『今回予告』
俺、右代宮戦人。
右代宮っていうと、大抵の奴が「あの」って驚く。
俺の祖父様が日本有数の「右代宮財閥」の当主を務めていて、有名だからだ。
と、いっても、凄いのは祖父様や親父達だけで、おれ自身はごく普通の高校生。悩むのは将来位のもんだと思ってた。
あの時までは―――

譲治兄貴、朱志香、真里亞といういとこ達3人と遊びに来た、右代宮財閥が作った巨大遊園地『Ushiromiya Fantasyland』。
楽しく休日を過ごす俺達の前に、急遽現れた正体不明の怪人達。
一体何が起こってるんだ?
驚き逃げ惑う俺達にかけられた声、呼ばれた先に待っていたのは―――

金蔵「『六軒島戦隊 うみねこセブン』として、ファントムの幻想の魔の手から人々を守るのだ!」

ええええええ!
ちょっと待ってくれよ。じっちゃん! そりゃ、一体何の冗談だよぉおおおお!!

『六軒島戦隊 うみねこセブン』 第1話 「うみねこセブン誕生」

戦人「俺達の力で、この幻想を引っくり返してやるぜ!」




 機械に埋め尽くされた薄暗い部屋―――佇む1人の老人を無数のモニターが照らしていた。

……ぃよいよ。この時…来たのですね

 モニターの向こうから、聞こえてくる小さな声。
 小ささとノイズの為、男女の判別すら容易ではない。

「うむ。準備は終わった。いつでも、戦える用意は整っている」

 老人は静かにモニターの向こうの人物へと語り続ける。
 その瞳には強い意思の力が込められていた。

ありが……ございます…
「いや、これもおまえの助力あっての事だ。後足りないのは戦士だけだが……」

 苦渋の表情を浮かべる金蔵。その視線が、コンソールの上に置かれたボックスへと注がれる。
 赤いビロードの上には、光を照り返して輝く透明な6つの宝玉。

………は…反対です! その……を、防ぐ為に、………達を……………めに、……まで……んです
「うむ。わかっておる。私とて、思いは同じだ。そのような光景は見たくはない。だがな……」

 老人は言葉を切って、宙を仰いだ。
 遠い彼方を見通すかのように。

「もし、その時が来たならば、私は動くだろう。皆を守る為に。それが『右代宮金蔵』のやるべき事だからだ。おまえが今、そこにいるように」

 老人―――右代宮金蔵は、強い決意を瞳に宿らせ、そう告げた。

……………………

「どちらにしても、選ぶのは本人達だ。己の未来を選ぶ権利は、彼ら自身にあるのだから」





 【オープニング】

 東京近郊にある巨大遊園地『Ushiromiya Fantasyland』。
 メルヘンチックな色で飾り付けられた園内を、様々な格好をした人々が、笑顔で歩いていく。
 その中に、仲良さそうに歩いていく4人の男女の姿があった。
 高校生位の元気そうな少年少女に、小さな女の子、その3人を笑顔で見つめる青年。

「相変わらずでっかい遊園地だよな〜!」

 中央にある城を見上げながら、感心したように声を上げる少年。その周りを王冠型の髪飾りをつけた女の子が駆け回る。

「でっかい、でっかい、うーうー♪」
「真里亞、ご機嫌だな〜」
「うん! 戦人達と一緒に遊園地だもん。とっても楽しいよ」
「そか。よーし、肩車してやろう」
「わーい!」

 戦人に肩車をして貰い、ご機嫌の真里亞。

「おーい、真里亞ちゃん、戦人君。あんまりはしゃいでいると転ぶよ」
「ったく、戦人の奴、相変わらずガキみたいだよなぁ。恥ずかしいぜ」
「朱志香ちゃんも、遠慮なく混ざっていいんだよ。遊園地は誰でも、子供にかえる所なんだからさ。と、いうか、実際僕達はまだ子供だけどね」
「譲治兄さんは違うだろ? 成人してるんだから、立派な大人じゃねぇか。落ち着いてるしよ。ごめんな。そんな大人な兄さんの貴重な休みを潰させてしまってさ」
「いや、久しぶりにいとこ達で遊びに来る事が出来て嬉しいよ。縁寿ちゃんも来れたら良かったんだけどね」

