『今回予告』

あたしは朱志香、よくおてんばとか言われるけどそんなあたしだって女の子、男の子に恋くらいするぜ?
 でもその自分の気持ちが恋なのかどうか良く分らないのが困ったもの…何て悩んでたらファントム出現! でもってあたし一人が孤立させれ現われた敵は嘉音君!!?
 そんな同じ人間じゃないかよ…それにあたしには嘉音君を傷つけるなんて…
 うみねこセブン第12話≪がんばれ、恋する女の子!≫…ってそこ! ショタとか言うなぁっ!!
 

【オープニング】
 
 その日の最後の授業が終わると教室は賑やかになる、部活に行く者や帰りにどこかへ寄って行こうと話し合う者など様々だ。 朱志香もまた友人のサク・ヒナ・リンと談笑中であった
 「…でさ、サッちんに最近彼氏が出来たのよぉ! しかもうちのクラスの倉須明斗(くらす めいと)君だって〜!」
 「「倉須君〜〜〜〜!!!?」」
 サクの情報にヒナとリンは大袈裟に騒いでみせる、そんな友人達を朱志香は苦笑しながら眺めている
 「……彼氏か…ん?」
 顔くらいは知っている人物同士だけに少し羨ましいような気持ちにになる、そして何気なく窓の外に視線を向けるとそこに見覚えのある少年が歩いていた、無意識にその名前を呟いてしまう
 「…嘉音…君」
 「ん? どうしたのジェシ?」
 「あ?…何でもないよリン」
 どうして嘉音のことか気になるのかは自分でもよく分らない。 あるいは恋というものなのかも知れないのだが自分でも確証が持てないのだ、自分の事なのにともどかしく思う
 そんな時朱志香の携帯(着メロはどっきゅん☆ハート)が鳴る、画面に表示された名前を見た彼女は表情を引き締める。 相手の名前は右代宮金蔵…間違いなくセブンとしての出動を要請するものだ
 

 ≪第12話 がんばれ、恋する女の子!≫

 末っ子というのは損なポジションだ、姉達にほとんど逆らうことも出来ずいいように遊ばれる。 それは人間だろうが悪魔だろうが変わらない。 だからこそルシファーが敗北したと聞いたアスモデウスがこれは姉達を見返すチャンスだと思うのは当然だった、もちろんそれが不謹慎であると自覚はあるがそれでもだ、だからこそ姉達と連携して戦いなさいというワルギリアに逆らってまで単独での戦いを決行した
 「…うみねこセブン、まずはあんた達を誘い出してあげるわ…暴れなさい、幻想怪人トリアーエズっ!!!」
 アスモの呼び出しに応え現われたのは顔がずんぐりとした赤褐色の胴体に浮き出ていてそこから手足が生えたいかにもとりあえず適当に創られたような造形の怪人であった
 「さあ、思う存分暴れなさいっ!!!」
 「きしゃぁぁぁああああああああっっっ!!!!!」  
 賑やかな商店街に怪人の咆哮が響き、続いて人々の悲鳴が上がる。 しかしアスモの興味は逃げ惑う人間達にはまったく向けられていない、興味があるのはすぐにやってくるであろう彼らである
 「…そこまでだぜファントムっ!! うみねこセブン参上っっっ!!!!」
 「来たわね!」
 レッドの叫びを先頭に現れたうみねこセブンの四人を見たアスモはにやりと笑うと黒山羊部隊を召喚する。 もちろんそれで彼らを倒せるとは思わない、アスモがまず一人を倒して戻るまでの時間を稼げれば十分だった
 「…最初はそうね…あいつに決めたわ!」
 こちらの陣形を崩さんとレッドと共に斬りこんでくる黄色の戦士うみねこイエロー…彼女に向かい紅い【宝珠】を翳す。 ゆっくりと【宝珠】が輝きだしやがて一気に眩しい閃光を放つ
 「な…!?」
 数秒のタイムラグを置きイエローの身体光に包まれる、そしてバシッと激しく輝いた次の瞬間イエローは完全に姿を消していた
 「な…イエローっ!!?」
 一番驚いたのはすぐそばにいたレッドである、いったい何が起こったのかまったく分らない
 「これはどういう…え?」
 「う〜!?」
 アスモに問いかけようとしたグリーンは彼女もまた消えてることの気が付く、しかしセブン達が動きを止めている間に黒山羊部隊は彼らを包囲するように陣形を完了していたためグリーンは今はイエローを心配している場合じゃないと知る、イエローを信じてこの場を切り抜けるのが最優先だった


