に呟くマモン。


ドゴオオオオオオオン!!


新たな一射。
今度は射角が悪かったのかキャッスルファンタジアの側壁の一部をも貫き焼き焦がした。


「ベルフェ姉…ベルゼ…アスモ…ほら?私達のお城も燃えちゃうよ?早く消しに来ないと大変だよ?…ねぇ?」


尚も此処には居ない姉妹達へ呟くマモン。
明らかに壊れている。
何故?そんな事は決まっている。
七人も居た姉妹でたった一人だけ取り残されたのだ。
会議室で泣き崩れていた時点でとっくにまともな思考は残っていなかったのだ。


「な…何と言う事を、気でも触れましたかマモン!?今すぐにお止めなさい!!って、きゃあああ!!」

「マダムッ!チィイッ!!」


マモンの次なる一射はキャッスル・ファンタジア上層階のバルコニーから制止を呼び掛けたワルギリアへの直撃コース。
瞬時に割って入ったロノウェの双剣が光線を斬り裂かなければワルギリアと言えども危ない状況だった。


「グッ。大した威力ですねぇ…少々火傷を負いましたか…」

「た、助かりました。ありがとうロノウェ。それにしても…マモンはどうやら本当に正気を欠いている様ですね…」

「リーア、世の中に孤独ほど恐ろしいものは無いわ。ニンゲンでも…私達でもね。もうじきうみねこセブンの連中が現れるわ。それでそっちに攻撃が集中する筈よ。だから私達はその結果を静観するのが今は上策ね」


驚きを隠せないワルギリアの隣に空間移動でいきなり現れたガァプがその答えをもの悲しげに言い捨てる。


「さて…うみねこセブンの面々が来るにしても…その後はどうしたものでしょうかねぇ…」

「どの道あの子も後が有りません。これだけ派手に始めてしまっては本国の連中にも誤魔化しは利かない。…なら、ガァプの言う通り、彼等に任せるのが一番でしょう」


ファントムの上級幹部の面々は城内に戻って直撃にも耐えられるだけの強力な結界を三人掛かりで張って成り行きを見守る事に決める。
これまで通りであれば…例えマモンが敗れても保護してくれるだろうとの判断からだった。

……この時、ファントムの幹部団もマモンの豹変で少なからず気が動転していた。
だから…致命的なミスを犯した事にはまだ気付いてはいなかった。

これだけ派手に砲撃を繰り返して被害を撒き散らしているマモンの破壊光線の射線の先をうみねこセブン基地がモニターしていない筈が無かった事に…。
あれ程の高威力の破壊光線の射線上で突然斬り裂かれた光線が有った事が如何なる意味を持つのか…それに気付かぬ訳が無い事に…。





【アイキャッチ】





破壊の化身と化したマモンの前に一人の人影が現れる。
ようやくの敵の登場に心を躍らせ宝玉を構えるマモン。
だが、それは期待していたうみねこセブンのメンバーではなかった。
観覧車の前に歩み寄るのは赤い髪の少女。
その少女は堂々と遥か上の観覧車に陣取るマモンへと睨みを利かせる。
マモンは少々驚く。その赤い髪の少女は変身していなかったのだ。
視線から来る威圧感は常人とは言い難いが…それでも見た目は唯の人間…。
まさかこの状況で一般人が紛れ込んでしまったのか?

流石に少し思案に耽ってしまったマモンだったが…次の瞬間にその疑問は解消された。


「コアパワーチャージオン。チェンジブルー!!」


今まで戦って来たどのメンバーとも違う青き輝きに包まれてその赤い髪の少女が変身したからだ。


「……へぇ。正体見たり…って事になるんだけど…良いのかしら?」

「構わないわ。どうせ貴女は此処で私に殺されるんだから」

「上等ッ!!」


ドゴオオオオオオオン!!


観覧車からほぼ直下気味に光線を撃ち放つマモン。
青い戦士はその一射の光に飲み込まれ消滅したかに見えた。


「…やるわね」


マモンの感嘆の声が夜空に響く。
青き戦士は多少の火傷を負いつつも…その両の手に構えた双剣で光線を斬り裂き殆どの威力を防いで見せていたのだ。


「完成版の【GEドライブ】には随分と苦戦したわ。だから…試作品程度の威力ならこの【幻影の双剣】だけでもどうにかなるわよ」

「【GEドライブ】を知っている?それに完成版??」

「呆けてる間はないわよ!今度はこっちの番!たあああああ!!」


高所からの射撃による優位性を確保していたマモンは青き戦士のその予想外の機動力に驚きと共に舌打ちする。
観覧車の骨組みのパイプを駆け上がる様にして青き戦士は僅か数秒でその高所の中程まで駆け昇って来ていたからだ。

【GEドライブ】の再チャージはまだ半分以下、到底間に合わない!
止む無く中途半端な威力の破壊光線で迎撃しようと【GEドライブ】の宝玉を構えるマモン。


ガシャン!


