『今回予告』

しゃ、紗音です。
私も無事仲間になれたので、これからしっかり皆さんをお守りします。
その・・・譲治さんをメインに・・・ぽひっ

でも、ずっと一緒に動いてきた嘉音君のことがやっぱり心配かな・・・。
嘉音君にも分かる日が、早く来てほしいと思う。

『六軒島戦隊 うみねこセブン』第16話「輝く白、優しい黒」

白色と黒色って、一番似合う組み合わせだと思いません?




【オープニング】




「嘉音ですか?入ってください」
「・・・失礼致します、ロノウェ様」

ロノウェの前に呼び出された・・・嘉音。
その表情は深刻なものだった。

「どうやら、紗音が・・・裏切ったようですね」
「・・・」

予想通り、とでも言うような顔をして、嘉音は俯いた。
何か怒られるのだろうか。
・・・変な命令でも下されるのではないだろうか。

「分かりました。では、この場に紗音を連れて来てください」
「・・・・え?僕が・・・ですか?」
「うむ。事の始まりはあなた達が学校内で多くの人間と交流し始めたことだと思っています。
 学校で自然に接しているだけでも、多少心の傾きがある事位は考えていましたよ。

 だからこそ、同じく接していたあなたになら、紗音を説得できるのでは?」
「・・・」
「その場で説得できないのなら、力を使う。ただ・・・それだけですよ」
「・・・分かりました、ロノウェ様」
「分かったならいいです。下がりなさい」
「はっ」

嘉音は、ゆっくりと部屋を出て行った。
複雑な気持ちで、胸の中を一杯にしながら―――――。


<<第16話「輝く白、優しい黒」>>


「んーっ!このちんすこうショコラうめぇっ!!」
「・・・へぇ、沖縄かぁ。私も一度行ってみたいなぁ」
「そっか・・・すごく楽しかったよ♪」
「ははは、というか朱志香ちゃん、あまり僕のベッドの上にお菓子をこぼさないで・・・」
「うー!お菓子お菓子ー!うーうー!」

そのころセブンの一同は、本部内の譲治の個室に集まって、譲治と紗音の沖縄旅行の土産話で盛り上がっていた。

「そりゃー青い海!白い砂浜!水着美女!恋愛の聖地!もうたまんねーぜ!なぁ譲治兄さんっ!」
「え、あはは、何のことかな・・・?」
「あ、あぅぅ・・・」

譲治と紗音は朱志香におちょくられ、顔を真っ赤にして俯く。
そこに真里亞がてちてちと寄ってきた。

「うー、譲治お兄ちゃんも紗音も、顔真っ赤。大丈夫?うー?」

そう言って、さりげなく水タオルを持ってきた。

「あ、ありがとう真里亞ちゃん。大丈夫だよ。もらっておくね」
「私の分まで・・・ありがと。・・・?」

プルルルルルルルルルル。
どことなく昭和テイストの着信音。紗音の携帯だった。
ゆっくり立ち上がり、部屋の隅へ寄ってから携帯を抜き出した。
周りも空気を読んだのか、お菓子をどんどんつまみ出して静かになる。

「・・・もしもし、紗音です」
「姉さん・・・僕だけど」
「か、嘉音君?ちょっと待ってね」

そう言って、皆の方に顔を向きかえる。

「大事な話みたいなので、部屋から一旦出るね。皆ごゆっくり〜」
「おー、いっへらっひゃいひゃのんひゃん!」

もぐもぐしながら戦人が返事を返すと、すぐに紗音は出て行った。




「嘉音君、それで?」
「ちょっと外まで出てきて欲しいんだ。僕の都合で悪いけど、待ち合わせ場所はウィッチハートエリアの礼拝堂でいいかな」
「・・・分かった。できるだけ急ぐね」
「うん・・・」

軽い沈黙の後、電話は切れた。

「・・・急がなきゃ・・・よし」

皆に伝言をするため、再びドアを開けた。









嘉音との待ち合わせ場所となったウィッチハートエリアは、セブン支部のあるレインボーステーションエリアの隣にある。だが、その移動範囲はかなり広い。
フラワーウィッチバスこと『花バス』がなければ、きっと行くのに歩いて30分はかかるだろう。