 譲治の言葉に僅かに表情を曇らせる朱志香。

「楽しみにしてたみたいだもんな。風邪だから仕方ないけど……」
「縁寿ちゃんが治ったら、また改めて来たいね」

 彼ら4人は、共に「右代宮」を姓に持ついとこ達であった。
 縁寿というのは、6歳になる戦人の妹である。

「だな。チケット代とかかかる訳じゃねぇし。簡単に遊び尽くせない広さあるし。ほんとにでかい遊園地だよなぁ」
「お祖父様が、右代宮家の総力をかけて作ったと言われる所だからね」
「稼いだ莫大な財産の大部分をつぎ込んだって話だよな。祖父様が、これを言い出した時は、みんな気が違ったのかと思ったらしいし……私が両親の立場でもそう思うぜ」
「確かに、いきなりのアミューズメント事業進出だからね。無理もないよ。でも、それを立派に形にして、成功したんだから、流石だと思うよ」
「まぁ、そうだな。最近は本家がある六軒島の方で、色々やっているみたいだけどな。今度は何するつもりなんだろうなぁ」

 右代宮といえば、知らぬ者のない日本有数の大富豪である。
 当主である金蔵の元、様々な事業を行っているが、アミューズメント系の事業は、この遊園地のみだった。
 その為、金蔵にどんな心境の変化があったのか、当時は随分話題になったという。

「おーい、兄貴、朱志香〜! 何のんびりしてるんだ〜。人気アトラクション埋まっちまうぜ〜」
「うーうー! 早くする〜!」

 笑顔でぶんぶん手を振る2人。

「おっと、そうだった。せっかく来たからには楽しまないとね」
「だよな。今行くよ!」

 並んで駆け出す2人。眩しい光が彼ら4人を照らし出していた。



遊園地の中、様々なアトラクションで遊ぶ4人。
映像に写された怪物達の中を走っていく「ミラージュ・コースター」で悲鳴を上げ、「マッハボート」という名の急流滑りで水を被り、メリーゴーランドや汽車でゆったりした一時を過ごす。
先頭にたって引っ張る戦人、大きな目を輝かせて、何にでも興味を示す真里亞、元気で快活な朱志香に、落ち着いて皆をフォローする譲治。
楽しい一時が過ぎて行った。




「戦人ー! 大丈夫?」

 蒼白な顔のまま、ベンチでへたっている戦人を、ちょんちょんとつつく真里亞。

「ったく、ジェットコースター一つで情けねぇぜ」
「……う、うるへぇ。俺はああいう高くて揺れる奴は大の苦手なんだよ」
「まぁ、あれは大人でも結構怖い人多いみたいだからね。ジェットコースターとホラーのミックスだし……もっとも、戦人君は、映像見ている余裕なかったみたいだけどね」
「そりゃ、あれだけ、落ちるー、落ちるー、騒いでりゃぁな……一緒に乗ってて恥ずかしかったぜ。小学生の真里亞が平気だっていうのに……」
「真里亞、とっても楽しかったよ! お化け大好き! うーうー♪」

 朱志香の視線を受けて、ぶんぶん腕を振る真里亞。凄く楽しそうだ。

「俺だって吸血鬼や幽霊なら、どれだけ出ても、なんともねぇっての。あのスピードと揺れが……うううう……」

 思い出してしまったらしく、口元を押さえて呻く戦人。
 そんな戦人の目の前へと、冷たいお茶のコップが差し出される。

「無理しなくても良かったのに……まぁ、そういう優しい所が戦人君らしいけどね」
「兄貴。サンキュ。ふーっ、生き返るぜ」

 お茶を飲み干す戦人。

「うー、戦人、真里亞のせい? 真里亞が乗ろうって言ったから?」
「真里亞のせいじゃねぇよ。乗るって決めたのは俺だからな。高校生にもなって、ジェットコースター乗れないってのも恥ずかしいしな」