構えた宝玉が手の中で砕け散ると同時に右手の甲に激しい痛みを覚えるマモン。
青き戦士が駆け昇りながら瞬時に右手の剣を銃に持ち替えて撃った銃撃によって構えていた宝玉が撃ち壊されたのだと察したのはその右手の甲に穿たれた穴から大量の血が吹き出した事に気付いてからだった。


「うっ!ああああ!!?」


激痛のあまり撃たれた右手を左手で庇う様に押さえるマモンだったがそれは致命的な判断ミスだった。
その間にも接近を続けていた青き戦士はその頃には既にマモンの目前にまで到達し


ザシュッ!!


マモンの腹部に左手に構えた剣を容赦無く突き込んでいた。


ザシュッ!!


右手の銃も瞬時に剣に持ち替えて更にもう一本の剣がマモンの腹部を抉る。
突き込まれたマモンの背中からその都度、刃先が生える様に飛び出す。
呻き声を上げて吐血するマモン。
その痛ましい姿を意にも介さずに突き刺した勢いそのままに高々とマモンを掲げ上げて串刺しにする青き戦士。
自重で双剣が更に深くマモンの腹部を抉り込み、声無き悲鳴を上げるマモン。
だが…それでも悪夢は終わらない。

青き戦士は

そのままゴミでも投げ捨てるかの様に双剣を横に振るって観覧車の高所からマモンを眼下の大地へと振るい落としたのだ。


自身の腹部を貫いていた双剣が振るわれた勢いで抜けて無常にも大空に投げ出されて重力の法則に捉われるマモン。
優位性を得ていた高所が裏目に出たなぁ…とマモンは達観した様に悟る。

いつもの様に空を飛ぶと言う選択肢は二つの理由によって不可能だった。
それは何か?
理由の一つは殆どの魔力を今の串刺しで失っていたからだ。唯の双剣ではなく幻想否定の強力な概念武装でもエンチャットされていたらしく青き戦士の操る双剣で突き刺された傷口からは凄まじい勢いで魔力と自らを構成する『幻想』が奪われていたのだ。

そしてもう一つの理由は…最悪だ。投げ落とした青き戦士が落下していく自分に向かって銃を構えているから…だ。「大人しく地べたへ墜ちて死ね、さもなくば脳天を吹き飛ばす」仮面越しでも分かるほど異様な殺意に満ちた狂気の視線。
しかも…その銃にチャージされていた力は見覚えの有る蒼き輝きの弾丸。
恐らくはうみねこレッドの『蒼き幻想砕き(ブルーファントム・ブレイカー)』と同種のもの。その身が例え万全で有ったとしても到底防げるとは思えない。


不覚にも…その恐ろしい魔眼の如き暗き双眸から発せられる絶対なる殺意に、マモンはその「死ね」という命令に屈服し、逆らえなかった。
それはまるで百獣の王の至上命令。そんなものに逆らうだけの気概はもう無かった。
いや、無かったと言うよりは…それは三つ目の理由に当たるのだろう。




容赦なく加速しながら大地へと無防備に落下していくマモン。
その脳裏に浮かぶのは……姉妹達との何でもない日常のドタバタ騒ぎ。
人と何も変わらない。今わの際の走馬灯だった。
浮かぶ涙。浮かぶ安堵感。そう、この落下は七姉妹の中で唯一人遺された自らの真の願いの具現。




「ああ…傑作だわ。…私…唯単に……死にたかったんだ。













……みんな…今…私も…」


















バフッ!…ビリビリビリ!!…


…ドシャッ!!!


大地に打ち付けられて二目と見れない姿の死に様を晒す覚悟をしていたマモンは強運にも近くに有った「ウエスタンヒーローズ」のアトラクションの馬車のテントの上に落下した。


ダメージ無しとは到底言えないが…全身を酷く打ち付けながらも辛うじてその命を繋ぎ止める事には成功していた。


「………う……ぅぅう……ゲホッ…わたし……まだ、生きてる…の…?…あはは…ラッキー………かなぁ…でも…これじゃあ……みんなのところに………あ…」


だが、その強運に救われたのも束の間。
マモンにとっての死神。青き戦士は辛うじて命を繋いだ息も絶え絶えなマモンにさえも容赦なく追撃を敢行し、腹部の重傷に加えて全身打撲により完全に動けないマモンに最期の止めを刺しに現れていたのだ。


「…ゴホ!容赦無しね…奇跡の生還に…思うところは…無いわけ…アンタ?」

「ゴキブリのしぶとさに何を感動すると言うの?鬱陶しいだけでしょう?だから…これは唯の害虫駆除なの。さっさと死になさいファントム」


吐き捨てる様に辛辣な処断の言葉を告げる青き戦士。
その双剣が月夜に映えながらマモンへと振り下ろされ


「止めろオオォ!!」


マモンを斬り裂こうとしたその直前。青き戦士とマモンの間に蒼い閃光が突き抜ける。
うみねこレッドが動きを制する為に放った『蒼き幻想砕き(ブルーファントム・ブレイカー)』だ。