「・・・遠いなぁ。えっと、バスのダイヤは・・・」

バス停は、支部を出てすぐそこ。
バスは15分毎に1本来ているので、それほど待たずにはすむ。
・・・もちろん、襲撃の時はバスが出ていないようだが。
よくダイヤを見ると、バスはちょうど出て行ったところだった。

「少し待つかな・・・あぁ、のど渇いた・・・あ、露店!」

エリア内を回っている小さな露店を見つけ、待ち時間を潰そうとかけていく。
近くで二人のビラ配りがビラをばら撒いていたが、これは気にせずひょいひょいかわした。

「・・・すみません、バタフライカップS一つ、中身は温かいこの紅茶で・・・」
「畏まりました。少々お待ちを」

若い男の店員・・・山羊に管理が任されていないようで、謎の安心感を覚えた。
お金を払おうと財布を取り出した・・・その時。
財布がひょいと上に持ち上げられる。

「おいおいお嬢ちぁん?ちょっと遊んでいかねぇか?」
「おー、金持ちそうじゃねぇかぁ。この金使って遊ぼうぜぇー!」
「賛成賛成!ほらほらお嬢ちゃぁん、こっちかもぉん!」
「え、あ、ひぇ?ふぇええ!?」

わけもわからず、腕をぐいっと引っ張られる。
・・・駄目だ、なんか嫌な方向しか考えられない・・・。
こういう時は譲治先輩が言ってたっけ・・・・「困ったときは叫べ」と。

助けてぇっ!!




・・・その声と共に、一つ鈍い音が聞こえた。
何事かと思って一瞬頭を伏せたが、ゆっくりその頭を持ち上げる。


「ぐ・・・痛ぇっ・・・!」
「若き女の財布を盗もうとするとは・・・中々手つきがよさそうだな、お主?」
「な、何だよテメェは・・・!お、女!?か、片付けるぞ、おいっ!」
「あ、ああっ!」

頭を伏せた一瞬で、ブレザー姿の金髪の女の人が、男たちを殴っていたのだ。
・・・男たちはビラを投げ捨て、紗音の財布だけを握り、サッと中央の女の人を囲むように立つ。
彼女は一瞬焦った顔をしたが、すぐにきりっとした顔つきになる。
そのままガッと被さるように男たちが襲い掛かる・・・!

「駄目ッ・・・!」

紗音は思わず高い声をあげ、目を隠した・・・のだが。

「「グエッッ!!!」」

そっと目を開けると、彼女が持っていた杖が二人の腹に直撃し、彼女自身は横からすりぬけ脱出していた。
・・・絶句せざるを得なかった。すごい勢いで・・・見ていればよかったと、ある意味後悔の思いが沸き上がる。
そして・・・彼女は私の財布を拾い、そっと私に手渡した。

「これはお主のであろう?受け取るが良いぞ」
「あ・・・ありがとうございます!」

なんとかお礼の言葉を言うので精一杯だった。

「礼は口ではいらぬ。だが・・・ちょっと付き合ってほしいのだ」
「え?」
「いや、実はだな・・・ええい!話すのも面倒だ!ついてきてくれ!」
「え、ちょっ・・・ま、待ってください!まだお金払ってないんですーっ!」

露店の店員が「お嬢ちゃん、お金お金ー!」と叫ぶのも気づかず、彼女は私の腕を引っ張っていく。
というか、紅茶のカップすら受け取っていないのだが。
・・・結局、お金を払わないまま彼女について行くことになった。






「さぁ、ここに座ってくれ」
「い、いきなり連れてこられても・・・嘉音君との約束もあるし」
「ふむ、付き人でもおったか?それは失礼。後で電話を貸そう」
「それは結構です。私も携帯持っているので」
「・・・そうか、すまぬな」

彼女は寂しそうな顔をしながら、ゆっくり向かいの席に座った。


どうやらここは・・・ウィッチハートエリアの森の中?
夜の特別なイベントでしか進入できない場所だろうか。
結構早足で連れてこられたので、途中にどこを通ったかさえ忘れてしまっていた。

にしても・・・綺麗な木漏れ日と、周りに咲く薔薇が美しい。
前に、朱志香ちゃんの家の素敵な薔薇庭園の写真を見せてもらったことを思い出す。
・・・あれにも負けないくらいだ。