 戦人は、ぽんと真里亞の頭に手を置いて微笑った。

「その割には、ギャーギャー喚いてたけどな〜」
「朱志香、うるせーぞっ!」
「はははは……苦手は誰にでもあるよ。じゃ、そろそろ次に……ん?」

 遠くで爆撃音が響いた。
 小さく悲鳴のような声が聞こえて来る。

「何だ?」
「何かのイベントとかアトラクションじゃないのか?」
「うーん、この時間帯にイベントとかあったかな?」

 朱志香の指摘に、手元のプログラムに目を落として、首を傾げる譲治。

「……うー、違う」
「違う?」
「何が違うんだい。真里亞ちゃん」

 真里亞の表情が変わっていた。
 焦点の合わない瞳が、騒ぎの方向へと向けられる。

「力、感じる……」

 小さな呟き。次の瞬間、脱兎の如く、駆け出す真里亞。

「おい、真里亞!」
「真里亞ちゃん!」

 慌てて、その後を追う戦人達3人は、真里亞が向かった先から、血相を変えて、逃げてくる人々とすれ違う。

「何だ?」
「何かあったのは間違いないみたいだね」
「真里亞!」

 一番に飛び出した戦人の手が、真里亞の手を捉える。

「メェ〜!」
「な、何だ。こいつらは?」

 小さな出し物を行う屋外広場―――そこに今まで見た事のない光景が広がっていた。
 黒服に身を包み、黒山羊の頭を持った怪人達の集団が、手から光り輝くブレードのようなものを出現させ、看板等を破壊していたのだ。
 それだけでも、ありえない光景だが、被り物をしていると思えばいい。
 何より戦人が驚いたのは、彼ら(?)の頭上だった。

「山羊さん達、その調子よ。我ら『ファントム』の恐ろしさを、人間達に見せ付けてやりなさい!」

「う、浮いてやがる……」

 アトラクション用のコスチュームのような、露出度の高い衣装を纏った長髪の女性が、山羊達の上空で指示を出していたのだ。

「戦人!」「戦人君!」

 後から追いついて来た譲治と朱志香が、戦人の横で、同じように息を呑む。

「これは一体……」
「マジ…かよ」

 3人の視線の先、山羊さんのブレードが振り下ろされた部分の白い石造りのベンチが、一瞬にして、混沌とした色合いへと変わった。
 昼下がりの眩しい光に照らされた遊園地が、彼らを中心に、じわじわと別のものへと変化していく。

「い、いや、ワイヤーか何かあるんだよ! それで……」

 咄嗟に否定する戦人。
 その瞬間、戦人を中心に、混沌とした周囲の光景が揺らぎ、一瞬元の色鮮やかな風景へと切り替わった。
 だが、直ぐに元の混沌に戻ってしまう。

「メェ?」

 その状況に気付いた山羊さんが一斉に反応する。

「う、嫌な予感が……」
「あら、まだ人間が残っていたのね。丁度いいわ」

 危険を感じ、後ずさる戦人達。

「夢…じゃないのか? 『やられた!』と思った所で目が覚めるとか……」
「確かに、ありがちだよな」
「そうだと思いたいけど……試してみるのはお薦め出来ないね」
「夢違う! うー!」

 顔を見合わせる面々。

「貴方達の力を見せてやりなさい!」
「メェー!!」

「逃げるよ!」
「真里亞、行くぞ!」

 譲治の言葉に、真里亞の手を握ったまま駆け出す戦人。
 すぐ後ろに朱志香、譲治と続く。

「待ちなさい! 山羊さん達、追うのよ!」
「メェエエエエエ!!」

 命令に従い、一斉に追いかけてくる山羊達。どこにいたのか、圧倒的な数で追いかけてくる。
 普通に考えれば、捕まるのは時間の問題だろう。
 だが、この『ファンタジーランド』は、右代宮家が作った遊園地だ。
 地の利は戦人達の方にある。
 4人は、途中のアトラクションを抜けて、なんとか山羊さん達をまく事に成功した。

「はぁ、はぁ……ったく、どうなってるんだ?」
「と、とにかく、警察に連絡を……」

 譲治の取り出した携帯から、着信音が響いた。携帯を開き、表示を確認する。

「お祖父様からだ。はい。譲治です。今、遊園地で大変な事が……え? 『ハロウィーン・ミラー・ハウス』? なんでいきなりそんな所……お祖父様! お祖父様!」

 電話機に向かって叫ぶが、既に切れてしまった後らしい。

「兄貴、どうしたんだ?」
「『ハロウィーン・ミラー・ハウス』に行けって」
「それってあれだよな。お化け屋敷と鏡の迷路を足したような……メルヘン系ホラーハウスの」
「そう。警察に連絡せずに、そこに行けっていう話なんだけど……?」
「とにかく行くしかねぇんじゃないか」



「ハロウィーン・ミラー・ハウス」に向かった戦人達は、金蔵の支持に従い、鏡の通路に隠された回転扉から、隠し部屋へ。
そこは、それまでのハロウィーン風とは違い、大きなスクリーンをはじめとした近代的な設備に包まれていた。
驚きつつも、指示通り、隅にあった円筒形の装置に足を踏み入れる。
瞬間、戦人達の姿は消え、一瞬後に、別の場所へと出現していた。