「誰だか知らねぇがそこまでにしろ!マモンは、そいつはもうどう見ても戦闘不能だ!止めを刺す必要はねぇだろ!?」


アトラクションの馬車内と言う事もあって見通しが悪かった室内に月明かりが差し、青き戦士の全身の姿が駆け付けた戦人の目に飛び込む。


「え…?お、俺達と同じ…?いや…色が青って事は……新たな戦士??」


青き戦士の姿に戸惑いを隠せないうみねこレッド。
新たに加わったホワイトでもブラックでもない。
全くの未知の七人目だったからだ。
困惑するレッドに対して冷徹なまでのクールな口調で青き戦士はレッドへと語りかける。


「………コイツは敵よ。敵に遠慮や躊躇は要らないわ。殺せる時に殺さなきゃ駄目なのよ」

「なっ!??」


あまりにも平然と『殺す』と言う言葉を言い放ったその青き戦士に驚きを隠せないレッド。
機械的な印象さえも受けるが「はい、そうですか」と引き下がればこいつは間違いなく瀕死のマモンに止めを刺す。ルシファー達の為にも…何とかして留め置かないとヤバイ!

マモンの処遇を巡って睨み合いを始める二人。
緊張感で言えば完全に敵対者との対峙だ。
レッドはその姿からセブンの仲間じゃないかと思ったが…とてもそんな会話が交わせる状況ではない。
…それでも何とか説得を試みようとレッドは意を決して青き戦士に語りかける。


「なぁ…その子の姉妹達から頼まれているんだよ。マモンを殺さないでくれって…。助けてやってくれってさ…」

「姉妹?ああ、煉獄の七姉妹のルシファー達の事ね。…そう言えばみんなしぶとく生き長らえてるんだったかしら?」

「なっ!??」


レッドは再び驚く。
何故それを知っているのか!?
うみねこセブンの…今までの俺達の戦いも知っている?!
コイツは…一体何者なんだ!!??

…いや、待て。全てを知った上で…その上でマモンを此処まで残酷に容赦無く殺そうとしているってのか?!待っている姉妹が居ると知った上で?!


「…てめぇッ…!」


人としての血が通っているのかさえ疑問に思えてきた青き戦士に対して怒りを抱き始めるレッド。
一触即発な状況に傾きつつ有ったが…そこへようやくグリーンとイエローが到着した。

二人もまた青き戦士の姿に驚いたが…レッドとの間の只ならぬ雰囲気を察してマモンの処遇についての会話を最優先させた。
二人はそれまでの行動や会話を聞いていなかった為、何とか青き戦士に先入観を持たずに説得を開始できた。


「ねぇ君。戦闘不能の相手に止めを刺す行為はどの様な状況でも許される行為じゃないよ。そんな戦いは憎しみしか生まない。その子には二度と悪い事はさせない。だからもう許して上げてくれないかい?」

「今回の暴走はちょっととんでもなかったけどよ…姉妹が殺されたって思って憤ってたんだからしょうがない点も有るぜ。だから痛み分けって事でさ…」


出来るだけ刺激しない様にやんわりとした口調で話すグリーンとイエロー。
その二人の態度に思う所が有ったのか…深く溜息を吐いてから双剣を仕舞う青き戦士。


「七姉妹の次はいよいよ魔女達幹部団との対決よ…。そんな甘い考えでは…奴等には絶対勝てない」

「なっ!?」

「ッ!イエロー!!」


呆れた様に言い放った青き戦士に掴み掛かりそうになったイエローを制するグリーン。
その場に居合わせたレッド、グリーン、イエローの全員の心証を悪くしたと察した青き戦士は早々にその場を去ろうとした。


「待て!お前は…一体何者なんだ!!?その姿はコアによって変身した姿なんじゃないのか?!」

「私は…有り得ない筈の七番目のジョーカーよ。決戦の時が近付きつつある今がカードを切るには頃合い。…近い内にまた会いましょう、シーユーアゲイン。ハバナイスデイ」

「なっ!?消えた!!?」


一瞬にして視界から消える青い戦士。
レッドとグリーンは驚愕の表情だったがイエローは遥か遠くに視線を向ける。


「いや、凄い速さで跳躍したんだよ。私はこの【イエロー・アイ】のお陰で何とかずっと向こうの建物に着地したのが見えたけど…あんなヤバイ武器を持ってた七姉妹の一人を単独で破った事からも私達より戦い慣れてるって感じだぜ」

「コアの扱いも…かよ。でも、じっちゃんが持ってたコアは全部で六個。ブラックので最後だった筈だぜ!?まさか俺達よりも先に……って、そうだ!考え事してる場合じゃねぇ!アイツにやられたマモンの容態は!?」

「…まだ未熟な医学生としての半端な知識からだけど…それでも分かるほど極めて危険な状態だね。高所からの落下による全身打撲に…複雑骨折も幾つか有る。それに…腹部の傷の出血から見ても重要な臓器もかなり深く傷付いてると思う。並の人間ならとっくに死んでるだろうし医者も匙を投げるレベルだよ」