「この場所は気に入ってもらえたか?」
「あ、はい。とっても素敵です」
「それはよかった、くっくっく!しばし待たれよ」

そう言って彼女は姿を消そうとした・・・ので。

「あの・・・お名前、聞いてもいいですか?」
「あ、すっかり名乗り忘れておったな。
 妾は『ベアト』と言う者だ。よろしく頼むぞ」
「・・・ベアト、さん。よろしくお願いします。私は紗音です」
「そうか、紗音。では、待っておれ・・・」

ベアトさんは、さっさと森の中に姿を消えていってしまった。

「あ、今のうちに電話しておこう・・・」

携帯を取り出し、短縮番号「1」を押した。
連絡先はもちろん、嘉音君。


ツー、ツー・・・


無機質なあの音しか聞こえない。
何度かダイヤルし直したが、繋がらない。


「電源か何か切れてるのかな・・・」

少ししょんぼりと肩を落とす。
肩をあげ直したとき、ちょうどベアトさんが戻ってきた。


「む、紗音。どうかしたのか?」
「いえ、別に・・・相手に電話しようと思ったら、電源が切れてたんです」
「そうか。それはさておき、紅茶を持ってきたぞ。アールグレイと呼ばれるものだ」

カチャン、カチャン、と二つのカップが置かれる。
薔薇の香りの上に、美しい香りが重なる。
・・・そんな香りを感じていたら、ふと思い出した。
カバンの中に、旅行土産のちんすこうショコラが入りっぱなしなことを。

「あの・・・よかったら、これ食べてください」
「む?茶菓子か?いただくぞ」

そっと取り出したちんすこうショコラは、それほど温かくなっていなかった。
箱のままテーブルの中央へ差し出し、箱を開ける。

「うむ、沖縄・・・とな?旅行の土産か?」
「はい。ついこの前、大切な人と旅行に行ったもので・・・。
 お土産にお菓子を買ってきたんです。友達に分けて少なくなってますけどね」
「ふむ。見た目はそれなり、か。いただくぞ」

少し口を湿らせる程度に、紅茶を口に入れる。
ベアトさんは袋をやぶり、コリコリとそれをほおばりだした。
・・・リスみたいにチビチビ食べている。

「・・・クスッ、あはははは!」
「む、何がおかしいのだ?」
「本当に可愛いんですもん、ベアトさん♪」
「う、うむぅー・・・」

顔を真っ赤にしながら、再び同じようにほおばるベアトさん。
可愛くて仕方がなくて、頭を撫でそうになった・・・その時。


プルルルルルルル・・・
プルルルルルルル・・・

電話の音で、その思いはかき消される。
嘉音君かな?と思って携帯を取り出すと、連絡は霧江さんからのものだった。

「あ、ちょっと失礼しますね」

少し席を離れた。



「もしもし」
「もしもし、紗音ちゃん?ファントムの襲撃が来てるみたいなんだけど、今どこに居るのかしら?」
「あ、ウィッチハートエリアです。・・・礼拝堂のあたりです」

嘘をつかざるを得ない。

「あらよかった!なら近いわね。実はミッドナイトウィングエリアの、ナイトウォーカー付近で山羊が集まってるみたいなのよ・・・今から向かえるかしら?」
「はい、急ぎます!」
「ありがとう。変身してからこちらからまたナビゲート入れるわ。
 近くに誰かいるようなら、そちらから連絡して頂戴」
「了解です。今近くに人がいるので、後から連絡しますね」



「すみません、急用みたいです。えと・・・出口はどこですかね?」
「どこへ出かけるのか?妾が送っていってやろう」
「え、でも・・・」
「遠慮するでない。どちらにしろ帰り道は分からないだろう?」
「・・・はい」
「少し話をするとなれば・・・お主は『ガァプのティーカップ』のカップがどうやって入れ替わっているか知っておるか?」
「はい。確かガァプシステム・・・とか言った記憶が」
「おぉ、それを知っておるとは珍しい。なら話は早い。
 あそこにガァプシステムが置いてある。そこから行けば、魔女の森の入り口あたりまで飛べるからな。気をつけていくとよいぞ」
「あ、はい!ありがとうございます!」
「またな、紗音。いつでも来るとよい。同じところからまたここに来れるからな」
「ぜひ。ではまた、ベアトさん」