「あれ? さっきと部屋の感じ違わないか?」
「良く来たな」

 目の前には、見た事のない衣装に身を包んだ金蔵の姿があった。

「お祖父様!」
「祖父様、今日は六軒島だったんじゃ……」
「ここは、六軒島にある『うみねこセブン』本部だ。おまえ達は緊急招集用転送ポット『ガァプシステム』によって、遊園地にある支部から転送されて来たのだ」

「うみねこセブン?!」

「そう。奴ら『幻想結社「ファントム」』と戦う我らが組織の名前だ。同時に直接『ファントム』と戦うおまえ達戦士の名前でもある」

「え?」

「おまえ達は『六軒島戦隊 うみねこセブン』として、ファントムの幻想の魔の手から人々を守るのだ!」

「ええええええええっ!」


 【アイキャッチ(CM)】


「ちょっと待ってくれよ。じっちゃん! そりゃ、一体何の冗談だよぉおおおお!!」

 思わず盛大に突っ込む戦人。
 反応こそ戦人に遅れたものの、譲治、朱志香も気持ちは同じだ。

「話を聞かせて貰えますか?」
「うむ。おまえ達も見ただろう。『ファントム』の超常的な力を。彼らはその魔法の力によって、人々を苦しめ、人間界を侵略しようとしているのだ。私は、その事を知り、この日の為に、この拠点をはじめとする様々な物を作り上げた。その最たるものがこれだ」

 金蔵は机の上に置いていた大小二つのボックスを開いた。
 大きい方には、中央に丸い窪みがある金色のブレスレット。小さい方には、光を照り返して輝く透明な6つの宝玉が収められていた。

「この宝玉……コアには、魔法の力を打ち破れる大きな力が込められている。だが、その力を引き出し使う為には、強い意思とコアに反応する特定の資質が必要だ。その資質を持つ者の数は非常に少ない。だが、我が右代宮一族の血には、それが色濃く含まれている。故におまえ達なら、このコアを使い、戦士となる事が出来る筈だ」
「って、言われてもなぁ……」
「お祖父様の言われる事ですから、冗談とは思いません。ですが、随分急な話ですし、正直混乱しています……」

 顔を見合わせて、困ったように顔を見合わせる朱志香と譲治。

「そうだな。……コアに選ばれるには、資質以外に強い意思が必要だ。その意思がなくば、力を引き出す事は出来ぬ。故に無理強いするつもりはない。ゆっくり考えてくれ」

 静かに語る金蔵。その瞳に強い力が宿る。

「……と言いたい処だが、時間がないのだ」

 金蔵の手がコンソールに伸びる。正面のスクリーンに映し出されたのは、明るい色合いの遊園地を染めていく山羊さん達の姿。
 逃げ惑う人々。驚きの叫び。子供の泣き声。

「酷ぇ……」
「好き勝手やりやがって!」
「……うー、皆…泣いてる……」

「警備員や警察では、奴らを止める事は出来ぬ。止められるのは……」

「俺達……なのか」

 無意識の内に目の前に翳した手の平をぎゅっと拳を握り締める戦人。ボックスの中の宝玉の一つがぼうっと赤い輝きを発する。

「このコアが力を貸してくれると言っても、危険な事には変わりない。出来る事なら孫のおまえ達を巻き込みたくはなかった。この日が来なければいい、他の者が現れてくれればいいと思っていた。だが、事ここに至っては、私は『うみねこセブン』司令官として、最善と思える行動を行う。故におまえ達を呼んだのだ」

「事ここに来ては、可能不可能を論ずる意味はない。『やる』か『やらない』かという事ですね」

 スクリーンを見上げる譲治の瞳が鋭さを増す。その向こうを見据えるように。
 隣の宝玉に淡い緑の光が灯る―――続けて灯火のような黄色い光が。

「だよな。正直半信半疑だけど、このままここで、あれを見ているよりマシだよな」

 戦人、朱志香、譲治、3人の視線が交差する。

「おし! 一か八かだ! その賭けに乗ってやるぜ!!」

 拳を突き出す戦人。その上に、朱志香、譲治が手を乗せる。

「真里亞もー!」

 重ねられる小さな手。

「「「え?」」」

「ちょっと待て。真里亞」
「いくらなんでも、真里亞ちゃんには無理だよ」
「そうだぜ。危ねぇから、ここで大人しく……」

「真里亞も行く! 行くの!! 行って皆を助けるの!!」

 頬をぷっと膨らませ、地団駄を踏む真里亞。

「って、言われてもなぁ……」
「皆泣いてる! 楽しい場所をあんな風にした! 真里亞絶対に許さないっ!!」

 強く力強い叫び―――瞬間、ボックスから桜色の光が飛び出し、周囲を照らし出す。
 真里亞の頭上に、眩しい程の光を放つ、桜色の宝玉が浮かんでいた。
 宝玉はそのまま、ふわりと舞い降り、真里亞の手の平の上へと落下する。