「傷か…でもそれならホワイトの魔法が有れば…」

「それだけじゃないんだ!何か特殊な武器によって存在そのものも消えかけてるんだ!これは多分ホワイトの『ヒーリング・ウインド』でも癒せない!」

「くそ!俺達だけじゃどうにもならねぇ大怪我って事かよ!!こうなったら南條先生に頼るしかねぇ!!」

「こちらイエロー!オペレータールーム!!急いで南條先生を現場に!!大暴れしてた奴が瀕死の重体なんだ!直ぐに来て!!」

「…此処まで酷いと包帯を巻いて失血を抑えるぐらいしか出来ない…これじゃあ医学知識なんて何の役にも立たないじゃないか!!…駄目だ、こんな時こそ冷静に……。よし!イエロー!ブラックの救出作業を手伝って少しでも早くホワイト達を此処へ連れて来て!!」

「え?!どう言う事?!さっきホワイトでも駄目だって…」

「完全に癒す事は出来なくても二人は傷を癒す魔法や防御魔法に優れている。何か応用出来る方法や処置が有るかも知れない!動かなきゃ駄目だ!焼け石に水でも無駄でも何でもいい!南條先生達が到着するより早く何かは出来る筈だ!!」

「わ、分かった!ブラックも頑張ってる筈だから直ぐにでも連れて来るよ!!」

「俺も行くぜ!こうなったら唯の力仕事。瓦礫の撤去ならちょっとでも足しにはなる筈だ!!」

「よし。それともう一手。オペレーター!南條先生が手配する手術室に七姉妹の他の子達を直ぐに呼んで集めて!ファントムの彼女に人間と全く同じ処置や施術は不安だ!輸血面を考えても呼んでおいて損は無い!!」


冷静さを取り戻し、的確に現場で出来る限りのあらゆる最善手を尽くすグリーン。
イエローに協力してホワイト達の救出に向かいながらレッドは言い知れない感情を覚えていた。


(青い戦士……確かに命懸けで戦っている以上、お前の言い分は否定出来ないのかも知れない。…だが、俺は……殺す事に躊躇が無いお前を赦せそうにねぇ!!)








【アイキャッチ】





「………此処は…?」


見慣れない天井の病室で目覚めたマモンは周囲を見渡す。
すると、弾かれた様に賑やかな声が一斉にベッドの枕元や足元から響いてくる。


「ルシ姉!マモンが気が付いたよ!!うわあああん!良かったああああぁあ!!」

「まったく!無茶するんだからもう!どれだけ心配したと思ってるの!!?」

「ふむ。剥き終わったリンゴはようやくお前の口に入るらしいな。今日までの分は全てベルゼに片して貰っていたから少々空しくなりかけていた所だ」

「私は郷田と南條を呼んでくるわ!マモンの食事と夜食用の付き添いを作って貰わないと!!」

「『マモンの食事と付き添い用の夜食』。でしょ…ベルゼ姉。…それじゃあ食事夜食が優先じゃない(汗)」

「こんな時まで食欲魔神を発揮するなこの愚妹!!」

「…あはは、………みんなが居るって事は………此処は天国?いや、煉獄なのかな?…良かった。わたし…またみんなと一緒に…居られるんだね…」


重傷からの寝起きで少々混乱気味のマモンであったが他の六姉妹と南條と共に現れた彼等からの説明を受けて少しずつ状況を把握する。

あの戦いから一週間が経過していた事。
他の姉妹達はうみねこセブンに殺された訳では無く保護されていた事。
何人かの姉妹が戦いの過程で力を失って人間になっていた事。
自分の瀕死の重体を癒す為に魔力が残っていた姉妹達もその全てを使い果たして人間となった事。

そして…自分もまた一命は取り留めたものの唯の人間となっている事を…。


「…みんなが無事だった事は凄く嬉しいけど…もう、ファントムには戻れないわね…」

「そうね。うみねこセブンのこの連中にも大きな借りが出来た訳だし…魔力を失って唯の人間になった今、無理矢理敵対しようとまで憎める相手では無いわ」

「おいおい、大きな借りとか言ってる割には『この連中』ってのはヒデェんじゃねぇか?」

「ふん。恩着せがましいのは減点ね、右代宮戦人。ファントムの宿敵うみねこセブンの面々の大半がまさか右代宮の、「Ushiromiya Fantasyland」の経営陣の子供達だったなんて…」