そして私は、システムのある場所へと駆けていった。






「よし、ここだな!」

紗音が急いで向かっている頃、戦人たちはすでに現地にたどり着いていた。

「またあの・・・煉獄の七姉妹って子達がいるんじゃないかな?」
「うー、ふとももふとももー!」
「ちょっ真里亞!そんな名前で覚えちゃ駄目だぜ!」
「そういえば紗音がまだ来てないんだったね。嘉音君の所に行くとか言ってたけど」
「うーん、別行動になっちゃったしな。嘉音君はセブン勢じゃないから
 本部に案内することもまだためらってたしよ・・・」
「でも、縁寿は普通に前から入れてたんだろ?一時期戦士になる前までからでもよ」
「うー、よく分からない・・・でも、今の状況であまり話す暇はなかった。うー」
「っとぉ!そうだったな。行くぞ皆!」
「「「了解!!」」」

「コアパワーチャージオン!チェンジレッド!」
「コアパワーチャージオンッ!チェンジイエロー!」
「コアパワーチャージオン、チェンジグリーン」
「コアパワーチャージオーン!チェンジピンクッ♪」

それぞれ変身を済ませ、さくたろうの移動形態を利用し、山羊達のいる方へ向かっていくのだった。






「どうやら、奴らが動き出したようだな。・・・・絶対に許さないッ!」

怠惰のベルフェゴール・・・と呼ばれた『煉獄の七姉妹』の一人は、アトラクションの頂上で彼らの動きを見ていた。
いつも沈黙気でしっかりしている彼女であっても、姉妹がいなくなるのは寂しいことなのだろう。

誰だって、身内の誰かが居なくなるのは悲しいのだ。
それはニンゲンも同じなのだということを、ベルフェゴールは知っていたのだろうか。

「・・・グルルルル・・・」
「やっと獲物が来たか・・・行きたいのだろう?
 ・・・・行け・・・・『幻想怪人 リルギアル』」
「グアォオッ!!」

早く姉妹を救い出したい、と彼女は思いながら、一度その場を消え去った。







「はあ、はあ、はあ・・・・!」

やっとの思いで走って、現地まで紗音は辿り着いた。
ウィッチハート側から来て、一番初めに目がつくのは【ファンタジースタータワー】。
タワーと名にあっても、普通に見た目はしっかりしたビルだ。
・・・そんなことを考えている暇はない、急いで支援に「姉さんッ!」

「か、嘉音君!?」

声ですぐに分かった。声のする方へ顔を向ける。

「悪いんだけど姉さん、ちょっとこっちに」
「ご、ごめんね嘉音君!今から戦闘に行かなきゃいけないから!」
「そんなことはいいんだ、早くッッ!!」
「・・・ッ」

また腕をつかまれ引っ張られていく。
・・・今日は人に振り回されっぱなしだ。


ビルに裏から入り、大きな階段をどんどん上っていく。
嘉音の目指す先は・・・屋上。

「姉さん、急いでッ!」
「分かってるよ!用事済ませてとっとと戦わなきゃいけないもん!」


階段を上りきると、広いコンクリートスペースがあった。
・・・一般公開されている屋上とは、また違ったところのようだ。
嘉音自身も上った事がないから、その光景に驚く。

「姉さん、ちょっと寄ってほしい」
「え・・・うん」

いわれるがままに、嘉音の傍に寄る。
すぐ近くから、セブンの戦闘の様子がすぐ見えた。



「ねえ・・・姉さん」
「・・・何?」
「どうしてセブン側につこうなんて思ったんだ?僕には・・・人間が穢れたものにしか見えなかったから、僕が人間であることを恨む。だから、魔女達の家具として働くことに誇りを持って生きてきた。なのに・・・どうして一緒に動いてきた姉さんがそれを拒絶しなきゃならないんだ?」
「・・・」

前にも、同様の問いかけがされた。あの時は何もいえないまま・・・謝っただけで立ち去った。
・・・厳しい問いかけだった。・・・紗音にとって、それは一番言い難いことだ。
戦いのことも忘れそうになるが、それを忘れないように頭をぶんぶんと振る。
そして・・・こう反論した。

「私は大切な人を護りたい。そして人間を護りたい。
 ・・・私だって、前まではずっとロノウェ様の恩義のことを考えてたし、人間が汚らわしいってずっと思ってた。
 でも、今は違う。
 あんなにも人の温もりが素敵で、輝きに満ち溢れているものだと知った。
 だから・・・私はもう、迷わない。人間を、護り抜く」