「これは……」
「確か透明だった筈じゃ……」

「やはり、選ばれたか……」
「お祖父様、これは……」
「コアが皆を守りたいという真里亞の強い意思に応えたのだ。こうなってしまっては、真里亞以外の者にそのコアを使う事は出来ぬ。今ここにある他のコアがお前達の遺志と、共鳴しているように……」

 手元のコアボックスを示す金蔵。
 6つあった宝玉の一つが消え、3つが赤、黄、緑の淡い光を放っている。

「まだ子供ではあるが、それ故に真里亞の資質……潜在能力はおまえ達の誰よりも高い。止める事は不可能だろう」
「うー! 真里亞、皆と一緒に戦う!」
「真里亞……」

 金蔵はボックスを差し出した。
 釣られたように手を伸ばす3人に呼応し、宝玉が強い輝きを放ち、自らの主の下へと飛んでいく。
 受け止め、握り締める。拳の間から押さえきれない輝きが漏れ、周囲を四色に染めていく。

「おお……」

「感じるぜ」
「強い力、熱い想い……」
「教えられずとも、やるべき事が視えるね」
「うー、皆を助けに行く!」

 瞳を開き、4人同時に頷く。
 その姿に、金蔵の口元に笑みが浮かぶ。

「よし。『六軒島戦隊 うみねこセブン』出動だ!」

「「「「了解!!」」」」



「徹底的にやりなさい! 我ら『ファントム』の名を、知らしめてやるのよ!」

 空中から山羊さん達に指示を飛ばすルシファー。

「しかし、歯ごたえがないわね。これじゃ、あっという間に目的達成出来てしまうんじゃないかしら」

「そこまでだ!!」

 声の方へと振り返るルシファー。
 そこに揃いのスーツに身を纏った4人の戦士の姿があった。

「上等キメてくれた落とし前、受けてもらうぜッ!!うみねこレッド!!」
「乙女の拳をナメんじゃねえっての!うみねこイエロー!!」
「たくさんの人々を傷つけた罪、軽くはないよ。うみねこグリーン」
「うー。みんな泣いてる。許さないッ!うみねこピンク!!」

「輝く未来を守るため! 『六軒島戦隊 うみねこセブン』参上!!」

「俺達の力で、この幻想を引っくり返してやるぜ!」

 レッド(戦人)の啖呵に、ルシファーの顔に笑みが浮かぶ。

「少しは面白くなりそうね。私は、魔女の上級家具リーダー ルシファー。《黄金の魔女》ペアトリーチェ様に使える者よ。我らがベアトリーチェ様の邪魔をする者は排除させて貰うわ。おまえ達行きなさい!」

 ルシファーの言葉に押し寄せてくる山羊さん達。

「ばと……もとい、レッド、やれそうかい」
「もちろんだぜ。あに……グリーン! 力が漲って溢れそうだぜ!」
「やっちゃえ! やっちゃえ! うーうー!」
「よぉーしっ! 行くせ!」

 頷き、真里亞を中心に陣形を作る戦人達。

「まずは俺から行くぜ! 幻想を消し去る銃が唸りを上げる。突き抜けろ!『レッド・ガンナーズ・ブルーム!!』」

 レッドの手にした銃から、赤い光が放たれる。



見事な連携により、次々に敵を倒していく戦人達。
山羊さん達が消えていくと同時に、その破壊の傷跡が、元の遊園地へと戻っていく。



「なかなか。やるわね。こうなったら私が……!」
『ルシファー』

 辺りに、場を圧するかのような、女性の声が響いた。

「ベアトリーチェ様」
『今日はもう良い』
「しかし……」
『そこまで山羊達が倒されてしまっては、同じ状況に持っていくのは難しかろう。そやつらとの決着はまたの機会で良い』
「かしこまりました。帰還致します。おまえ達、運が良かったわね。今日の所は下がるけど、次はそうは行かないわよ」