「結果的にとは言えこっちの全容は基地まで含めて把握したんだ。ファントムの基地についても教えてくれても良いんじゃねぇか?」

「…我等は確かにお前達に敗れ恩も受けた。…だが…これまで共に有った仲間達を裏切る真似は出来ない…。すまないが…」

「…いや。お前等が仲間を大事に思ってるって分かった以上、その思いを踏み躙る真似は出来ねぇよ」

「……そうだね戦人君」

「?何か顔色悪くねぇか譲治兄貴?」

「…いや、そんな事は無いよ…」

「ありがとう戦人。もちろん代わりにお前達の情報も一切ファントムに伝えたりはしないつもりだ。交換条件としては少々卑怯かも知れないが…」

「そんな事はねぇぜ。バレちまったのは譲治兄さんのミスも有るんだしさ」

「手厳しいね、朱志香ちゃん…」

「譲治先輩は悪く有りません!最善手を尽くす上では仕方が無かったんです!!」

「良いんだよ紗音ちゃん。でも、みんなには悪いけど僕はこの判断を後悔はしていないよ。それがこの結果に繋がったのだと信じているからね」


うみねこセブンのメンバー全員の正体が完全にバレた経緯の詳細はこうである。
これまでの戦闘では変身前の姿を彼女達に晒す事は無かったが、今回は勝手が違っていた。
マモンの手術は秒を争う深刻な容態だった為、駆け付けた南條による手術はうみねこセブン基地内の手術室が使われる事となったのだ。
当然、譲治がオペレーターに依頼して呼び出された六姉妹はその基地内に招かれる事となり…施設の全貌と共に変身を解いて医学に関わる者としてマモンの処置に参加していた譲治を目撃する事となったのだ。

譲治は医学に携わる者の卵として真摯であり誠実だった。
故に、マモンの容態を説明する上で交戦の経緯までをも自分の知り得る限りで六姉妹に詳細に伝えたのだ。

魔力の使い過ぎによって体調の異常が出る事は無いか?
持ち出されたあの武器が身体に何かしらの影響を与える事は無いか?
ピンクやホワイトの魔法を一時的な処置として用いたのがファントムの者にとってマイナスとなる事は無いか?

その具体的過ぎる質問の内容は自身がうみねこセブンの一員で有る事を証明するには充分なものだった。
尤も、それだけ事細かく聞き込んだ成果によってマモンへの施術は極めて短時間で適切に行われ、今日の目覚めに繋がった事は間違い無かった。





目覚めたマモンを加えて軽く歓談の後、負担を掛け過ぎまいとの配慮から戦人達は病室を後にして帰路に着いた。

こうして、病室に残されたのは七姉妹達だけとなった。


「…ふぅ。結局…こうして普通に出会えば何でも無く話せる相手…と言う事ね」

「それがニンゲンでも…かぁ。私…何で戦ってたのか今はもう分かんなくなっちゃった…」

「我等姉妹が一人も欠けなかったのは一重に彼等の温情だ。人の心が私達を生かした。…皮肉でも有るが…これもまた運命だろう」

「人の心…か。今はもう私達も同じ人なのよね…。空を飛べないのはちょっと残念…。それに、本格的に食い扶持も確保しなきゃ駄目よねやっぱり…」

「ルシ姉やベルゼはコンビニや郷田のレストランで手伝いをしているらしいが…一時凌ぎだからな…。新たにマモンを加えて人間として生活して行く以上、これからのそれぞれの身の振り方を真剣に考えなくては…」

「は〜い皆さん、お夜食ですよ〜♪」


これからについて思案し始めていた七姉妹達の間に美味しそうな夜食を持って来た郷田が病室に入って来た。
ベルゼを筆頭に早速頬張り始める七人。

「ああ!サイッコーだわこのサンドイッチ!!」

「夜食…。これからは特に太る心配が有るから気を付けないと…」

「そお?七姉妹が全員私と同じ暴食になるのも楽しそうじゃな〜い♪」

「うわああん!そんなの絶対イヤ〜〜〜!」

「エンゲルが100を振り切るわよ!食い扶持話をちゃんと聞いてたの!?」

「馬車馬の様に働かねばならん意味では怠惰な私は流石に廃業だろうな…(汗)。うん?…これは普段の賄いとは少々味付けが違う様だが…?」

「おや、流石はベルフェさん、気付きましたか。今お持ち致しましたのは今度『Ushiromiya Fantasyland』の近くにオープンする喫茶店向けのメニューなんですよ。喫茶店としてですので普段より味付けを調整してあるんです」

「…『Ushiromiya Fantasyland』……この病室の直ぐ上よね?…私が随分と壊してしまったけど…大丈夫なのかしら……」


マモンの脳裏には自分が巻き起こした大破壊が思い出されていた。
あの時は半狂乱だったが…そう都合よく忘れられるものではなく…自分が行った狂気に満ちた破壊の惨状を思い出し身震いするマモン。


「大丈夫ですよマモンさん。あの遊園地はオーナーの金蔵様が維持に尽力しておられますので既にこの一週間で復旧もかなり進んでいます。幾つかのアトラクション以外は明日から再開出来るそうですよ」

「…ねぇ郷田。さっきの新店舗の喫茶店の話なんだけど…スタッフとか募集してないの?」

「ベルゼ?」

「なるほどな。新たに建つ店がこの遊園地の近場なら、盛り上げれば遊園地の賑わいにも繋がるかも知れない…か。マモンの大暴れのツケを払う意味でも我等の雇用先を探す意味でも一石二鳥だな」