あの日、言い残した言葉と似ている言葉なのに、嘉音の心にはそれが深く突き刺さるものになっていた。
嘉音の表情が、焦りを増していくように感じる。
だから・・・こそ・・・問い詰める。
『嘉音君にも・・・分かってもらいたかったから。』



「だから、嘉音君も一緒に、一杯人の温もりを感じてほしい。
 それはとっても素晴らしいことだから」
「で、でもそんなの・・・!」
「ロノウェ様達がやっていたことは、間違いだから。
 私たちは本当に利用されただけ。
 福音の家の支援も、見た目が良いだけで裏は凄く黒い。
 ・・・だからこそ、私は白になる。白の道を歩む」

見た目はかっこつけているように見えても、紗音の心は大焦りしていた。
言葉と言葉が入り組んで、なんだかややこしい発言にもなりかねない。
・・・その時、嘉音が反応した。

「もう、いい、今は・・・。姉さんにも、もう一度分かる日が来る」
「嘉音君・・・」

寂しそうな目をして、嘉音は俯く。
そしてそのまま後ろを向いて、走り出した。
階段を駆け下りる音が、後に残った紗音の耳に響き渡る・・・。






どうして、どうして姉さんには分かってもらえないんだッ!!

あんな穢れた人間をどうして信じろって言うんだ!?

僕には分からない、僕が選んだ道は絶対正しいんだ!!

ロノウェ様に教えてもらったことも、すべて正しいんだ!!

だから絶対に負けない!負けない!!

この運命になんか絶対に屈しないぞッ!!!

うみねこセブン・・・絶対に許さないッッ!!!


・・・でも、もし姉さんの通り、僕が人間を信じられたなら。

世界は変わるのだろうか。

僕が見るすべてが・・・変わるのだろうか。

もし自分が変われるのなら。

僕だって・・・。



「白く・・・美しい・・・人間になりたい」







「さて、ここからどうしよう・・・」

屋上に残された紗音は、階段から下りる事を躊躇っていた。
なぜか?嘉音が待ち伏せをしている可能性もあれば
レッド達のところに辿り着くのが遅くなる可能性もある。
・・・急がなければならないのに。悩む余裕なんてないはずなのに・・・!


さっきの嘉音との会話で使い切った頭をなんとか振り絞る。
・・・それは、一つの結論に辿り着く。


ヒントとなったのは・・・人の温もりを初めて知った、あの日の・・・。


「コアパワー、チャージオン。チェンジホワイト・・・!」

変身を済ませると、少しずつ戦闘をしている方のビルの端へと向かう。
真下まで、どのくらいあるのかなんて、紗音に考える余裕なんてなかった。

「・・・【シルフシールディング】」

真珠のように真っ白い珠に包まれながら・・・彼女は、コクリと頭を下げる。


「・・・ッ!!!」

彼女は、そのままビルから飛び降りた。









「よし、これで山羊は片付いたが・・・問題はアレだよな」
「チッ!私たち近接系はやっぱり不利だな・・・」
「レッド、僕はダガーで支援をする。レッドとピンクを中心に攻撃してくれ!」
「うー、了解!」
「・・・オッケー、行くぜッ!」