 イエローは気が付くと不思議な空間にいた、景色は間違いなく先程までいた商店街なのだが違和感を覚えるのは不気味なほどの静けさと灰色に見える空の色…さらにレッド達やあれ程いた黒山羊すら一体もおらず時間が止まってしまったかのような感覚すら覚えた
 「…ここは…?」
 「【空間隔離の結界】内よ、イエロー。 そうねぇ?…あんただけを元の空間から切り離して一種の仮想空間に閉じ込めたとでも思って頂戴」
 「何だって!?」
 「…そういきり立たなくてもいいわ、あんたの相手はこいつよぉ?」
 「え?…なっ!!?」
 アスモの隣の現われた敵はイエローも知る少年――嘉音であった、しかもその右腕には黒山羊達と同様のブレードが展開されている
 「ど…どうして…!? まさか…?」
 嘉音がファントムの仲間!?…一瞬頭に浮かんだ可能性をイエローは慌てて振りはらう、あの優しそうな嘉音君がファントムの手下になんかなるはずがない、きっと…
 嘉音がブレードで斬り込んで来たため思考はそこで中断される、自分達に引けを取らないくらい素早く力強い踏み込みである
 「…くっ…破魔連…」
 かろうじて回避したイエローは反射的に反撃に出した拳を止めてしまう、【破魔連撃拳】どころか通常の一撃でも受ければ嘉音の小柄な身体はただではすまないだろう。 しかし嘉音の方はまったく躊躇することなく二撃、三撃目とブレードを振る
 「や…やめてよ嘉音君!! 君だって人間じゃないか、どうしてっ!!?」
 「………」
 (…ん? かのん…? どこかで聞いたような名前ね…?)
 イエローの問いかけに答えることなく無言でブレードを振い続ける、その太刀筋に迷いはなく確実に彼女の命を奪おうとしていることが分っても反撃することかできない。 それは単に相手が同じ人間というだけではないという気がしていた
 「…くっ…いったいどうしたらいいんだよっ!?」

【アイキャッチ】

 幻想怪人トリアーエズがレッドの【蒼き幻想砕き】に撃ち抜かれ消滅した、黒山羊達も徐々に数を減らしつつあり”外”の戦いはすでに決しようとしている。 その戦闘に手を出すことなく見守る者がいた
 「…うみねこセブン…何故君達は人間なんかのために戦う?」
 一軒の商店の屋根の上からレッド達の戦いを見つめる少年――嘉音は誰にともなくそう問いかける
 もちろん彼とて人間のすべてが醜いとは思わない、あの真っ直ぐな瞳をした少女のように純粋で美しい心の持ち主もいるだろう。 しかしそういう純粋な者こそ醜悪な人間達のエゴに飲み込まれてしまうのだ
 「…右代宮…朱志香さん…か」
 何故今その名を思い出すのか…その理由は嘉音にはまだ分らなかった
  