「え〜と………これがその新店舗の求人になるのですが……シェフは既に揃っているのでウェイトレスとしてのオープニングスタッフで募集人数は7名ですね」

「ん〜〜♪いいわねぇ!男じゃないけど運命的な巡り合わせを感じるわ!!」

「ちょ、ちょっと待て!募集要項に『メイド経験者大歓迎』とか有るぞ!?メイド服着るのか??!何か怪しいぞこの店!?」

「ルシ姉空気読んでよ〜。私達ってファントムの制服でそう言うのは耐性有るでしょ?メイド服ぐらい問題ないわよ」

「…くっ…確かに否定は出来ない…(汗)」

「まぁ服装はさておき、メイド経験とは少々異なるが我等の家具としてのキャリアは充分に通用するだろう。郷田、マモンはまだ動けないだろうから予約として七人で応募をかけておきたいのだが…可能だろうか?」

「わかりました。その辺りについては問題有りませんよ。募集開始は明後日からの予定でしたし私もメニューの件等も含めて開店に向けての主要メンバーの一人となっていますから。ウェイトレスの面接官も頼まれておりましたので皆様が良いと言うので有れば姉妹全員で採用してもらえる様に口添え致しましょう」


わぁっと歓声が上がる病室内。
こうして七姉妹は全員が人としての生活の場を得てファントムからは離脱し、新たな生き方を選んで行く事となったのであった。








「ねぇゼパル。ステージ前は超満員の人だかり!今日は一体何の日だい?」

「知らないのかいフルフル?今日はとっても嬉しい日!謎の事故で壊れた遊園地の全てのアトラクションが完全復活する日だよ!」

「そうだったねゼパル!だから今日はいつにも増してのお祭り騒ぎ!!」

「大人も子供のおおはしゃぎ!!」

「「そう、」」

「「今日は遊園地の復活祭よッ!!」」


二人の司会者の進行の下、ステージではお祝いの為の特別イベントが開催され大歓声と共に大盛り上がりだ。
長期に及べば及ぶほどその被害が世間に露呈する事への懸念から凄まじい速さで修復された遊園地は今では完全に元通りの姿に戻っていた。


「今回の復旧…。少しばかり無茶だったんじゃないのかい…金蔵さん」

「……南條よ。遊園地とはどの様な場所だ?」

「どの様な?ふぅむ…先程ステージの司会者が挨拶で言っておりましたが、『大人も子供も等しく楽しくなれる場所』…ですかな?」

「その様な素晴らしき場が長らく瓦礫の山ではまずかろう?…此処は人々に夢を与える場なのだからな」

「なるほど。これもまた金蔵さんなりのファントムとの戦い方…と言う訳ですな?」

「……それと…急がなければ危険だと…少々胸騒ぎも有ったのだがな…」

「は?」

「…いや。何でもない。さぁ南條よ、我等もこの復活祭を楽しもうぞ!」


遊園地は元に戻っても何か大きな転機の時が確実に近付きつつある。
うみねこセブンの司令官、右代宮金蔵は長年の生き様からか何故かそう感じずには居られなかった。




その頃…
イベントで賑わう遊園地から少し離れた商店街の某喫茶店では…


「お帰りなさいませ〜♪」


美味しい料理に可愛いメイド服なウェイトレスが七人。しかも何れも個性的な姉妹とくれば話題性も有り開店以来喫茶店は毎日が大盛況だ。


「いっひっひ。遊園地のイベントも面白そうだけどよ、まずはこっちに来て正解だったろぉ兄貴ィ?」

「ば…戦人君…確かにケーキもデザートも美味しい店だけど…その」


遊園地のイベントに向かう途中、戦人に捕まり昼食を一緒に摂る事になった譲治は店内の独特な雰囲気に完全に呑まれていた。
何となく物腰や口調の柔らかさから紗音を思い出してしまい「こんな格好でこんな風に呼ばれたら…」等と思考が完全に危険な方向へと堕ちている。
元煉獄の七姉妹達はやはり人になっても人を堕落させる悪魔チックな魅力を持つ様だ(苦笑)