 そう告げ、ルシファーの姿は開いた空間に溶け込むように消えた。

 そして……元の平和な光景が訪れる。

「終わった〜!! 確かに戦えるけど、滅茶苦茶疲れるじゃねぇかよ。これ」
「うー、戦人。大丈夫?」
「真里亞、おまえ杖からあんだけバリバリ飛ばしてたのに、元気だなぁ」

 にこにこ笑顔の真里亞に苦笑する戦人。

「真里亞の潜在能力は凄いって話だから、その影響じゃねぇか? ま、何にしても、何とかなって良かったぜ」
「あの声に助けられた部分が大きいね。あのルシファーっていうリーダー、今の僕達の力だとかなり危なかったと思うよ」

 冷静に分析する譲治。
 大の字に転がったまま、にやりと笑う戦人。

「あの姉ちゃんか。せっかく美人でいい乳してんのに、もったいないよなぁ」
「おいこら、戦人! よりによって、言う事はそれかぁ?」

 しみじみ呟く戦人に、呆れたように突っ込む朱志香。

「そこは重要だろ。おっぱいソムリエとしては!」
「戦人、おっぱいソムリエってなぁに?」
「あ、えー、それは、真里亞がもっと大きくなってから……うぎゃ!」
「言わんでいい!!」
「朱志香ぁ! メリケンサックで殴るのはやり過ぎだろぉ!」
「自業自得だよ。なんだったら、あんたの頭から余計な記憶が抜けるまで、お見舞いしてやろうか?」
「げげっ……そりゃ勘弁」
「うーうー♪」
「ははははは」

 じゃれ合う3人を笑顔で見守る譲治。
 その口から小さな呟きが漏れた。

「《黄金の魔女》ベアトリーチェか……」



 薄暗い闇の中、奥に据えられた黄金の玉座。
 そこに、彼の人の姿があった。
 黄金の髪を高く結い上げ、豪奢なドレスを身に纏った女性―――黄金の魔女、ベアトリーチェ、その人である。
 室内には、他にもいくつかの影が存在していたが、その輝きと自信に満ちた姿は、彼女が長である事を雄弁に語っていた。

 その眼前に跪くは《煉獄の七姉妹》長女、ルシファー。
 途中で退かなければならなかった状況に思う所はある筈だが、その面に浮かぶ事はない。

「……報告は以上です」

「なるほど……な。今の人間達のレベルでは、そのような事が出来る筈はないが……何かあったのかもしれぬな」

 キセル片手に、考え込むように宙を仰ぐ。

「まぁ、良い。簡単に目的が叶ってはつまらぬわ。多少の余興はあっても良かろう」
「ベアトリーチェ。油断は慢心に繋がりますよ」

 投げ掛けられた落ち着いた声に、悠然と構えたその表情がしかめられる。

「そのように言わずともわかっておるわ。ったく相変わらず口うるさ…」
「……何か言いましたか?」
「い、いや、別に……」

 口ごもるベアトリーチェ。反対側から、楽しそうな笑い声が起きる。

「ほんっと、心配性よねぇ。怒ってばかりいると、眉間に皺が出来ちゃうわよぉ」
「なっ……」
「おっと、冷静にいきましょう。気をつけないと、その皺が固定化する危険がありますよ。ぷっくっく」

 微妙な緊張感が周囲に漂う。
 コン!と、キセルを手すりに叩きつける音が響いた。皆の視線がベアトリーチェに集まる。

「次会った時に、思い知らせてやればよかろう」

 口元に楽しげな笑みを浮かべ、立ち上がる。

「くっくっくっくっく……多少力があるとは言っても、たかだか4人……我ら『ファントム』の敵になろう筈がない。我らが悲願が叶うのももうすぐよ! くっくくくくはっははははははははは!!」

 魔女の哄笑が辺りへと響き渡った。


 【エンディング】


《This story continues--Chapter 2.》




《追加設定》
「ハロウィーン・ミラー・ハウス(Halloween mirror house)」【うみねこセブン 支部】
遊園地のアトラクションの一つ。
ハロウィーンを題材に、鏡を組み合わせた、ホラーハウス。
ただし、子供向けのメルヘンタッチに作られている為、余り怖くない。
一つの鏡に仕掛けがあり、潜り抜けると、地下にある「うみねこセブン」の支部へ繋がっている。
支部には、巨大モニターがある会議室や、戦士達の私室や練習所等に加え、本部に一瞬で移動出来る、緊急招集用の転送ポット『ガァプシステム』が用意されている。



イラストは最初という事で、天さんの「うみねこセブンロゴ」を使わせて頂きました。
天さん、ありがとうございます。


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