「やれ!『幻想怪人 リルギアル』ッ!!」

ベルフェゴールの指示とともに、大きな鳴き声が響く。

「死ねッ!人間という名の屑共めぇええええッッッ!!」

七姉妹の中で生きてきたあの頃の面影はすでにない。
ただ・・・大切な人達が奴らにやられた。それの復讐で精一杯なのだ。

「グァオオォオオオオオオッッッ!!!」

大きな鳴き声と共に、いくつもの炎の玉が投げられる。

「うぉおおっ!人間なんか屑じゃねええっ!!
 【蒼き幻想砕き(ブルー・ファントムブレイカー)】ぁあああああああッッッ!!!」

戦人・・・レッドは、それに対して怒りの力をぶつける。
人々を傷つけた罪は、何よりも重いから。


でも、それはファントムから見ても同じなのだ。


その攻撃同士は、相打ちだった。
お互いそれなりのダメージを受け、引き下がる。


「っく、アイツ・・・強すぎるぜ」
「どことなく威厳を持つ様な眼差しの中に、怒りのパワーを秘めている・・・とでも言う所か」

このままじゃ・・・勝てない。
相打ち合戦のままでは勝てない。
たとえ仲間達全員で全力を出しても、勝てないかもしれない・・・。

そう思ったときだった。



「ぅぁぁああああぁぁぁああああッッッッ!!!」

上から落ちてくる白い球が悲鳴をあげながら、敵怪人の尾の付け根にぶつかる。

「ギャオオォオオオオオオオンッッッ!!!」

怪人は悲鳴を上げ、うずくまる。

「な、何が起きたんだ・・・?」
「とにかく有利だよ!レッド、今だッ!」
「お、おうッ!行けぇええッ!【蒼き幻想砕き(ブルー・ファントムブレイカー)】!!!」

的確な狙い撃ちをするため、少し声を抑えて、さっき白い球がぶつかった場所に弾を放った。

「グオォオオオオアアァアアアアァアッッッ!!!」


悲鳴を上げ、怪人は粒子となり消え去った。

「なん・・・だと・・・怪人が・・・敗れた・・・ッ!」

すかさずレッドはピンクから【アイテムアウト】で出してもらった【スターホバーライド】を利用し、ベルフェゴールの元へ向かい、その首に銃を向けた。

「・・・終わりだぜ、姉ちゃん」

「ぐっ・・・リザインだ・・・」

大人しくベルフェゴールは地に降りた。

「で、こいつも保護隊に連れて行ってもらう、と」
「うー、ルシファーもサタンもベルゼブブもアスモデウスも皆待ってる!」
「え・・・ひょっとしてお前達、姉妹を保護していたのか!?」
「もちろんだよ。悪さをしない程度に置いておくくらいだったら、僕達だって無駄な攻撃はしないさ」
「う・・・うう・・・」

普段から涙を見せない彼女だったが、そっと瞳に溢れ出る涙を手で拭った。

「うー、ところであの白い球は何だったの?」

「その・・・私です」

「「「「ホワイト!!??」」」」

「実は、急用でファンタジースタータワーの屋上に行ってたんです・・・
 階段を駆け下りたら間に合わないと思ったので、
 シールドを張って飛んでみたら風に飛ばされて・・・」
「な、どうやってそんな・・・」
「うー、チャレンジャー!うー!」
「ま・・・まぁ皆無事だったから大丈夫だろ!」
「さ、この子も連れて帰ろうか」
「・・・はい」












どうして、紗音が人間側についてしまったのか理解できない嘉音。

嘉音に分かってほしいと思いながらも、未だ全力でそれを伝えられない紗音。

紗音と嘉音のことを心配し、それを支えるうみねこセブンのメンバー達。




その思いは螺旋状に入り組み、一つの結論へと達するのはいつなのか―――。





【エンディング】


《This story continues--Chapter 17.》




《追加設定》

【バタフライカップ】フード
紅茶専用のティーカップ、ガラス製。
さくたろうカップとは対照的に大人向けである。
カップ自体の形状はそこまでリッチではないが、実用性は高い。
お持ち帰りすることもできるため、多少値段が高くなっている。
サイズはS・M・Lより選択可能。紅茶の種類も様々。

【ファンタジースタータワー】エリアCミッドナイトウィング
ファンタジアが様々な商品を販売している小さなデパート。
屋上には庭園のようなスペースがあり、のんびりと屋上からの景色を楽しめる。
ファンタジアの金銭系統の管理はほとんどここらしい。

【幻想怪人 リルギアル】敵陣営幻想怪人
全然出番がなかった怪人。かなり身長が高いらしいが
見た目はぶっちゃけポケ○ンのル○ア。
炎のカタマリを吐いたりできる。急所は尾の付け根。

【シルフシールディング】ホワイトの使用技
普段使用している赤き盾とは異なり、自らを護りながら移動するために使われる白い球状の盾。
羽のように体が軽くなるので、風がなければ高いところから下に飛び降りるのも楽。

【スターホバーライド】アイテムアウト品
ピンクの【アイテムアウト】によって生み出された移動用ボード。
現在は車の2倍くらいの速度で飛べる程度。
普通なら人間は吹き飛ばされる速度だが、変身している状態であれば吹き飛ばされない。
戦士のコアカラーと連動し、乗った時にボードの色が変わるようになっている。




設定案からは今回あまり拝借しておらず、かなり自作で突っ走りました(汗)
ありがとうございました。

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