「お〜い、末っ子姉ちゃん、追加頼みてぇんだが」

「あら?また来てたのぉ?戦人くぅん」

「ちゃぁんとお前らが働いてるか視察だよシ・サ・ツ。そんな訳で今日は譲治の兄貴も一緒だぜ」

「…嘘だってツッコんだら僕の形勢が更に不利になるんだろうね…」

「すっかり常連客ねぇ…。折角だからルシ姉呼んだ方が良いかしら?」

「いやぁ、別に俺はお前ら姉妹なら誰だって眼福だぜぇ。ツインテールが今日も可愛いぜぇアスモちゃん」

「ふふ、ありがと。それにしても…ルシ姉可哀想〜。ま、この男らしいけどね」

「お帰りなさいませ〜♪二名様ですか?」

「出来れば奥の方の席で…て……ヒュウ。運命ってヤツですかねぇ、こりゃあ」

「どうしたの天く…ッ!アイツはッ…それに兄…!?…と、危ない危ない…」

「?どうかなさいましたか?お嬢様?」

「な、何でも無いわ。…偶然とは言え間が悪過ぎる……出ましょう天草」

「あらぁ、もう帰っちゃうんですかぁ?当店自慢のデザートぐらい召し上がって欲しいものですが…青のお嬢様ぁ」

「ッツ!?」

「入って来たお客様をお席へ誘導するのはウェイトレスの当然の心得。こそこそと逃げ帰ろうとしても無駄ですよぉ。うふふ♪」

「……チッ。あれだけの重体がもうその程度まで癒えて社会復帰って訳?これだからゴキブリは嫌いなのよ…」

「お食事処でGの名を出すなど宜しくありませんわよ?それに此処まで早く傷が癒えたのは姉妹の絆の奇跡です。まぁそれは置いといて。ささ、ご主人様もどうぞ〜♪」

「ヒャハ。やっぱりたまにはこう呼ばれるのもいいもんですねぇ〜。…って本当にどうしやした、お嬢?」


栗色の髪のウェイトレスに促されるままに奥の席に座る天草と呼ばれた青年。
そんな彼を置いて行く訳にも行かずそれを追うお嬢と呼ばれた赤い髪の少女。


…迂闊だった。
うみねこセブンの面々との初の邂逅でファントムへの怒りを爆発させてしまってこの所イラついていた私を元気付けるつもりだったらしく、この天草と言う護衛が食事に誘って来た訳だったのだけど…寄りにもよってこんな事になろうとは!?

渋々と席に着いた少女の横で注文を取る訳でもなく値踏みする様に見つめ続けるウェイトレス。


「………何か用?」

「い〜〜〜〜〜え。特に御用では無いですよぉ。青のお嬢様」


あからさまにシラを切る右手に包帯を巻いた栗色の髪の紅目のウェイトレス、マモン。
そう。赤い髪の少女はマモンに変身前の姿を晒してしまっていたのだ。
名も明かしていないから余程の偶然で出会わなければ問題は無いと判断していた少女だったが……何の因果か見事にエンカウントしてしまったと言う笑い話だった。


「あーーー……さっきからずっと凄ぇご立腹みたいですが…何かやらかしちまいやしたか、俺?」

「ええ、やらかしたわ。路地裏で袋叩きにしてしまいたいぐらいの大失態をね!」

「おーこわっ。彼氏でも容赦なくバッサバッサとあの剣で斬り捨てちゃうんですねぇ、私みたいに」

「…納得しやした。この娘に正体がバレちまってたんですね?」

「……まぁね。あと彼氏って所はちゃんと否定しなさい。……それで、要求は何?まずは聞いておいてあげるわよ。…まぁ少しでも舐めた内容だったら明日の朝日…いえ、今日の夕日も拝めない事になるけどね?」


ジロリとマモンを睨み付ける少女。
その形相は明らかに敵を見る目であり返答次第では本当にマモンを殺すかどうかを吟味する審判を下す瞳だった。


「凄い殺気…背筋がゾクゾクするわ。…やっぱり恐ろしい人ねぇ。でも、だからこそ貴女の事は気に入ったのよ」

「……はぁ?気に入った??」

「その全てを憎むような瞳の奥に微かに見える純粋なる欲求。『どんな事をしてでも手に入れたい』、『どれほどの地獄を潜り抜けてでも取り戻したい』。そんな手に入らないものを永遠に追い求め続ける様な『純粋なる強欲』が貴女からは感じられるわ。強欲を司った元悪魔としては最ッ高に私の好みッッ!!」

「…歪ね。で、私を気に入ったのは分かったけど、それでどうするつもりなの?」


「私の主になりなさい!」


唐突に喫茶店内中に響き渡る大声を張り上げてトンデモな要求を躊躇無くぶつけて来たマモン。
話の流れから行って小声でコッソリと打ち合わす様な流れを想定していた少女と天草は慌てる。
次の二の句が更に危険な発言を…喫茶店内の客やスタッフに正体がバレかねない事を口走られる恐れが有ったからだ。
既に何事かと戦人や譲治を含めた周囲の客やスタッフの注目が集まり強引にマモンを黙らせるのは難しくなっている。

マモンの表情が先程までの少女の瞳と良い勝負なまでの極上の悪笑いで輝いていた。
赤い髪の少女は策に嵌ったと察したが時既に遅しである。
要求への答えを遅らせて次の発言を許せば正体がバレるかも知れない!だが要求を拒否してもそれは同じと考えると呑むしかない…が、しかしそれは…!
そんな焦りの思考中でさえも時間は流れる。
タイムオーバーだとでも言いたげにニヤリと口端を釣り上げてから息を大きく吸い込むマモン。