 
 アスモデウスは逃げ回るしかないイエローの無様を笑う
 「きゃははははははっ!! どうしたのぉ? いつもみたくサクッと殺っちゃえばいいじゃん?」
 「ふざけるな! 嘉音君は人間なんだよっ!! くっ…頼む…やめてよ嘉音君、あたしは君を傷つけたくないんだっ!!」
 ブレードの斬撃を回避しながら叫び返す、致命傷こそないが何度もブレードが掠めたバトルスーツのあちこちに斬撃による傷が出来ている。 それを聞いたアスモが首を傾げたのを不審に思ったがそれを気にしている場合ではない
 (…やっぱどっかで聞いたわよねぇ? どこだっけ…?)
 イエローは今”自分が好意を持っている異性”と戦っているのだが幻影ゆえにその姿はアスモには見えない、彼女の視点では黒山羊とイエローが戦ってるだけだ。 そのためよせばいいのに好奇心がうずいてしまう、イエローを追い詰めているという余裕と慢心が彼女に取り返しのつかない悪手を取らせる
 「…ねえ、あんた今誰と戦っているのぉ?」
 「…はぁ?」
 「今あんたはね、あんたの”好きな男の子”と戦ってると思うのよ? いったい誰?」
 その言葉の意味をイエローは考え一瞬の思考の後彼女はふたつのことを理解する
 一つは自分が戦ってる相手が嘉音ではないということ、そしてもう一つは自分が嘉音に好意を持っているということだ。 それを疑うことはしない、何故ならイエローは…いや、右代宮朱志香という存在はその事実をごく自然に受けいられたからだ
 (…あたしは嘉音君が好き…なんだ…そうだったんだ…)
 そしてそれと同時に湧いてくるのはその嘉音の偽物で自分を攻撃しようとするファントムへの怒り、それが炎となりイエローの拳に宿る
 「…怒りの炎の力付与(エンチャント)!! 食らえ【灼熱拳】!!!」
 ブレードがイエローの頬を掠めると同時に撃ちこまれた一撃は炎を纏った鉄拳、その衝撃に吹き飛ばされた嘉音は地面に倒れると黒山羊の姿となり炎に包まれ炎上する。 幻想とは言え嘉音に攻撃を加えたことに顔をしかめながらも次はアスモをキッと睨む
 「次はてめえだぜ!? それともいつもみたく逃げるかい?」
 「ふ…ふざけないでよ! あんた一人くらい元々あたし一人でも十分なんだからぁっ!!!!」
 叫びながらブレードを展開し斬りかかるアスモだったがイエローは冷静に間合いを測りカウンター攻撃を繰り出す
 「【爆熱拳】!!!」
 「…くぅぅぅううううううっ!!?」
 炎の拳はアスモを捉えるがアスモの防御力をもってすればその程度で致命傷になることはない、しかし相応の衝撃はあったようで振り降ろそうとしたブレードを止め一旦後退する
 「ダメかっ!? どうすりゃいい…?」
 その時不意に頭に浮かんだのはレッドの【蒼き幻想砕き】、あの幻想怪人を一撃で倒す蒼き力。 あれが”コア”によるものなら自分にだって使えるはずだとイエローは思う。 二、三回深呼吸し気持ちを落ち着けると精神を集中し”コア”に問いかける
 (…”コア”よ、あたしに力を…あたしはまだ負けられない、嘉音君にこの気持ちを伝えるまでは…だから…!!)
 「うわぁぁぁああああああああっっっ!!!!」
 その沈黙を絶好の隙ととったアスモが絶叫しながら襲いかかってきてもイエローはうろたえない、冷静にと拳を構えるとその力を使う
 「…幻想を砕く蒼き力及び怒りの炎付与…名づけて【蒼炎爆熱拳】!!!!」
 「…え?…あ…きゃぁぁぁあああああああああっっっ!!!!?」
 回避も出来ず直撃を受けたアスモの身体が吹き飛び蒼き炎に包まれる、そしてピキッという音とともに空間にひびが入りその一気にガラスの様に砕け散っていくのだった… 

【エンディング】

 アスモが気が付いた時彼女はセブンに囲まれていた、咄嗟に攻撃しようとするがすぐそれが出来ないと悟る。 おそらく【蒼炎爆熱拳】とやらのせいだろう、自分の悪魔としての力が完全に失われている
 「…はぁ…殺すなら早く殺してよね…」
 これではもうベアトリーチェの役には立てない、ならば足掻いて逃げようという気にもならない。 しかしレッドから発せられた言葉に彼女は驚き目を見開くことになる
 「…ああ、覚悟しろ…って言いたいがな、お前あのルシファーの妹だろう?」
 「え?」
 「…そうなると逃がすわけにはいかねえが…殺すってわけにもいかなくてな、このまま連れて帰るぜ?」
 驚き他の三人を見ると彼らもまた、安心していいよという顔をアスモに向けていた。 アスモは起そうとしていた身体を再び大地に横たえるとナゲヤリな、しかし少し嬉しそうな様子で言った
 「…もう好きにしてよ…」

 この戦いの後嘉音のことはアスモの頭からすっかり消えていたので朱志香が彼とファントムの繋がりを知るのはまだ先の話となる……

《This story continues--Chapter 13.》


《追加設定》
 
 ※幻想怪人トリアーエズ:今回の作戦のために急遽用意された怪人、性能面では問題ないが時間がなかったため造形が適当である。 ちなみに某地球連邦軍の戦闘機とは何の関係もない
 さらに書き手が執筆しながらやっぱり怪人もいるよな〜という思いつきでとりあえず出したのでこんな命名となったのはどうでもいい裏話である(笑)

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