「貴女に敗「わ、分かったから!主になるから黙りなさい!!」


マモンの叫びを妨害する為により一層の大声で主宣言をする事になった少女。
周囲からはどよめきと歓声、すっ転ぶ姉妹数人やらで騒然だ。


「…お嬢。俺とは遊びだったんですね?」

「天草あああぁああ!事の詳細は知ってるんだから悪ノリすんな!!」

「おいおい…接客でそこまでやってんのかよお前ら…?」

「流石に風営法に引っ掛かるんじゃないかなぁ…ははは」

「ち、違う!アレは愚妹の暴走で…ってマモン!アンタ何お客様に迷惑掛けてるの!?ちゃんと普通に仕事しなさいよ!!」

「うわあああぁん!不潔よ、マモン!いきなりお客様の家具になるなんて〜!」

「レヴィ姉うっさい!騒いでないで早く3番テーブルにメニュー取りに行きなさいよ!!」

「3番テーブルの担当はサタン姉だぞ?」

「………あ」

「「あ、じゃない!とっとと行け!!」」

「あら、今来た6番テーブルのお客さん中々良い男よね〜。私が行くわ」

「店長〜。ショートケーキが一個足らないらしいから急いで用意して〜。…うん、クリームが良い味ね♪

「バレバレですよ。ベルゼさん減給っと♪」


結局賑やかな店内の勢いに呑まれてあれだけ騒いでも未だ放置状態で済むマモン達三人。
その隙を衝いてまだまだと言った様子で主となった少女に食い付き続けるマモン。


「さぁて、それじゃあ私のご主人様のお名前を教えてもらっても良いかしら?」

「く…誰がアンタなんかの…」

「もう一度叫んでもいいんですよぉ?」

「……グレーテルよ」

「ふぅん。グレーテル様かぁ…。ねぇ天草ってお兄さん。グレーテル様の本名はなんなの?」

「ちょっ!?納得しなさいよアンタ!!」


赤い髪の少女がグレーテルと名乗ったにも関わらず何とか本名を聞きだそうと強欲に知っているであろう天草に詰め寄り始めるマモン。
流石に再三に渡って客に言い寄り続けるマモンに業を煮やして止めに入ったルシファー達とのドタバタを展開しつつ…何とか30分後には食事を終えて無事に喫茶店を後にしたグレーテルと天草。

結局マモンは『週に一度は喫茶店に顔を出さなければバラす』。『私の身に何か有れば今日の騒ぎで足が付くわよ』と脅しに入りグレーテルに主としての誓約を誓わさせると言う強欲なる大戦果を上げて交渉を終結させていたのであった。




「騒がしい喫茶店だったねぇ…何時もああなのかい?」

「今日はちょっとお客を巻き込んじまってたみてぇだが…概ねあんな感じだな。でも…楽しかったろ?兄貴」

「そうだね。あの娘達も活き活きしてて元気を貰った気がするよ」

「よしッ。じゃあ兄貴も常連って事で♪」

「…いや、それはちょっと…(汗)」


苦笑交じりにはぐらかす譲治。
そんな譲治をからかう戦人。
雑談に花を咲かせつつ、二人は朱志香達他のセブンのメンバーと待ち合わせた午後の遊園地入り口へと向かうのであった。






遂に煉獄の七姉妹全員との決着を付けたうみねこセブン。
だが…最後に現れた謎の青き戦士。
六つしか無かった筈のコアの七つ目を持つ者。

彼等の戦いはまだまだ続くのであった。


【エンディング】


《This story continues--Chapter 20.》




《 追加設定 》

今回出て来たうみねこブルーの追加設定です。
一応反転です。
うみねこブルーの武装関連

双剣と銃を使い分ける万能型。未来において唯一人でファントムと戦い続けた経緯から単独での戦闘経験が豊富な事による戦い慣れの影響。
銃は左右どちらでも扱えるが命中精度は右が上。射撃教官は未来での天草。
この銃はコアの力の変身よって顕現した物ではなく未来の人間が縁寿の為に開発した物。


使用銃 FK−07 【キリエ】
コアのエネルギーを銃身に伝達する事でファントムに対しても有効な実体弾を撃てる未来製の特殊拳銃。
名前は縁寿の母から。FKはファントムキラーの略称。攻撃的な名称からも未来での敵対関係の深さが窺える…。

双剣 「幻影の双剣」
設定項からの武器ですが今回の話で特殊効果を付けてます。
・この剣で攻撃を受けると魔力が霧散させられる効果がある。
・この剣で攻撃を受けると『幻想』としての存在が否定され反魔法の毒素に身体が蝕まれる。
・切れ味を活かして相手の魔法を斬り裂く防御シールドとしても使用可能。


マモンを撃つ体勢で構えていた蒼い魔弾
【天使の幻想砕き(エンジェリック・ファントムブレイカー)】
元がレッドのコアなので縁寿版の【蒼の幻想砕き(ブルーファントム・ブレイカー)】。威力は同程度。但しコアの力を充分に扱い慣れた上での互角なので潜在的な威力ではレッドの方が強力。この名前はアルブレードさんに考えて頂きました(感謝)

あと今回出て来た武器の補足

試作型【GEドライブ】
ファントムの試作兵器の一つ。【ガァプ式・エネルギー・ドライブ】が正式名称。ガァプシステムを応用する事で魔力切れを一切気にする事無く誰でも高出力砲撃魔法の使用が可能となる危険な『戦術兵器』。未来での完成版よりは出力も低くチャージサイクルも遅かったらしい。
因みに開発の経緯は人間側とは完全に異なり機械的な構造は一切無くガァプが自らの特殊能力を宝玉内の魔石に移植して製造した『純魔法製』である。

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